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【コラム】なぜ陰謀論者ほど「真実」という言葉を口にするのか

note 初投稿です。 
この記事では、主に陰謀論者が使う特有のロジックについてを扱います。
タイトルの答えが早く知りたい方は、目次から「疑問②」まで飛んでください。


はじめに

「真実を発信しています」

「”正しい”歴史を知ってください」

「中立的な視点が大事だ」

「教科書を鵜呑みにするな」

「自分の頭で考えましょう!」

陰謀論者ほど、高頻度でこのような言葉を使う傾向がある。これらに共通するのは、「自分は正しさを追い求めている」ということを大っぴらにアピールしているという点だ。

(上記投稿は、同じ画面内に3つも「真実」が並んでいるのが興味深い)

試しに、Xなどで「真実」と検索をかけみてほしい。陰謀論者による投稿がかなりの数ヒットするだろう。

ここで、読者の皆様は次の二つの疑問を持つに違いない。

疑問①:真実を求めることはいたって真っ当なことではないか。おかしいことはなにもない。

疑問②:陰謀論者って、真実を軽視する人たちのはずでは。なぜわざわざ「真実」なんて言葉を口にするの?

疑問①:真実を追い求めることはいいことなのでは?

まず、疑問①についてお答えしたい。初めに断っておくが、真実を求めること自体は何も問題ではない。私がここで問題にしたいのは、わざわざ「私の主張は真実です」などと大っぴらにアピールすることだ。両者の間には大きな違いがある。

当たり前のことだが、私たちは全ての情報を「真実」として発信している。これは、陰謀論者であろうがなかろうが同様である。そして、良識のある人間であれば、わざわざ「私の言っていることは”真実”です」などとアピールしたりしない。なぜなら、それを言うことによって少しも情報量は増えないし、主張の根拠にも一切ならないからだ。

東日本大震災は人工地震です❗
真実に気づいてください❗
メディアに騙されないで、自分の頭で考えて行動しましょう❗

2行目以降の記述は、「東日本大震災は人工地震である」という主張の論理的な根拠には一切なっていないことに注目してほしい。

もし自分の言ってることを真実だと示したければ、いちいち「真実」なんていう言葉は使わず、ただ相手が納得する根拠を提示する。それこそが、理性的なコミュニケーションのあり方である。「真実」と声高に叫んでいることは、その人が真実を告げている証拠には決してならない。

疑問②:なぜ陰謀論者は「真実」と言いたがるの?

では、なぜ陰謀論者は「真実」という言葉を口にしたがるのか。ざっくり言えば以下の二つの理由に分けられる。

  1. 陰謀論者の世界観

  2. 説得戦略としてのコスパのよさ

1. 陰謀論者の世界観

陰謀論者の根底には、共通して次のような世界観がある。

  • 大きな権力が真実を隠蔽している

  • 大多数はその真実に気づいていない

  • 自分たちはその真実を明らかにするために戦っている

この世界観に基づけば、彼らにとって、自分たちの行いは真実を明らかにするための正義の戦いなのである。つまり、陰謀論者の自己認知は、「真実を軽視するデマの拡散者」ではなく、「真実を誰よりも追い求めるヒーロー」なのである。そう考えれば、彼らがやたろと「真実」と言いたがる気持ちも理解できるだろう。彼らの世界観を考慮に入れない限り、彼らの言動を理解することは不可能である。

※陰謀論者の心理については、以下の記事に詳しいのでご参照のこと。

(2024/6/4 閲覧)

2. 説得戦略としてのコスパのよさ

陰謀論者が「真実」と口にしたがる理由の二つ目は、このような言葉が、根拠を一切示すことなく正しさを演出することができるためである。まずは、以下の3つについて見ていこう。

「真実を発信しています」
「”正しい”歴史を知ってください」
「中立的な視点が大事だ」

先ほども言ったが、これらの主張はごく当たり前のことである。まさに「言うは易し」というべき代物である。しかし、情報の受け手の中には、これらの言葉を見ただけで「この人は正しいことを言っているんだ」、「この人は他の人よりも、真実を追求しようとしているんだ」と思う人間が一定数いるのである。つまり、言うだけで説得力があがるのである。発信者からしてみればこれほどコスパのよいものはない。

次に、以下の二つについて見ていこう。

「教科書を鵜呑みにするな」
「自分の頭で考えましょう!」

これらの主張は、一見すると「情報リテラシーをもった妥当な主張」であるように感じられるだけに非常に厄介だ。例えば、次のような会話を想像していただきたい。あなたなら、このような主張にどう反論するだろうか。

陰謀論者「地球は平面であるのに、科学者はそれを隠している。地球が丸かったら水が全部落ちてしまうはずだ。」

あなた「それは地球の中心方向に重力が働いているから大丈夫なんだよ。中学校で習わなかった?」

陰謀論者「お前は学校で言われたことを妄信しているのか。自分の頭で考えろよ」

この陰謀論者の問題点は、相手が「学校で習った」ことを理由に球体説を信じていることを批判する一方で、自分が平面説をなんらかの情報源で信じていることに疑いを向けようとしていないことにある。よって、彼に対して多少なりとも有効な反論は、こうである。

あなた「じゃあ君は誰の情報を信じて地球平面説を信じたんだい?それは学校よりも信頼できる情報源なのか?」

陰謀論者の言う、「教科書を鵜呑みにするな」や「自分の頭で考えましょう!」が問題であるのは、この言説そのものが間違っているからではない。問題なのは、彼らがこのような主張を、「一方の情報源(学校、研究機関、政府)を信じず、他方の情報源(自分の発信、特定のネット記事やYouTube)を信じる」ことを正当化するためのロジックとして使っているためである。「教科書」を疑うのであれば、少なくともそれと同等には、ネットの情報も疑ってかかるべきである。しかし彼らはそれをしない。

「教科書を鵜呑みにするな」
「自分の頭で考えましょう!」

上記の文句はどちらも、常識とされるものを無条件で否定することができる魔法の言葉である。それどころか、「常識であること」自体を、真実でないことの証拠としてしまう倒錯したロジックがここにある。

常識を信じている

既存の情報を妄信している

よって間違っている

このロジックのもとでは、常識を信じることは即ち思考停止であり、常識に反する考えを持っていることは即ち正しいことなのである。これが陰謀論者にとって非常に都合のいい考え方であることは明らかだろう。

まとめ

陰謀論者ほど、「真実」の重要性や、「自分で考える」ことの必要性を訴える傾向がある。この主張自体は誤りではない。むしろ、当たり前だからこそ、陰謀論者でない人間はわざわざそれを口にしたりしないのである。しかし、陰謀論者はこれらの言説を、自らの偏った思考を正当化するために用いていている。

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