chapter.6 エッグスタンドは、朝焼け色に染まって・・
「卵の調理法ってさ、沢山あるよねー。
オムレツでしょ、ポーチドエッグ、スクランブルエッグにサニーサイドアップ。
そしてこれ。ボイルドエッグ。
それはさ、生命の源である卵に、人が最大の敬意を払っている証拠だと思うんだよね。」
テーブルの上にはイングリッシュフルブレックファストか?と思うくらい、豪華な朝食が並んでいる。
「……。
朝っぱらから受験生叩き起こしてなに語ってんだよ。姉ちゃん」
そう言いながら、渉は殻付きゆで卵がすっぽりと収まった小さなカップに目を留めた。
(あぁ、これか。)
「我慢なさい。
夏の講習の間、私はあんたのお世話係を任されてるんだから。」
「いや、お世話って…
朝ごはん作ってくれたの、今日が初めてだよね。」
「そこ突っ込まない。」
「おおかた、この陶器の卵カップが使いたくて張り切ったんだろ?」
渉は小さなカップの縁をツンツンと弾いて見せる。
「おっ!
さすがは美大志望生。
お目が高い。」
「ええー…」
「最近ハマってるイタリア映画があってさ、その中に出てくるのよ。
こうやって半熟卵食べるシーンが」
夕実は銀色のスプーンで卵の頭をトントンと小気味よく叩きはじめる。
「どーせまたこれ、何日もしないうちに小物入れか何かに化けるんだろ?」
「黙りなさい。」
「でも、この色、いい色だな。」
渉はカップを持ち上げて見る。
「カドミウムオレンジ… いや、スカーレットかな…」
「そうでしょう?
素敵な色でしょう?
私はこのエッグスタンドに『朝焼けカップ』と名付けたの。」
「和風かよ… 」
「うるさい。
さっさと食べなさい、受験生。」
「はいはい。」
渉は姉を習って卵を割り、とろりとした黄身をすくって食べる。
(旨いなこれ)
にわかヨーロピアンな食卓は、差し込んできた朝陽に照らされて鮮やかさを増す。
(朝焼けカップね…
まぁネーミングセンスは置いといて、ブレックファストのお供に、このオレンジ色は、悪くないかもしれないな。)
渉は小さなカップを手に取って、陽の光に翳してみせた。
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