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chapter.1 ライカとメビウスの輪

「人を探してるの。」

女友達は言った。

「もう5年も探しているんだけど、なかなか見つからなくて…」

聞けば、捜索している相手はネットの中に居るという。

「そりゃ難しいでしょうよ。」

膨大なデータと検索ワードが溢れるインターネットの世界。
その中でお目当てをサーチするのは一見たやすい事の様に思える。

ただ、ヒトに関しては別だ。

ヒトはモノと違って成長もすれば変化もする。
まして、ネット上のヒトならばそれがリアルかバーチャルなのかも分からない。

「でもね、この間、ECサイトでそれらしい人を見つけたの。」

「え、ECサイト?」

「そう。
夏のボーナスで新しいカメラが欲しいなと思ってさ、ECサイトをのぞいてたら私好みのカメラがあって、一目惚れ。」

「遥、写真好きだもんね。」

旅行に行く時はいつも遥が撮影担当だったっけ。

「そう。で、気になってレビューとか読んでたら、見覚えあるハンドルネームを見つけて。
独特な語り口調。的を得たレビュー。もしかして・・と思ったのよ。」

「え、それが彼女なの?」

「分からない。
でも思いだしたの。
彼女のパパがフリーカメラマンで、ライカの一眼を愛用してたってこと。
華奢な彼女が選ぶなら、パパが使ってる様なゴツい一眼じゃなくて、こんなスマートなライカだろうなと思った。」

「ええ、それだけで言い切る?」

遥は閃きと求心力で生きてるような人だ。
どういうわけか昔から、彼女が望むものは向こうからやってくる。
悔しいけど。

でも、さすがに今回はどうだろう。
そんなに都合の良い巡りあわせってあるだろうか。

「で、遥から何かアクションは起こしたわけ?」

「まだ。
レビューやコメント欄でメンションするのもね・・。

でもね、私気がついたのよ。
たぶん、インスタなら見つけられる。」

彼女は言った。

「なんでインスタ?」

「世の中にはさ、自分にそっくりなヒトが三人居るっていうでしょう?
彼女はきっとその一人。

彼女とはネット上にあるコミュニティで知り合ったんだけど、コメントをやり取りしていく中で思ったの。
あ、この人、私に似てるなって。
性格もそうだし、たぶん、顔や、声もね。

だから、わかる。
彼女の撮りたい場所、モノ、アングル。
うん。彼女の写真なら、きっと私見つけられる。」

女友達はそう言うと、確信に満ちた笑みを浮かべた。




ネットの世界は、ある意味メビウスの輪だ。
裏も表も分からない、果ての無い空間。
情報は常に書き換えられ、変化していく。

でも、誰かが切り取ってフラグとして残したモノはいつまでも存在する。
検索可能なモノとなる。

なるほど。
彼女の人探しは、もう直ぐ終わるのかもしれないな…。

気になって、ECサイトで話題のライカを検索してみた。

『LEICA D-LUX7』

ライカの名にふさわしく、重厚かつ繊細な佇まい。

確かに…
彼女にも、似合いそうなカメラだ。



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