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Review「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」(ネタバレ有)

高校の吹奏楽部を舞台とした、京都アニメーション制作のアニメ『響け!ユーフォニアム』(以下、ユーフォ)。2015、16年にTVシリーズで1年生編が、2019年に劇場版で2年生編が制作された。そして2024年4月にTVシリーズで3年生編の放送が予定されている今、OVAとして劇場公開されたのが今作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』だ。時系列としてもちょうど2年生編と3年生編の間の時期にあたる。



アンサンブルとは、吹奏楽において2人以上の重奏のことをいう(劇中では3~8名)。3年生が引退し、総勢65名となった北宇治高校吹奏楽部の部員たちは、自分たちでメンバーを決めチームを組み、コンテストに出場できる1枠をかけた校内オーディションに挑む。主人公の黄前久美子(cv黒沢ともよ)は慣れない部長というポジションに悩みながら、メンバーを集められなかった後輩や技術の追いついていない部員のフォローに奔走することになる。


これまでの『ユーフォ』シリーズと違い、今作はシリアスな展開がないぶん全体を通して温かみのある画づくりがされていた。秋という作中の季節柄もあり、窓から差し込む日差しのあかるさやインサートされる高い秋空が印象的である。部内の空気も、大きな大会と3年生の引退を終えどこか和やかさがあった。



『ユーフォ』シリーズではおなじみの、力の入った演奏シーンも今作では控えられていた。しかしそのぶん、服の擦れる音や楽器のピストンを押し込む音、ブレスの息づかいなど劇場でこそ感じられる音へのこだわりが見られた。観客を作中の空間に招き入れるような、空間を感じさせる演出に京都アニメーションらしさがある。そして今作での音の演出は、空間を感じさせるという目的のみに留まってはいない。

久美子が高坂麗奈(cv安済知佳)と同じチームとして出場を目指すことになった中盤、ふたりは麗奈が勧誘して集めたメンバーについて話す。そしていちばん最初に誘ってくれなかったことについて不満を言う久美子に、麗奈が「断れたら嫌だし」と本音をもらすシーケンス。この会話の冒頭、廊下を歩くふたりの足並みは不揃いで、足音もずれて聞こえている。しかし麗奈が本音をもらした後、ふたりの歩く足並みが揃い、聞こえてくる足音もぴったりと重なる。こうした細やかな演出が人物の心情・関係性を物語っている。『ユーフォ』シリーズはとにかく音が饒舌な作品だ。ほかにも、チームとしての演奏に不安を感じている釜屋つばめ(cv大橋彩香)がマリンバを演奏する際、カメラはマリンバの下に潜り込みトラックバックしていく。マリンバという楽器の構造の美しさが、画面のなかで音のきれいさやつばめの本来の演奏技術の高さを表していた。



アンサンブルコンテストと平行して、新部長となった久美子の不安も同時に描かれる。序盤、3年生の鎧塚みぞれ(cv種﨑敦美)と話す場面、ふたりは校舎の内と外で窓を挟んで向かい合う。このとき窓は、立て付けが悪いのかみぞれのいる内側からはうまく開かない。しかし外にいる久美子は易々とその窓を開け放つ。みぞれは久美子に「窓開けるのうまいね/窓開けるの上手でうれしかった」と言う。これはTVシリーズの1年生編で描かれたみぞれの問題とその解決に、久美子が一役買っていることを受けての発言だ。久美子が部長としての振る舞いに悩んでいることをみぞれは知らないだろうが、このことばは久美子という人物を示している。久美子はこの部において「窓を開ける人」なのだ。

もともと巻き込まれ体質な主人公である久美子は、過去作においても部員たちの様々な問題を解決している。本作でもその一面はあり、それは校内オーディション当日、久美子とつばめが体育館にマリンバを運んでいる場面。このころのつばめは、久美子の助言によってコツをつかみ演奏に自信を持てるようになってきている。これまでコンクールメンバーに選ばれたことがなく、自分の技量では当然と感じていた彼女だが、自信を持てるようになった今、コンクールメンバーになりたいと思いはじめていることを打ち明ける。「だめなんて言う人いないよ」と久美子が答えると、つばめはうれしそうに、これまでふたりで運んでいたマリンバをひとりで押していく。このとき、久美子はつばめの窓を開けたのだろう。ともに歩くわけでも、引っ張っていくでもない。ただ、窓を開け、背中を押す。自らの足で踏み出していく姿を、久美子は見送る。終盤のこのシーンに、久美子という人物が本シリーズで担っているものを垣間見た。



エンドロール後には、予告編とも思えるカットの断片が流れる。ユーフォニアムの音色、暮れていく町、銀色のユーフォニアムと他校の制服を着た少女。原作小説からして、今後は久美子自身が問題の渦中となっていくようだ。3年生編は波乱の最終楽章となるらしい。とすると一貫して和やかだった本作は、その直前の休符、嵐の前の静けさだったのかもしれない。



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響け!ユーフォニアム 公式HP

本予告

本編オープニング映像


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【過去掲載記事】
「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」

「ガールズ&パンツァー最終章」第2話

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-」

「劇場版 ハイスクール・フリート」

「劇場版 SHIROBAKO」

「泣きたい私は猫をかぶる」


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