『Starfield』航天日誌 7、8日目
【注意!】この記事はネタバレだらけです
航天7、8日目を終えて
神学者マッテオが、ユニティと言う言葉について聞き覚えがあると指摘した。スターボーンはどんな用法でこの言葉を使っていただろうか? 「ユニティを垣間見ることもない」とか? スターボーンは人類のユニティ到達を阻止したいと思っているのか? ヒントを求めて覚醒者の家に向かう。この集団の教義がまだいまひとつわかっていない。わからないことだらけだ。
聖職者に、この問題は理性や科学で理解できる範疇を超えていると言われた時、むっとしてしまった。「信仰という言葉を、物事を理性的に判断する労力を避けるための言い訳として使うのは、神学に従事するあなたたちにとっても侮辱なのではありませんか?」と言ってやりたかったが、それに当たる選択肢が現れなかった。かつて覚醒者とヴァルーンの共同体に巡礼者が現れ、ユニティに関するやりとりをしたらしい。
ユニティがどんなものであると予測するか仮説を尋ねられて、私は「完全に平等な孤立」をイメージした。それは完全に散逸しているが、その散逸の度合いが平等であるが故に、全体としては統合されている。一瞬と永遠が同義になるようなものだ。そこには自由が、単に支配の対義語ではない絶対的な自由がある。
しかし、私のイメージにかなう選択肢は現れなかった。なので次善の策である、科学的態度をとった。ユニティも観測可能な事象であり、それをあらゆる人々が観測することによって形作られると。
現実世界の私は、特定の神や(「特定の神」と言う表現が既に無神論的だが)既存の宗教を信仰しているわけではない。でも、人間の生活に広義の信仰と呼べるものが根を張っていることはわかる。それは、現実以外のものを想像し、外界と感応することができる意識に芽生える、切実で子供じみた希求のようなものだ。私もそういった意味での信仰なら持っていると思う。
初めて聖堂を見つけた星、プロキオンA星系の第3惑星に建てた拠点を拡充している。
ここは有用な資源が豊富と言うわけでもないのだが、見渡す限りの雪原とそこに露出した氷塊が美しい。私は寒い場所と雪が大好きなので、一目でここが気に入った。日照時間も大気も十分にあるので、発電には不自由しない。動植物もそこそこいるので、とりあえず水を抽出して温室を動かす。気温がマイナス10度なのだが、酸素濃度は十分で、吹雪かなければなんと普段着で外に出れる。時々モブがノースリーブで歩いてたりして引く。プレイヤーが着用できるふわもこのコートとかあるのだろうか? あったら着たい。
何より、この星で気に入ったのは、空を飛ぶ吹流しめいた原生生物がいて、それらがさえずりのような音を立てることだ。鳥とも鈴虫とも似て非なる、木材に金属ネジを回し入れるような澄んだ音がして、それが広がる雪原や、晴れた日の空の高さと相まってとても心地よく感じる。風まかせに流れていく銀色の身体は、アミューズメントパークで売っている風船のような幸福なイメージに重なる。
この雪原には、物語の冒頭で出会ったリンとヘラーに来てもらった。有用な鉱物資源がたくさんある星が人間の居住環境として妥当であることは稀で、見渡すかぎりの荒野であることも多い。そういう星にも採掘用の拠点を作りはしたが、人を住まわせる気にはなれない。月のような場所に、人間が少人数で長期間居住したら間違いなく発狂してしまう。もちろんこれはゲームなので、拠点に配備できる人員は発狂したりはしないのだが、気分の問題である。でも、私もこの先ゲームに慣れれば、荒涼とした星に人を独りきりで置き去りにしたりたりするかもしれない。
サムの葬儀に出席した。コラは母親リリアンの元に引き取られるそうだ。そこも完璧な場所ではないだろうが、危険と、胸の痛みを誘発するような思い出からは少し遠ざかれるだろう。スターボーンは、機会があればコラをさらい、彼女の命と引き換えに何か要求をしてきたりするだろうか。そのくらいの事はしてもおかしくない。技術的に可能かではなく、倫理的にそのくらいの腐敗はしていそうだ。
演壇に立ったものの、つまらない選択肢しか表示されず、つまらない弔辞しか述べられない。
ユニティなぞなぞを解いて浮上した星の《巡礼者安息の地》と言う場所に行く。楽園的な言葉の響きからは程遠い、ウランだらけの砂漠に位置する、廃棄された小さな拠点だ。この世界の人間は、ウランやプルトニウムを無造作にポケットに入れたりするから恐ろしい。パンやチーズを売る店が一緒にウランやプルトニウムを売ってたりする。売るなよ。
巡礼者はこの小さな拠点研究所で、人間たちにユニティについて教えていたらしい。しかしその言葉は発せられる側から曲解され、愚かな人間たちを教育する慈悲はあれど前進のない日々に、巡礼者は倦み悩んでいたようだ。他者に伝えるためと言うより内省のために書かれた文章で、判然としない部分も多いが、少なくともこの時点の巡礼者は、人類を導こうという高潔さを備えている。彼あるいは彼女にとって人間たちは畜群同然なのかもしれないが、巡礼者は畜群に対する愛情を持てる人物らしい。そう、私の読解が間違っていなければ、巡礼者は"人間"のようだ。
ところでこの巡礼者が記した日記は重量があるくせに、クエストアイテムなので収納箱等にしまうことができない。勘弁してほしい。私は常に脊椎損傷リスクに晒されているのに。
サムはスターボーンについて、平行世界で別の科学的ブレイクスルーを経験した人間がこちらにコンタクトをとっているのではないかと言う仮説を立てていた。その時は面白い仮説だね位に思っていたが、今思えばなかなか妥当な気もする。下手したら、あれは未来の私たちの姿なのかもしれない。全人類がユニティに至る事はできず、取り残された者たちがいるのかもしれない。自分が獲得することができなかった果実に嫉妬し、到達への可能性を事前に摘むことで、溜飲を下げようとしている、獰猛で、幼稚で、そのくせ強い武器だけは持っている人間。
スターボーンの暴力性は凡庸だ。サムに対してできる餞があるとしたらそれは、スターボーンをただ誅戮することではなく、その凡庸さに抗うことだと思う。