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【書評】タイド / 鈴木光司

※ネタバレは程よく有り。

話題の映画「貞子」の予告にて原作にタイトルを発見し、iBooksで購入。続きが出てたのを初めて知って、本書の前にも「エス」というタイトルで出版されているのを遅まきながら発見。ネット情報だと映画のストーリーとはほぼ異なるのだと思われる。(怖そうで観てない。)Amazonレビューを読むと、時系列としては出版順と逆で、「タイド」→「エス」の流れだそうなので、左記に本書から読み進めることに。

もともと90年代の流行時にリアルタイムで読んでいたが、綺麗さっぱり存在を忘れていて、ただ3作目「ループ」が最高に好きで記憶が濃い状態。「タイド」は怖いというよりかは、懐かしい気持ちで一気に読み終えた。

過去のシリーズ作品

シリーズの各書、どのレベルで記憶していたかというのをさくっとあらすじをまとめてみると以下の通り。多分間違いだらけだが気にしない。

リング
観ると1週間後に死ぬと言う呪いのビデオテープに起因する事件を調査していた記者が、自分もそのテープを見てしまい、旧友の高山竜司と事件解決に奔走する話。主人公は生きていたけど竜司はテレビから貞子が出てきて死亡。(出てきたのは映画だけだっけ・・・?)

らせん
竜司の遺体を司法解剖したところ、謎めいた紙切れが挟まっていて、暗号と見なして調べていくと、DNA塩基配列に繋がった。呪いのビデオテープによる死因は医学的には新種のウイルスが犯人だった。(だったけど、どうなったんだっけ・・・)

ループ
20歳そこそこの主人公が生きている現実世界では、仮想世界のシミュレーションが行われていたがバグが発生し滅亡の危機に。バグの発生源付近にいた仮想世界の住人は主人公に酷似していて、実は自分は仮想世界の住人が現実世界に再生成された存在だと知る。

バースデイ
女性が排気ダクトに落ちてその中で貞子を出産。(・・・ほぼ記憶なし)

・・・当時高校生だったが、「ループ」が面白かった。まるで予定調和のような地球の創生や生命の誕生過程、決して届くことのない宇宙の深淵、原子の構成はなぜ天体と似ているのか、日常で感じる既視感、霊などスピリチュアルな事象(見たことないけど)、産業革命やアインシュタイン以降の急激な技術革新、時間の概念。すべて説明がつくような気がして、修学旅行の時に友人と話して徹夜して翌日の寺巡りが地獄の眠さだったのを覚えている。

物語

時系列は、主人公が「ループ」(ここでは仮想世界だが作中そのようには一切語られない)に帰還したその後の物語。私は過去作品の記憶が曖昧なため、確かそうだよな・・・という感覚で読み進めるも、特に説明がなくあくまで現実として語られるところがファンとしては面白い。
ただ、バックボーンの説明は最小限であり、ほぼ前作までのシリーズの内容を前提として進行するため、過去作品を未読の読者は、ホラー然とした「リング」のイメージと乖離した、唐突なSF的世界観にジャンル違いによる違和感を感じるだろう。読まれる際はシリーズ一気読みをお勧め。

異次元を渡った存在として登場する主人公は、日本古来の伝説・役小角(*1)に出自を同じくする「まれびと」(*2)として自覚する。そんな中、奇病に侵された患者が発した暗号から、"貞子"とその家族の真実を知ることになる。
作中の中盤にて「呪い」に似た症状に陥る主人公だが、これは文章によるトリックを全編にかけて仕掛けられており、終盤にて読者が理解することになる。衝撃的なトリックではなく、作者も仮想世界の話と位置付けた上での語り口を配慮しているのか、じんわりと受け入れられるような表現となっている。

*1
役 小角(えん の おづぬ /おづの /おつの、舒明天皇6年(634年)伝 – 大宝元年6月7日(701年7月16日)伝)は、飛鳥時代の呪術者である。 - wikipedia

*2
まれびと、マレビト(稀人・客人)は、時を定めて他界から来訪する霊的もしくは神の本質的存在を定義する折口学の用語。折口信夫の思想体系を考える上でもっとも重要な鍵概念の一つであり、日本人の信仰・他界観念を探るための手がかりとして民俗学上重視される。まろうどとも。 - wikipedia

tide

タイトルは和訳で以下の通り。主人公が投げ出された大島の海を連想させつつ、この後の展開を示唆するような意味深さがかっこいい。(シリーズが続くであろう前提)

潮、潮の干満、潮流、(世論などの)風潮、傾向、形勢、盛衰、栄枯、絶頂期、最悪期
https://ejje.weblio.jp/content/tide

呪い

シリーズ通してのキーワードは、呪い。過去作品では恐怖に主軸が置かれていた。

作品ごとに恐怖のバリエーションが変わっていく手法が面白い。「リング」では、霊的な要因で強制される死の恐怖。「らせん」では、生物が抗えない感染による死の恐怖。「ループ」では、現実そのものが概念的に破壊される恐怖。

今作は家族の愛憎が軸に語られ、呪いの元凶がそれと捉えさせることが主題のよう。小説や映画で大仰に紡がれてきた「貞子」の境遇は、死因が壮絶であり、家庭環境の不和であるも、これは私たちの世界に大小、あるいはより凄惨なる事実が存在する。
人の言葉と意思は、長い歴史の中で、テクノロジーを最たる例にそれを現実に具現化されてきた。ライト兄弟の挑戦無くして飛行機は飛んだか。エジソンの研究熱無くして電球は灯ったのか。スティーブ・ジョブズの意思無くしてiPhoneは完成したのか。
ビジネスにおいては日頃からポジティブな言葉を自身で発しマインドを高め、ビジョンを口にする事で実現に向けて行動するよう心がけることが基本である。
しかし一方現実では、飢餓による生活苦、殺人やテロなどの犯罪、内戦や国家間戦争が継続しており、負の意思を持たざるを得ない環境に身を置く人々は、私自身が簡単に想像出来ないほど多く発生している。世界で8番目に治安の良い国である日本の下には150カ国以上の国がランキングされている。笑顔が生まれない環境においては、人の意思と言葉はどのように作用するのだろうか。何も呪術信仰のような形式をとらずとも、世界は広義の意味で「呪い」に溢れている側面があるのだとは、果たして言い過ぎだろうか。

※「エス」も読み終えそうなので、また。

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Kanazawa Kimihiko
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