【読書学会24】(3) 労働は読書を減じるか,絵本セラピー,本選びのセレンディピティ
前回の続きです。
読書状況調査の発表以外で,ここの読者の皆様に共有したい,と思った発表についてです。
労働は読書を減じるか
立命館大学の桜井政成さんのご発表「本当に働いていると本が読めなくなるのか:JGSS データを用いた検証」は,
の本がベストセラーとなったこと触れ,実際のデータで「本当に働いていると本が読めなくなるのか」を検討したというものです。
こうした「仕事と余暇の葛藤」はWLC(Work–Leisure Conflict)と概念化されているようです。WLCが
◎時間:活動間での時間の奪い合い
◎緊張:仕事・余暇によって引き起こされる緊張(ストレスなど)によって他方ができなくなる
◎行動:仕事または余暇の役割に伴う特定の⾏動が,他方の能⼒を阻害する(仕事人間過ぎて,余暇の過ごし方を知らない,など)
という時間・緊張・行動という3つに分類されていることなどが勉強になりました。時間だけかと思っていました。
検討に用いられた「実際のデータ」とは,2000年と2018年の⽇本版General Social Surveys (JGSS)のことです。
2000年データと2018年データは独立に扱われており,それぞれのデータ内での相関関係を分析しています。
結論としては,
◎労働の有無が効いていて,働いていると読書時間は確かに減少する。
◎しかし「労働時間が長いほど読書時間が短い」という結果は,2000年データでは見られたが,2018年データでは見られなかった。
というものです。
ただ,ここでの「読書」は「仕事のための読書」と「余暇のための読書」を分けていません。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は,「仕事をし過ぎると,『余暇の』読書ができなくなる」ということを説いて,共感を得たのだと思いますので,ここを分けられると,もっとクリアな結果が出たかもなぁと思いました。
桜井さんのご発表についてだけで,長くなってしまいました。あと2つは短くまとめます。
絵本セラピーとは
山口県立大学大学院の中藤由佳美さん・佐々木直美さんのご発表で「絵本の読み語り手が選択する絵本とその絵本のメッセージの研究―読み語る対象が成人期・中年期・老年期の場合―」を拝聴しました。
そこで「大人のための絵本セラピー」というものの存在を初めて知りました。絵本と言えば子ども向け,と思ってしまいますが,近年,大人も絵本から感じるところが大きく,「大人のための絵本セラピー」が少しずつ普及しているそうです。
本選びのセレンディピティ
山梨大学の小野田亮介さんが,読書科学会研究奨励賞を受賞されました。
対象論文が「成人はどのように図書を探索しているか:読書者と不読書者の情報参照傾向および図書探索志向性に着目した検討」という論文です。
小野田亮介. (2023). 成人はどのように図書を探索しているか
読書者と不読書者の情報参照傾向および図書探索志向性に着目した検討. 読書科学, 64(2), 53-68.
本選びって結構難しいですよね。私も大きな本屋に行くと「あれも読まなきゃ……ああ,あれも読まなきゃ……これも読めてない……自分はダメな人間だ……」と混乱して,結局何も買わずに逃げるように店を出ることが多々あります。
この論文は,レビューなどを駆使した「レビュー参照志向」と,偶然や直感による本との出会いを重視する「セレンディピティ志向」を大学生・成人への調査から見出し,後者の「セレンディピティ志向」が実際に本を読む読書行動と強く関連していることを指摘したものです。
ここから,偶然や直感に基づく本選びを支援することが,成人の読書行動を促すことにつながると結論しています。
この論文が発表された時から,面白い論文だな~!と思っていました。私たちの日常的な感覚に合うし,読書指導や読書奨励につながるという応用的な面からも優れた論文だと思います。おめでとうございます!
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。
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