あの日の選択。コロナによる突然の休校で独身の私が出来ることは?
ある冬の朝、当時実家暮らしをしていた私はその日たまたま肉まんを食べたくなったからという理由で近くのコンビニまで向かっていた。風は冷たく、近所だからとはいえマフラーをすればよかったと後悔。足早になりながらも途中、男の子の泣いている姿を見かけ歩を緩めた。
見た目は…小学校低学年くらいだろうか。そのときは何が原因で愚図っているのか、親がこの姿を見たらきっと仕方なしに引っ張って「行くよ」とでも言うのだろうなと想像しながら、後ろ髪を引かれつつも通り過ぎる。下手に声を掛けたら親の申し訳なさそうな顔が浮かんだから。
ただ、ちょっと気になったので帰りも同じ道を通ろうと思った。
居ないならそれでいい、それがよかった。
───いた。
彼はまだ泣いていた。小さいからだが震えている。通り過ぎてからコンビニに立ち寄って10分は経っているはず。このご時世、むやみやたらと話しかけてはならないと思いつつもどうしても気になってしまって声を掛けてしまった。
「ずっとここに居て寒くない?」
どう声を掛けるか悩んでの言葉がこれである。
彼は寒さのせいか、小刻みに肩を揺らしながら小さく首を横に振った。よく見ると薄着で、目線を合わせると目は真っ赤に腫れていたことに気付く。手に触れると氷のように冷たい。彼はいつからここで泣いていたのだろう。
「嘘だぁ!手、冷たいじゃん。お家はこの近く?早く帰ってあったかくしないと風邪引いちゃうよ。」
というと、またポロポロと泣きだした。私はオロオロしてしまう。
思わず「肉まん食べる?」と言ってしまったが断られ「そうだよね、知らない人に食べ物貰っちゃいけないもんね〜…えらいなぁ…。」と呑気に関心した。
「実はね、私にも君と同い歳くらいの姪っ子…まぁ妹かな?がいるんだけど。」
私は彼に、彼と同い年である姪っ子の話をした。学校の話、アニメの話、宿題はもう終わった?と聞くと「うん。」と言っていたので思わず「スゴッ!」と大声を出してしまう。
でも、やるべきことがないと1人じゃ退屈だよなとも思えた。話している間、肉まんはカイロ代わりで持たせることにした。
会話を続けていると泣く暇がなくなったのか、いつの間にか泣き止んでいて胸を撫でおろす。学童や友達と遊べないのかと聞いてみたけれど、開いていなかったり、予定が合わないことを知った。頼る親戚もいないらしい。
ぽつり、ぽつりと話してくれたことを繋げていくと、
彼は小学1年生。お母さんは恐らくシングルマザー。妹が1人いるけれど保育園児でお母さんがいつものように車で連れていった。1人になるのが嫌で思わず外を飛び出したけれどもう居なかったと。
薄着であること、その場が駐車場の近くであったことから納得し、通勤や保育園の時間などを逆算して考えたらこの子はもう1時間近くここにいるんじゃないかと予測も出来た。その間、ずっと1人で泣いていたのかと思うと、心苦しくなる。
「外に居ても寒いから、やっぱりお家に帰った方がいいと思う。それでね、今日は寂しいと思うけれどお母さんが帰ってくるまではお家で待っていよう?本当は一緒に遊びたいくらいだけど、私も家に帰らないといけないから。それでね、お母さんが帰ってきたら寂しかったって言うんだよ。泣いたってことも言うんだよ。我慢していたことをちゃんと伝えな。でもお母さんも君のために頑張っているから、そこは分かってほしい。」
つい癖で頭を撫でた。撫でてしまった…これはやっても良かったのだろうかと戸惑いつつ、彼の家の近くまで見送ることにした。ついでに自販機で温かいお茶を買って手渡す。私のこともお母さんに話しておいてね、という証拠。私が出来た、精一杯がこれだった。
帰宅すると玄関から暖かい空気が流れ、体を包み込んだ。「遅かったね」と言う母に事情を説明し、肉まんを手渡す。冷たくなった肉まんを頬張ると彼の冷たい手を思い出して、少し泣いた。
🍵🍵🍵
…コロナによる突然の休校で、対策の取れていない現段階に大きな不安を抱いてしまうのはきっとこういうことがあったからだと思う。シングルマザーやファザー、共働きの家庭はどうしようもできないし、他者だってどこまで手を差し伸べていいのかもわからない。
私のこの行動だって、正解だとは思わない。
1度、どんな理由であれ泣いている子の前を通り過ぎているし、子どもから家庭の話を聞きすぎたかもしれない、結果として1人のままにさせている。
けれど、彼が1人でいる日はその日だけではない。これからだってそういう日は訪れる。それを必ず解決できる策なんて、私にはない。正直無力だ。
こればかりは、子どもが素直に親を頼り、親子自身が安心して任せられる機関や人に頼るのがベストなんだ。
なので、今回私が出来ることといえば、知り合いに声を掛けて困っている人がいないか聞き出すこと。知り合いの知り合い…までなら、頼れるはずだと思ったから。
幸い、私は3月から仕事が落ち着くので理由を話せば休暇も取れるようになるし、仕事をしながらでも子守は出来る職場である。私が出来ることなんて子どもを1人にさせない…くらいだけれど、あの子のように孤独であることを我慢をさせたくないし、子どもが家を抜け出して、もしも誘拐なんて起きたら…なんて考えてしまう親の負担も軽減させたい。
子どもが子どもらしく居られる時間なんてあっという間なんだよ。
どうかそれを分かって、行動に起こせる社会が増えていきますように。