文化芸能は時代とともに進化する
大昔はちょっとした広場が舞台だったと聞く。幕をめぐらし板敷があれば尚可。観客は入口の幕をめくりあげて入った瞬間から非日常を楽しむことができる。
筆者の集落では神楽殿がある。小さな木製の舞台だ。豪華絢爛からは程遠いが幕をめぐらすだけで格が上がる。今の時代では珍しくはないが色鮮やかな舞台衣装で昔ながらの舞を舞う。はやしの調子が徐々に観客のリズムを整えていく。舞と観客がおなじ時を刻み始めた頃、物語の空間に引きずり込まれ「日常離脱」体験ができるのだ。
この「日常離脱」体験は、今は仮想空間で実現できる。仮想空間で能を歌舞伎を浄瑠璃をその臨場感に身を浸すことが可能であろう。クラシックでもバレエでも民族舞踊でも「日常離脱」と「古来から伝わる伝統の意味」も味わうことができる。あの幕の内側の人々の鼓動までも伝わってくる。
どうだろうか。権威を示す大箱で味わう「日常離脱」もいいが、幕の内で得られる「日常離脱」の方が入り込みやすさはあるのではないか。伝統が伝統としてつながりやすくなるのではないか。誰もが手持ちのお金と時間で「日常離脱」ができるほうが、その担い手となる人々を誘いやすいということがあるのではないか。
時代とともに文化芸能は進化していく。リアルである幕の内と仮想空間である幕の内と両立する「文化芸能を手軽な空間として日常化する」工夫が必要なのだと感じる。