妄想:世界の本社が米国に集まる日
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T大統領が誕生した。歴史に残る接戦で勝ったのだ。と同時に世界の本社登記が忙しくなっていった。
「米国貿易関税で利益を失うより、米国で本社登記して米国内での利益を確保する」として本社登記を米国に移す企業が増えていったのだ。なにより人材確保では米国で活動したほうが獲得しやすい。米国でブランドの確立を不動のものにするために米国企業であることをアピールすることになる。
米国に本社を移した企業は「出身国からの二重課税に苦しんでいます」と議会とT大統領に訴える。T大統領は「二重課税に苦しんでいる米国企業を救う!」として訴えのある企業の各出身国と交渉に入った。
それが更に米国本社化の波を広げていった。T大統領は「米国国民を米国で雇用した企業には税の優位性を高めていく!」と喧伝しいく。同時にかつてないほど米国内での消費活動が活発となって、貿易に主体を置く企業以外にもサービス業などの企業が続々と米国に本社を移していった。
格段の成長を見せる米国経済。西側陣営である日本も欧州も米国の一都市としての役割を担う構造へと変化していく。米国賃金とその他の西側陣営の賃金格差は広がっていき、西側陣営から米国への移住が増加していく。
米国への移住先に大都市を選ぶ人より、中部・中西部の広大な土地を目指す人が増えていく。旺盛な米国経済活動は、米国国内を満遍なく発展させる段階へ昇華していく。
西側陣営の米国法に準じた移民は、さらに勢いを増していく。米国の不動産業はかつてない活気を見せ、T大統領が保有する不動産は天文学的な価値を示し始める。
米国の富の集中は、もう、誰にも止められない。米国の移民増加も米国法に準じない人々が増えていく。米国内はさまざまな文化のせめぎあいとなっていく。文化・宗教などで有利な一部の富裕層は更に富を集め、文化・宗教などで不利な貧困層は働く機会を失っていく。やむなく「ほとんど賃金ナシ」で働く人たちが増えていく。猛烈な貧富の格差が広がっていったのだ。
不満が爆発する米国。だがT大統領は「米国を内側から壊す者たちを許さない!」として、軍の出動を頻繁に行っていく。人工超知能の探索ロボットの投入も増え、推定で「暴動を起こそうとするニンゲン」を検知し排除していく。貧困層は生きていくために「T大統領とその支持者」への従順と忠誠を誓うのだ。
西側陣営のかつての国々は米国の州と同様の扱いとなって、米国に富が集中する中で過疎化が進んでいく。T大統領は「過疎化が進んだ国を救うのだ!」として、米国貧困層の人々を過疎化の進んだ国へ移住させる大統領令を発布する。
貧困層の人々は各々の出自の文化・宗教に沿って、西側陣営過疎国へ旅立っていく。だが、T大統領への忠誠を忘れないように最大限の注意を払いつつ。少しでも反抗すれば人工超知能に排除されるからだ。
出身国に戻った貧困層の人々は、文化・宗教の中で安寧の日々を送る。米国とは比べ物にならない物質的貧しさを受け入れながら。
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