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データサイエンティストの育成について筑波大学准教授の尾崎幸謙先生に聞いてみた(後半)

筑波大学大学院人文社会ビジネス科学学術院ビジネス科学研究群経営学学位プログラムの尾崎幸謙准教授との対談記事、後半になります。企業におけるデータサイエンティストの育成についてディスカッションしています。前半記事では筑波大学や尾崎先生の紹介をしていますので、未読の方は以下からご覧ください。

前半記事

データサイエンティストの育成について

1.自己研鑽
2.独自に考案したデータ分析技術に関する社内研修や社外研修の実施
3.論文や書籍の輪講
4.自分がやりたい研究の会社からの後押し
5.国内の学会や国際学会への参加を推奨する
6.大学の科目等履修生になることを推奨する
7.修士課程や博士課程への進学を推奨する
8.大学との共同研究を推進する

データサイエンススキルの向上に関する取り組み例

尾崎
なるほど。(6~8について)本学であれば全部当てはまると思います。

福中
そうなんですね!

尾崎
例えば博士前期課程、、、
博士前期課程に行くというのは、入社した人のスキルを高めるために、入社後に博士前期課程に進学してもらうということでよいですか?

福中
そうですね。うちってデータ解析を必ずしも専門としない他分野から来た人もいるので、普通に博士前期課程でもいいですし、あるいは博士後期課程でも全然かまわないと思うんですけど、、、

尾崎
なるほど。それで業務で必要となり勉強しながらデータ分析してもらううちに、より高度な分析力や研究力を求める人が出てくるわけですか。そして普通の回帰分析などではなく、より複雑な機械学習とかを使う必要が出て、海外の研究論文を読み、それを実装するなどの能力が求められるということですね?

福中
そうなんです。
実際、普通なら30代くらいの先輩が研究の指導をできれば一番いいんですけれど、特にデータサイエンスチームではそこの層が少なくて、、、

尾崎
なるほど。本学では博士前期課程であれば修士論文の、博士後期課程であれば博士論文の研究を通して、新しい方法論を学び、それを実装することができる人になれるよう指導しています。また決して方法論だけではなく、意義のある目的を立てる能力、いわゆる問題設定力や目的に対して適切な方法を選ぶ能力も学ぶことができるだろうと思います。だから博士前期課程なら2年間でデータ解析の初歩から学んでもらい、RやPythonなどで実装できるようになり、目的を達成するための最適な方法論を取捨選択できるスキルを養うことはできると思います。

福中
特に企業の研究職だと今言ったことももちろん必要ですし、あと論文も書きたいっていうのが本音ではあります。学会発表もしたいですし。

尾崎
企業として論文を書くのは、それが企業のステータスをあげることにつながるからですか?

福中
そうですね。そういう目的もあります。なので、僕らもやっていきたいなと思っているんですよ。

尾崎
どういうところに出すつもりなのですか?

福中
前回発表した時は行動計量学会でした。

尾崎
なるほど。投稿すればよいではないですか(笑)

福中
そうなんですけど(笑)
なかなか時間的な余裕が・・・

尾崎
社会人なので、時間的余裕が難しいというのもわかります。
論文投稿を考えると、修士論文だと「2年間は忙しい」ということを企業の上司や、あるいは家庭にも言って何とかなるとは思いますが、そのあと博士号を取得するということになると、追加で最低3年かかるわけですから、そこまで考慮することは普通はなかなかできません。
特に働きながらの場合、論文投稿をするタイミングは自分で決められるのですが、修正には期限があり、それを守らないといけないところに難しさがあると思います。

福中
査読の話ですよね。わかります。

尾崎
だから学生が論文投稿するときは、「この学術雑誌は絶対1ヶ月で返さないといけない」とか、「この学術雑誌は査読が返ってくるのはたぶん投稿してから何か月後だからそこから1ヶ月くらいの間動けるかどうかが重要になってくる」などと伝えています。

福中
そこは、だから上司側というか、企業側の理解もときには必要ということですよね。

尾崎
そうですね。その理解が得られていると有り難いですね。

福中
次に(6の)科目等履修生はいかがでしょう?

尾崎
科目等履修生の場合は、博士前期課程に入学するというのは時間的にも心理的にもハードルが高いが、新しいスキルを獲得したり、過去に学んだ内容を学び直す必要性を感じている方に最適だと思います。

福中
なるほど。研究というよりも知識やスキルを身に着けるのに良い選択になるということですね?

尾崎
その通りです。知識をつけて自分でデータ分析ができるようになるには良い選択になると思います。あるいはデータ分析ができる部下が増えてきたけど、部下がやっていることがよくわからないという状況がよく起きてると聞きますが、そのような方にも最適ではないでしょうか。

福中
むしろデータ解析を専門としていない上司向きみたいな感じですか?

尾崎
いえ、そういう方のニーズにもマッチすると思いますよという意味です。その科目に関心がある人なら誰でも受講申請できるところが良いところだと思います。
科目等履修の場合は、たぶん他の大学でもそうだと思いますが、そのあと大学院に入学した場合に入学後の修了単位として所定の手続きにおいて要件を満たせば認められます。だから前もって5科目の単位を取っておく。そうすると入ってから少し楽になるのです。

福中
なるほど。だから仕事と両立しやすくなるみたいな可能性があると。

尾崎
そうです。そういうメリットはあると思います。
本学では今年度も少しは実施しているのですが、来年度(2023年4月)から徐々にデータサイエンス系など経営系の科目も含めて外向けに開放していく予定です。

福中
なるほど。

筑波大学の科目等履修生のWEBサイトはこちらになります。
興味のある方はぜひ検討してみてください。
https://www.gssm.gsbs.tsukuba.ac.jp/program/attendance.html

尾崎
あと(8.)企業と大学の共同研究の話ですね。

福中
そうですね。そっちも気になります。

尾崎
それは逆にお聞きしたいのですが、御社でも大学との共同研究をやっているのですか?

福中
やってます。今、僕らは実績が2つあって、1つは理研AIPセンター長/東京大学の杉山将先生と2018年にやったのが1つと、あとはサイモンフレーザー大学に古川泰隆先生がいらっしゃるんですが、その方とは2020年に実施しました。なので、最近またやりたいなと思っています。

尾崎
企業との共同研究は私もいくつかやりました。

福中
例えば、手掛けた共同研究についてお話しいただくことは可能ですか?

尾崎
そうですね。例えばアイブリッジ株式会社様がFreeasyというWEB調査システムを展開しているのですが、その企業と不適切な回答者を検知するという共同研究を行いました。

福中
なるほど。

尾崎
このような共同研究を通して、では企業側のメリットがどうあるのかとみると、まず成果自体が使えるものになるというのがあります。あとはミーティングを通して、私もすごく勉強になるところがありました。実務に直接携わるわけではないから、「実務的にはこういう課題がある」ということはあまり知らないのです。ですので、それらを教えてもらいつつ、それに対してこういうことができるのではないかとディスカッションするのは、たぶんお互いにとっていい勉強になっていると思います。

福中
うんうん。良いですね。

尾崎
良い関係だと思います。

福中
はい。共同研究をやるうえでお互いにメリットがあるって重要なので、その話が聞けたのは良かったです。

最後に

福中
ちょっと難しい質問なのですが、社会人が改めて大学院で学ぶことの意義って何なのでしょう?

尾崎
社会人が大学院で学ぶことの意義、、、確かに難しいですね。人それぞれですからね(笑)。
大学院といいますか、本学で学んでもらう意義みたいな感じになりますが、、、大学院には修士論文があるところとないところがあり、本学ではそれがあり、他のいわゆる社会人向けの大学院の中では一番アカデミックよりだと思います。それではなぜそういうことをやるのかというと、やはり研究は多くの場合、仮説を考えて、その仮説をどう示したらよいのかと考え、データを取って検証するという、その流れを学ぶことがやはり実務において生きてくると思うからです。そしてその訓練をする場として来てもらうととても良いと私は思っています。

福中
いや、いいですね。僕らAISCのアプローチもまさにそれでやってるので、それが凄くわかります。

尾崎
データを取得してうまくいかないこともありますが、そうしたらそれはそれでなぜそうだったのかを考えて、ここが悪かったのではないかと考え、またそれを仮説として検証することを続けていけば客観的に妥当なものが出来上がりますし、自分自身の力も高まりますし、それがやはり企業全体としての力になっていくのではないでしょうか。

この尾崎先生の最後のお言葉は、まさにAISCで目指している、若手に身に着けてほしい研究マインドになります。大学院に通う。大学と共同研究をする。これらのことも若手の成長につながっていきそうなので、ぜひ私たちも前向きに検討していきたいと思いました!
尾崎先生、ありがとうございました!

この記事を読んでAISCに興味の出た方は、ぜひAISC WEBサイトの採用ページもご覧ください!


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