あなたのビル、防災対策はバッチリですか?
はじめに
2021年12月17日午前10時20分。
大阪市北区曽根崎一丁目の雑居ビルで痛ましい事件が起きました。
心療内科クリニックフロアで起きた放火事件は26名の尊い命を奪いました。
加害者の卑劣な手段には怒りを覚えた一方で、昨今、ガソリンを使った放火事件が増えつつある現状に強い危機感を覚えています。
事件現場となった雑居ビルは大阪市内でもよく目にする一般的な雑居ビルです。大阪府下だけでも同様の規模のビルは多数存在します。
「エレベーター1基(もしくは無し)・避難経路は1方向の階段のみ・残りの避難経路を緩降機などの避難器具でカバーしている物件」
当社が運営しておりますレンタルオフィスRe:ZONEシリーズはこういった物件に入居させていただく事が非常に多く、同じような悲劇を起こさない為にも入居前には必ず消防署へ脚を運び、OPENにあたって必要な設備を確認し、もし不備があれば必ずビルのオーナー様に依頼をして消防設備を更新していただく決まりとなっています。
今回、このような痛ましい事件が起こった事で消防法はより厳しく改正され、法定点検の際のチェックはより細分化される可能性があります。
しかしそれはビルに入居しているテナントの皆様の命を守ることに繋がり、ひいてはオーナー様の大切な資産を守ることに繋がります。
今回はこれまでの消防法のあゆみや、どういった点に気をつけなければならないのか?を調べてきましたので、ご興味がある方は最後まで目を通して頂けると幸いです。
消防法とは?
消防法が制定されたのは昭和23年7月24日。同年8月1日に施行されました。
消防法の目的は第1条に記載されています、曰く
「この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。」
つまり第一の目的は火災を予防することにあります。
まずは火災が発生しないように予防・警戒し、発生してしまった場合は鎮圧して国民の生命や財産を火災から保護する為の法律です。
この予防するという観点が非常に大切であり、火災を未然に防ぎ、仮に起こってしまったとしても大きな火事にならないように常に準備をしておくということに主眼を置いているのです。
消防法17条では学校・病院・工場・飲食店などに消防設備等の設置が義務付けられています。
消防法施工例の7条消防設備について「法第十七条第一項の政令で定める消防の用に供する設備は、消火設備、警報設備及び避難設備とする。」と定められています。
では消防設備とはどういったもので、どういった物件に設置が必要になるのでしょうか?下記にまとめました。
〇消火設備〇
①消火器や水バケツなどの簡易消火用具
②屋内消火栓設備
③スプリンクラー設備
④水噴霧消火設備
⑤泡あわ消火設備
⑥不活性ガス消火設備
⑦ハロゲン化物消火設備
⑧粉末消火設備
⑨屋外消火栓せん設備
⑩動力消防ポンプ設備
〇警報設備〇
①自動火災報知設備
②ガス漏れ火災警報設備
③漏電火災警報器
④消防機関へ通報する火災報知設備
⑤警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレンその他の非常警報器具及び次に掲げる非常警報設備
・非常ベル
・自動式サイレン
・放送設備
〇避難設備〇
①すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋その他の避難器具
②誘導灯及び誘導標識
〇消防設備設置が必要な物件〇
どの物件にも消防設備の設置は必要ですが
①飲食店・百貨店・ホテルや旅館・保育園や幼稚園・老人ホームや老人介護施設など特定用途の防火対象物に該当する物件(→特定防火対象物)
②工場や倉庫・小中高等学校・寄宿舎や共同住宅・特定防火対象物に該当しない物件
(→非特定防火対象物)
物件は①と②に分かれます。詳細は下記をご確認ください
https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/cmsfiles/contents/0000260/260243/bousaikannrisya.pdf
※出典 大阪府消防
いかがでしょうか?もしご自身で物件を所有されている方がいらっしゃれば、ご自身の物件が特定防火対象物にあたるのか、非特定防火対象物になるのかを確認されることをおススメします。
特定防火対象物にあたる場合は防火管理者の選定が必要となります。
また、特定防火対象物も非特定防火対象物も設備点検と報告が義務付けられています。
特定防火対象物で1年に1回、非特定防火対象物で3年に1回となります。大切な人名と資産を守るために義務を守りましょう!
消防法改正の歴史ときっかけとなった火災について
昭和23年7月24日に制定された消防法ですが、これまでに幾度となく法改正が行われてきました。
そのきっかけとなった火災と法改正の要点を下記にまとめています。
①大阪市千日デパートビル火災
→昭和47年に発生。3階の婦人服売り場付近から出火し、同ビルの2階〜4階部分を焼く火災となった。この火災での死者は118名。
この火災を受けて、防火管理体制の規定が強化され、自動火災報知設備の設置が既存不適格であっても設置を義務付けられました。
また、スプリンクラー設備等の設置・維持についても義務付けられています。
②ホテルニュージャパン火災
→昭和57年に発生。9階客室から出火し、4,186㎡を焼く火災となった。この火災での死者は33名。
火災現場となったホテルはスプリンクラーが使用できる状況ではなかったこと、自動火災報知機が故障していても修理が行われていなかったり、使える自動火災報知機も電源が切られていたことが延焼範囲を広げた原因と言われています。ある意味では人災であったとも言える事件です。
この事件を受け、消防機関が検査をして基準に適合している「適マーク制度」が導入されました。
③大阪市浪速区個室ビデオ店火災事件
→平成20年に発生。7階建てビルの1階で出火し、死者16名、負傷者9名の火災となった。
この火災は①②と異なり、火災の原因は放火。
現場となった個室ビデオ店は通路が狭く、出入口が一か所しかなかったことから被害が拡大しました。
また、窓や排煙設備がなく、各個室での非常用照明の不備、消火活動や避難活動を実施しなかった事が被害を拡大した原因ともいわれています。
この事件を受け、個室ビデオ店、カラオケボックスなどの施設に対して「自動火災報知設備」「通路誘導灯」などの設置基準が強化されました。
どの事件も防災意識の欠如や利益や室内の利便性を優先した結果、被害が拡大してしまっています。
防災設備や消防設備は大切な人命と資産を守るために必ず設置し、適切に使用できる状態にしておきましょう。
防災設備・消火設備・避難設備について
次に防災設備、消火設備、避難設備とその種類をご紹介します。
防災設備は万が一火災が発生したときにいち早く火災の発生を知らせ、被害が拡大しない為の設備、消火設備は発生した火災を初期段階であれば消火することが出来る設備、避難設備は人命を守るために火災現場から避難する設備です。
どれも必須な設備となりますので、しっかりとビルに備わっているか確認しましょう。
防災設備
①感知器
→煙で火災を感知する『煙感知器』と熱で火災を感知する『熱感知器』があります。
建物が無窓階でかつ特定用途建築物に該当すれば煙感知器を設置する義務がありますが、開口部が十分に確保できていれば普通階に該当するので熱感知器を設置することができます。
②自動火災報知設備
→感知器が火災を感知すると、受信機に火災の発生を信号を送って知らせます。
受信機は自動でベルを鳴らし、火災の発生を建物内にいる人に知らせます。
③火災受信機
→建物の防災センターに設置されており、感知器や受信機から火災発生の情報を受け、関係者や消防機関に知らせるための道具です。
④発信機
→火災を発見した人がボタンを押すことによって火災の発生を知らせる設備です。
防災設備は感知器→自動火災報知設備→火災受信機というように一つ一つの設備が連動して火災の発生をビル内の人や消防機関に知らせる役割を担っています。
「感知器は設置しているが自動火災報知設備につながっていない」、「火災受信機が設置されていない」などの不備は火災の発見を遅らせ、被害の拡大に繋がります。不備がないか点検する事をお勧めいたします。
消火設備
①消火器
→消火器は人が使って初期消火にあたることを想定して作られたものです。
「普通火災用」「油火災用」「電気火災用」の3種類があります。消火器には有効期限があり、製造から10年が有効期限となっています。
10年を経過した消火器は交換されることをお勧めします。
消火器は初期消火用とお伝えしましたが、初期消火とは天井に火が燃え移る手前までと言われています。天井に火が燃え移ってしまった場合は消火を諦めて避難するようにしましょう。
②屋内消火栓設備
→屋内消火栓設備は「1号消火栓」「易操作性1号消火栓」「2号消火栓」の3種類があります。
1号消火栓はホースを全て出してからでないと使用できない為、1名での仕様は難しく、2名での仕様を前提としています。易操作性1号消火栓と2号消火栓は1名でも操作しやすくなっています。
こちらも初期消火を前提としていますので、初期消火の範囲を超えた場合は避難するようにしてください。
③スプリンクラー設備
→スプリンクラー設備は火災の発生を感知し、自動で消火に当たる設備です。
スプリンクラー設備には「閉鎖型」「開放型」「放水型」のスプリンクラーヘッドがあります。
いざというときに正常に作動するように点検を怠らないようにしましょう。
避難設備
①避難はしご
→避難はしごの種類は、使用方法により、固定はしご、立てかけはしご、つり下げはしご、ハッチ用つり下げはしごの4種類に分けられています。
緊急時にすぐに使うことが出来る様に普段から使用方法を調べておくことをお勧めします。
②救助袋
→救助袋とは緊急時に広げると筒状の広がる袋の中を滑り降りて避難するための避難設備です。緊急時に素早く広げて窓から降下させると使用することが出来ます。
③緩降機
→緩降機はオリローやスローダンと呼ばれ、直用具を体に付け、窓から降りると着用具についているロープをリールが巻き取り、ゆっくりと地上まで降りることが出来る設備です。
④誘導灯
→誘導灯は火災が発生し、常に点灯しており、火災が発生して煙で周りが見えにくくなっても出口へと誘導するための設備です。
電球が切れていないか?見えにくくなっていないか?を日常から点検しておきましょう
まとめ
これまで消防法の歴史や設置が必要な防災設備などをご紹介してきました。
最後に普段からチェックしていただきたいポイントをお伝えします。
①避難階段に物は置いていませんか?
→一時的であっても避難階段に物を置いているといざというときに逃げ遅れることがあります。もし荷物を置いていたら必ず移動させておいてください。
階段前にポールチェーンを設置しているビルを見かけますが、こちらも避難の際に危険ですので移動させておくことをお勧めします。
②防火扉が閉じるようになっていますか?
→防火扉は火災発生を感知すると閉まるようになっています。
火災で一番多い死亡原因は煙による一酸化炭素中毒と言われています。防火扉は火災の拡大を防ぐだけでなく、煙が他の階にいかないように防御する役目も担っています。
ただし、防火扉の前に物が置いてあったりすると非常時に閉まらないこともあるのでとても危険です。
もし物があれば移動させておくようにしましょう
③法定点検は必ず受け、報告は怠らないようにしましょう。また不明点があれば消防署に確認するようにしましょう
→地域の消防署と密にコミュニケーションを取っておくことで防災への意識は高まります。
また、不備があればすぐにしてきしてもらえるので確認をするようにしましょう。
いかがでしたでしょうか?
どれだけ気を付けていても100%災害を防ぐことは難しいでしょう。
しかし、普段から気を付けていればなにか起こってもすぐに対応することができますし、設備に不備が無ければ人命を守ることができます。
悲惨な事故を二度と起こさない為に日常のチェックを怠らないようにしましょう!