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口と歯を守るー食べることって生きること

わたしは、急性期認知症病棟で看護師をしていた。
急性期、といっても認知症は完治する病気ではないから、寝たきりの患者さんも多くいる病棟だった。
認知症は難しいことから生きるうえで必要なことまで忘れてしまう。
例えば、食べること、トイレで排泄すること、清潔に保つこと。
それらを忘れてしまって、お手伝いが必要な患者さんがたくさんいた。

認知症を患っている患者さんは、ほかにも合併症を持つ方が多くいた。
高齢者である、ということも理由の一つだったかもしれない。
インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症が流行るとひとたまりもなかった。
防護服を着て、マスクをして、毎日のように看護をした。
そして、どんどん亡くなっていった。
本当に辛かった。
新型コロナウイルスの院内感染が起こった時、やらなければならないことに追われて必死に看護をしたけど、助けられない命を見て、自分が何をやっているのかわからなくなった。
投与できる薬はある、点滴もある。
だけどそんなものは患者さんの自己回復力がないとなんの役にも立たなかった。

そんな中、わたしは一つ気づいたことがある。
それは、普段からよく食べていた人はなかなか死なないということである。
自己回復力が高く、新型コロナウイルスの感染から回復した患者さんも、病院食をほぼ毎回完食している人が多かったように思う。
逆に、食事を食べない人はどんどん栄養状態が悪くなり、褥瘡になりやすい人もいた。
食事を食べられないという理由で入院してきた患者さんは、入院中に少しずつ食べられるようになり、病院食を8割程度食べられる様になったときには、寝たきりから車椅子生活になり、デイルームでほかの患者さんと交流するまでに回復し、笑顔が増えていった。
食べることは、生きること。
本当にそうだと思った。

さて、食べるために必要なものはなんだろうか。
口?歯?舌?食道?胃?小腸?大腸?排泄?消化?噛む力?食べ物を口の中でまとめる力?飲み込む力?
その全てだ。
食べないと口の力が劣るということに注目しがちだが、それだけではない。
食物が体の中を通過することは、食道、胃、小腸、大腸などの消化器官とその活動の力を使うことだ。
そうやって使われないと、体はどんどん衰えていく。

その食べることの活動の一番はじめの通過点が口とその中にある歯だ。
認知症の患者さんの中には、清潔行動を忘れてしまった人や自分ですることが難しい人が多くいた。
入れ歯や総入れ歯を使っている人も多くいた。
そうして口腔内トラブルが痛みや噛む力、飲み込む力の衰えに繋がり、どんどん食べるものが柔らかくなり、最終的には飲み物やゼリーだけになった患者さんもいた。

口の中を清潔に保ち、自分の歯をできるかぎり残し、丈夫にしておくことは、生きていくうえで本当に大切なことである。
清潔でない口腔状態は、高齢者であれば誤嚥性肺炎を引き起こしてしまう可能性もある。
口腔内トラブルが多いと、食べることも嫌になってしまうだろう。
虫歯で歯が痛い時、食べることが大変と感じたことがあるように。
それがわかっていたからこそ、歯磨きや口腔清拭を嫌がる患者さんに毎日トライし、説明し、徐々に慣れてもらい、すっきりする感覚を感じてもらい、口の中を清潔に保つ看護に日々取り組んだのだ。
それは、入れ歯や総入れ歯になった人も、寝たきりの人も、高齢者も変わらない。
ならば、今まだすべての歯が自分のものである若い人はもっと大切にするべきなのではないだろうか。

わたしは、自分の看護を通して、自分の歯を大切にすることを学んだ。
だから定期的に歯医者に通うし、毎日歯磨きは丁寧に行うし、夜にはフロスもして、最後にコンクールという洗口液で洗浄するのだ。


あなたは毎日歯磨きをしていますか?
毎晩フロスをしていますか?
最後に歯医者さんに行ったのはいつですか?
ぜひ、振り返ってみてください。
今のあなたが、自分の口や歯を大切にすることが、将来の健康にとてもいい影響を与えることでしょう。
皆さんにも、自分の口と歯を大切にして、健康に生きていってほしいと思います。


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