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ほぼ宅飲みだけで日本酒通になる方法 ~その⑦~ 新潟の思い出


新潟っていったらやっぱり日本酒でしょ


 日本酒にまったく興味がなかったころでも、灘や伏見の名前は知っていた。テレビや雑誌の情報からなんとなく知っていたという感じだ。それに地酒といえば新潟、というイメージもいつの間にか出来上がっていた。特に社会人になってからは、職場の飲み会で上司が八海山や久保田を注文しているのを見るたびに、「日本酒=新潟」というイメージが強くなっていったような気がする。

 「日本酒=新潟」のイメージが揺るぎないものになったのは、実際に現地に足を運んでからだ。在日コリアンであるわたしはもともと日本語しか話せなかったが、仕事の関係上1年間語学留学をする機会を得た。そのときソウルの同じ下宿にいた日本人女性(以下、Aさん)と友達になった。このAさんは新潟出身で、本人はまったく酒が飲めないのにも関わらず、よく「わが家では貰い物の越乃寒梅を料理酒に使う」という訳の分からない自慢をしていた。わたしはそんな話を聞きながら、「やっぱり新潟の人っていうのは地酒に誇りを持っているんだなぁ」と感じるのだった。

Aさんにもらった「笹祝」。オンザロックで美味い

 留学を終えてしばらく経った頃、留学仲間のみんなと一緒にAさんの実家に遊びに行くことになった(わたし以外全員女性だった。彼女らからわたしがどう見られていたのかは、推して知るべしである)。新潟県内には何回か旅行で来たことはあるけど、新潟市内は今回が初めて。案内役を務めてくれたのはAさんの双子の姉だったが、彼女はわたしに「ぽんしゅ館」の存在を教えてくれた。

 「ぽんしゅ館」は新潟駅構内にある食料品専門店で、米菓子や味噌、醤油なども購入できるが、その最大のウリは新潟県内から集められた地酒の数々だ。銘酒がずらりと並ぶその光景はまさに圧巻であり、どの酒を買えばいいのかわからなくなるほどだ。なかでも日本酒の自販機には驚かされた。500円で5枚のコインを購入し、1コイン当たりおちょこ1杯分の日本酒を味見することができるのだが、そのラインナップはなんと100種類以上だとか。新潟県内ほぼすべての酒蔵が集結しているということになる。壁一面にずらっと並べられた自販機を見ていると、「新潟の人にとって日本酒っていうのは、最も誇らしい名産品なんだなぁ」と実感することができる。

わざとじゃないです、新潟出張


 ちなみにこの旅行当時、わたしはまだそれほど日本酒に興味を持っているわけではなかった。ぽんしゅ館に立ち寄ったのも「せっかく新潟まで来たんだから…」くらいの軽い気持ちだった。

 その後、前にも書いた通り職場の飲み会を通じて日本酒に関心を持つようになったわたしに、新潟出張の機会が訪れる。正確に言うと、機会が訪れたのではなく、機会をわざわざ作ったのだった。

 当時わたしが任されていたプロジェクトの一環として、新しく新潟でイベントを立ち上げることにしたのだ。ところが周りは、白い目でわたしを見る。

「どうせ新潟の地酒が飲みたいだけだろ…」

 そんなわけないだろ!? 新潟でのイベントについてはちゃんとプレゼンもしたし、上司からもGOサインが出ている。けっして日本酒が目当てなわけではない。ちなみに、わたしに向って直接「どうせ日本酒目当てなんだろ」と口にした同僚がいたが、彼なんか毎年全国各地でイベントを開催してその地の地酒を飲み干している。自分がそうだからって、わたしも一緒だと思わないでほしいものだ、まったく。

 というわけで、さっそくイベントを手伝ってくれる現地のBさんに連絡し、下見に行くことに。電話の終わりにBさんは

「じゃあ懇親会は日本酒飲み放題の店にしておくね♪」

 …こんなんじゃあ確かに地酒目当てだと思われちゃうよな。

ワイン酵母をつかうことで有名な「越後鶴亀」

 久しぶりに新潟駅周辺に行ってみると、前回気づかなかった光景が目に入って来た。まず、駅周辺にやたらと酒屋が多いような気がする。「ぽんしゅ館」以外にも土産物として日本酒を売る店が多いのだ。さらにショーウィンドーにびっしりと日本酒の瓶を並べた店を発見したのだが、ここは酒販店でも飲食店でもない。たしか証券会社だったと思う。なんで証券会社が日本酒をここまで推すのかよくわからないが、まあ新潟でしか見られない光景だろう。

 夜の宴会は、Bさんの予告通り日本酒飲み放題の居酒屋だった。酒がすすむにつれて、話題はなぜか『夏子の酒』のことに。Bさんは「おれは冴子が一番好きなキャラクターだな。ああいう人間臭いところがいいねぇ」と楽しそうに話していたが、実際に読んだ人でないとまったく意味が分らない。あー、よかった。予習しといて。

 ちなみにこの日の2次会は福島出身のC君とサシ飲み。C君はわたしより10歳くらい年下のイケメンだが、とにかく酒が強い。これまで出会った日本人の中で一番強いかもしれない(ちなみにもっとも強かったのはオランダ人。日本人は世界的に見て特にアルコールに弱い人が多いそうです)。最後まで付き合わされたわたしはベロベロになり、ホテルに戻ってゲロゲロはいたが、C君はケロッとしていた。「酒弱いんだもんなぁ」とわたしをからかうC君だが、イケメンのくせに訛り丸出しだから全然悔しくない。

 他にも、新潟の人と話していてわたしが「日本酒が好きなので、新潟出張は楽しみでしかないです」というと、どこからともなく一升瓶を持ってきてプレゼントしてくれたこともある。とにかく新潟と日本酒に関するエピソードは尽きることがない。流石、47都道府県の中でもっとも多くの酒蔵を擁するだけのことはある。

 いまは1980年代のように淡麗辛口というだけでもてはやされることはないけれど、それでもやはり新潟の地酒の存在感は強い。新潟の思い出話をするたびに、やっぱり日本酒が恋しくなるわたしなのであった。

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