死に向かう道まであと何日 1日目 〜記録開始
まえがき この物語はフィクションです
「私」はこの物語の語り部役である。年齢・性別・職業・家族の有無などはすべて不詳とさせて欲しい。
早い話が私は自分で死のうとしている。どうやって死のうとして何に失敗したかというのを記録してみたくなった。
生い立ちとか何が辛かったのかとかそういうことは一切書かない。
後追い自殺なのかもしれないし虐待やいじめやパワハラの類が理由かもしれないしひどい失恋をしたのかもしれないし激務で疲弊してるのかもしれないし治る見込みのない重病や障害に耐えられないのかもしれないし「唯ぼんやりとした不安」かもしれないし
犯罪加害者の罪悪感か犯罪被害者の苦しみか経済問題か夫婦や育児の問題か受験や就活に失敗したか精神の病の影響かただただ自分が大嫌いなのか
とにかく100人いれば100通りの理由がある。
好きなように想像していただいて構わない。
これは希死念慮をただただ受け入れ、無視することなく向き合い続けるためだけの記録だ。
昔から、いわゆるライフログとか観察記録のようなものをつけるのが好きだった。その延長。私のこの先にとっても必要な整理となると思う。
死というのは衝動や狂った感覚に身をまかせないと出来ないと聞く。
なるべく分かりやすい文章を…と考えながら更新してゆくうちに冷静になって取りやめにする可能性はある。
が、それはそれで良いと思っている。
備忘録を兼ねるこの記録によって、次はよりスムーズに行くであろうことを自分で分かっているからだ。
ぶっつけ本番よりは成功確率があがる、それだけで少し安心する。
お守りになる。
この感覚を分かってくれる人はたぶん一定数いると思う。
その日、都内から
酷暑の夏。
私はその日、都内の某路線の電車へ衝動的に飛び乗った。スマホは持たずに来た。目的地までの路線と乗り換え駅だけを頭に入れた状態で一度も行ったことのない駅へ向かった。
この時スマホを持っていない理由は、電池切れの状態にして充電コードをハサミで切って自宅に置いてきたからだ。スマホの中を見られて足取りが分かってしまう可能性をちょっとでも下げようとしたのだが、後から考えたらパスワードがあるので中身を見るのは他人には基本不可能だった。充電するしないの問題でもなかった。
やはり死を考える時というのは判断力がどこかおかしくなっている。
二時間ほどかかる道のりも、目を閉じていたら意外とあっという間に着いた。
降りたのは無人駅。行きたいのは山間部に存在する高所だ。
その日の午前中、衝動にまかせて『とりあえず都内からさほど時間がかからず行けそうな、飛び降りに適した場所』を求めて検索しまくった。
ちょうど良い場所は少なかった。色々探しているうち6時間くらい経ってしまったが、私の望む条件に当てはまる高所をなんとか見つけたのだった。
設定した条件および願望
・下に絶対に人がいない谷・川・海のいずれかに飛び降りられる場所
市街地のビルでは通行人を巻き込んでしまう可能性があるので選ばない
・同じ理由で電車飛び込みもナシ
電車を止めるのも申し訳ないのと、跳ね飛ばされた体がホームにいる人にぶつかって大怪我をさせてしまうケースもあると聞く
衝動に負けてしまわない限りは避けたい
・明るい内に着ける範囲で、公共交通機関と徒歩のみでアクセス可能な場所
タクシー運転手さん等に察知される可能性を減らすため
・飛び降りて確実に成功できそうな高さがあること
また厳重な柵やフェンス等に阻まれていない
・自宅での首吊りもナシ
住んでいる賃貸の大家さんが良い人なので事故物件には絶対にしたくない。
・極力身元が判明しづらい状態にしておきたい
身分証明書やカード類は一切持たない。現金のみ
・あわよくば、最期に見る景色が綺麗だとちょっと嬉しい
一応、これらの条件は満たしているであろう場所へ向かった。
駅に着いたのはたぶん16〜17時の間くらいだろうか。
まだ明るかったので本来なら余裕で目的地につけたはずだが、結論を言うとその日は失敗した。
その日、失敗した理由
理由は単純。駅〜目的地の徒歩ルートのリサーチ不足で辿り着けなかったのである。
私はその場所の存在を朝からの検索中に初めて知ったが、ある程度有名な場所っぽいなーと思った程度の理由で「駅についたら案内板とかあるだろ」と安易に考えてしまった。
残念ながらそんなことはなかった。
遊歩道散策ガイドのようなものならあって、近隣のお寺や博物館等への行き方は書いてあった。しかし肝心の目的地は方向すら明示されていない。
目視の範囲では駅から見てどの方向にもしっかり山がある。どっちにどう進んでもそれっぽい。わからん。
駅周辺にはコンビニも飲食店もあったが、その時の私はどう見てもハイキングや登山風の服装ではなくカメラも持っていないので撮影目的の雰囲気でもなかった。「都心ならではの軽装です!!!!!」としか言い表せないような服装をしていた。
今から日も暮れようかという時間になってから、軽装の人物が
「すみません、⚪︎⚪︎山はどっちでしょうか?」
っていや聞けるか。私は自殺志望者ですと書いた札をぶら下げているようなものだ。通報→保護 だけは何が何でも避けたい。
首吊り用ロープは持ってきていない。
山に入って餓死のような時間がかかる手段はハナから選択肢に入れていない。そういうのは登山者が偶然通りかかったら助けを求めてしまいかねない。
その地域は、都内と違ってそもそも歩いている人がほぼ存在しなかった。車がまばらに通るだけだ。
途中ですれ違ったランニング中の男性および、個人商店の前で立ち話をなさっていたおばあちゃん2人にまじまじとガン見される。
肩身の狭い思いで歩いた。
私も地方に住んでいた時期があるのでよく分かる、こういう車社会の地域でランニングでもウォーキングでも犬の散歩でもないのに「なぜか徒歩で移動している成人」なんて怪しさ100%なのである。
服装と行き先と時間帯すべてがミスマッチという発想すらよぎらないまま、衝動に身を任せた結果がこのざま。
一応後ろめたいことをしに来ているという意識は私にもあったらしい。通報されるリスクをひしひしと感じながらそれ以上勘だけで探し続ける勇気は出なかった。
という訳でこの日はすごすごと帰宅した。
次の記事では、失敗した理由をもっと掘り下げて書いてみることとする。