ICM戦略 -BB Defense①-
0. このnoteの位置づけ
これまでICMに関するnoteを2つ出しましたが、思っていたより多くの方が読んでくれたので、3本目を書きました。今回のnoteの内容は出現頻度が最も高く、個人的に難しいスポットの一つである「ICMの影響がある状況でのBBディフェンス」です。具体的には、EFS 25bb HJの2bbオープンに対するBBのディフェンスレンジがトーナメントのフェーズ及び、対戦相手とのスタックサイズの関係でどのように変化していくのかを考察していきます。
まず、前回までの振り返りですが、これまで以下を学んできました。
トーナメントでは、Chip EVではなく、スタックの金銭的価値に基づく$EVで「リスクプレミアム」を織り込んだ意思決定をする必要がある
リスクプレミアムが大きくなるほど、各プレイヤーがチップを獲得するメリットより、チップを失うデメリットが大きくなる
トーナメントが序盤→中盤→後半 (バブル付近) に進み、リスクプレミアムが大きくなるほど、全プレイヤーのオープンレンジはタイトになる
これまでのnoteを読んでいただいた方はよくわかると思いますが、ICMが戦略に与える影響は大きいです。そして、ここまでICMの影響がある状況でのBBについても以下のような疑問がありました。
「オープンレンジがタイトになった相手に対して、どのくらいの頻度でBBをディフェンスすべき?」
「リスクプレミアムが大きくなるほど、分散が小さい戦略が採用される傾向にあるから、BBの3bet頻度は低くなるの?」
「自分がカバーしているときと、相手にカバーされているときでBBのディフェンスレンジはどう変わるの?」
今回のnoteでこのような疑問を解消できればと思います。本内容はこれまでの続きなので、ぜひこちらを先に読んでみてください。
1. 前提
今回のnoteでも、GTO WizardのICM Solutionを使います。トーナメントのプライズストラクチャなど、基本的な前提は前回のnoteで使用したものと同じなので省略します。対象はEFS 25bb HJの2bbオープンに対するBBのディフェンスとします。
それでは、BBディフェンスの戦略を考察していきたいと思います!
2. 相手と同スタックのとき
2-1. リスクプレミアム
こちらは前回のnoteと同様です。
2-2. BBディフェンス戦略の変化 (EFS 25bb)
まずトーナメントのフェーズごとのHJ 2bbオープンに対するBBのディフェンス頻度です。Chip EV, $EV 50%~25% left, $EV Near Bubbleでの傾向の違いに注目していきます。結論、トーナメントが進むにつれてBBはタイトになります。
50%~25% left
Raiseの頻度: cEVと$EVではAll-in+3betの合計頻度は大きく変わらない。cEVと比較してAll-inは減少し、3.5x 3betの頻度が2倍弱増加する
Callの頻度: cEVと比較して$EVはリスクプレミアムが大きくなるにつれてタイトになる。25% leftの状況ではcEVから15%程度減少する
Foldの頻度: リスクプレミアムの増加につれてタイトになる。25% leftでFold頻度が最大になり、40%を超える
Near Bubble
Raiseの頻度: バブル付近ではAll-in頻度はcEVとの比較で1/3程度に大幅に減少。大きなポットに参加して飛ぶリスクは避けたい
Callの頻度: Raise頻度が下がったため、callレンジに強いハンドを残せるようになる。その結果callできる弱いハンドが増加し、call頻度が25% leftと比べると高くなる
Foldの頻度: 25% leftと変わらず、40%を超える
トーナメントが進むにつれてレンジがタイトになるのは、相手もタイトにオープンしており (レンジが強い) 、リスクプレミアムの増加に伴いチップを失うリスクが増加し、BBがポットに参加するメリットが減少するからです。
2-3. ICM下でのBBディフェンスレンジの構成 (EFS 25bb)
ここまでで、リスクプレミアムの増加に伴うアクション頻度の傾向は何となくつかめました。次は、HJ 2bbオープンに対するBBのレンジ構成がどのように変化していくかを見ていきたいと思います。
All-in レンジはOOPからEQを実現しにくいポケットペア (JJ-), 強いオフスートブロードウェイが中心 (AJo+, KQo)
3.5x 3betはAll-inに対してcallする超強いハンド (AQs+) とスナップFoldするAxo, Kxo, Qxoのローキッカーを超低頻度で構築
CallのボーダーはQ4o, T7oあたり
All-inレンジは、HJがAll-inに対して88+. ATs+, AQo+でcallするので、相手のcallレンジを強くブロックしているAxのローキッカー、ドミネイトされているハンドからFoldがとれる44-33 (対77-55) や、K9s, QTs (対KQs-KTs) で構築
Light 3 betのレンジがAxo, Kxo,のローキッカーと、Qxo, Jxoミドルキッカーでブロッカー重視。気を付けないと頻度が高くなりすぎるので要注意
CallのボーダーはJ8o, T8o, 83sあたり
All-inはAKo, QQとブロッカー優先でAxローキッカーで構成 (HJは99+, AQs+, AKoでcallする)
3.5x 3betはAll-inにcallする前提のKK+, AKs+とLight 3 betのA7o-
CallのボーダーはQ8o, 86o、72sあたり
トーナメントが進むにつれて、3bet All-inがAxローキッカー中心になるのは、相手側のリスクプレミアムも増加し、Fold EQが取りやすいからだと思います。具合的にはBBの3bet All-inに対するHJのcallレンジが99+, AQs+のような構成で頻度は17%なので、callレンジをたくさんブロックしてるAxがポケットペアより優先されるのだと思います。A4以下がいいのは、4以下のキッカーが相手のフォールドレンジをブロックしてないのも理由だと思います。
また、トーナメントの中盤からバブル付近でA4oで3bet All-inするのはひよりそうだけど、気合い入れる必要がある。
実戦で相手がICMを理解していない場合には、
相手のオープンレンジが極端にタイトになる (3betでFoldされるレンジが減る)
相手がAll-inに対して適正よりかなり広くcallする
大きいポットに積極的に参加して勝手に飛ぶ
そのため、A4oみたいなハンドでAll-inするのはマイナスのプレーになると思います。ICMを理解してないプレーをすると、ポットに参加していない人に+EVが分配されるので、周りがICMを理解してない場合には、ポットに参加せず見守ることが+EVになりやすい。
3. 相手にカバーされているとき
3-1. クイズ①🙋♂️
この章ではまずは、下記のクイズに答えてみてください。
「あなたがBBで、2bbオープンしてきたHJにスタックがカバーされているとき、ディフェンスレンジは狭くなる?」
答えは [3-4. 結論] に書いてます。
3-2. BBのリスクプレミアム
ここからは$EVに絞ってみていきます。スタックが相手と同じ場合と、カバーされている場合のリスクプレミアムの比較を行ったのが下の表です。HJ 2bbオープンに対して、BB (EFS 25bb) がディフェンスする前提は前章までと変わりません。注意点としてGTO Wizardの既存ソリューションを利用したため、HJのスタックサイズおよび、卓全体のスタック配分が異なります。
上の表でわかることは、カバーされている時と同スタックの時ではリスクプレミアムは大きく変わらないということです。卓全体のアベレージスタックとその配分によって若干の違いが出るものの、トーナメントの進行度のほうがリスクプレミアムに与える影響は大きいです。
3-3. BBディフェンス戦略の変化 (EFS 25bb)
HJ 2bbオープンに対するBBのディフェンス戦略の変化についても見ていきます。トーナメントのフェーズごと比較表が下です。
50%~25% leftのスタックがカバーされている状況では1~2% Fold頻度が高くなり、少しタイトになるが戦略は大きく変化しない
50%~25% leftではレンジ構成も大きく変わらないので、詳細は省略する
Near Bubbleの時に、戦略が大きく変わっている。All-in頻度が大幅に高まり、Fold頻度が60%を超える
Near Bubbleでディフェンス戦略が大きく変わっているのを少し深堀してみます。理由は、BBとHJのリスクプレミアムの差だと思います。通常、スタックをカバーしているプレイヤーのリスクプレミアムの方が小さくなります。
前章までの同スタックの場合では、HJとBBは同スタックのため、リスクプレミアムは同じで差が0でした。次に、37% leftではBB側のリスクプレミアムが5.4%に対してHJ側が4.8%で差が+0.6%と小さいので、戦略も変わりません。一方で、Near BubbleはHJ (45bb) vs BB (25bb)と大きくカバーされているため、リスクプレミアムはBB側が14.8%に対してHJ側が5.4%で差が9.4%と非常に大きく、これによって戦略が大きく変化していると思います。
HJはリスクプレミアムの差を利用して、ポストフロップ以降も非常にアグレッシブにプレーしてくるため (Fold EQがとりやすいため) 、OOPでかつレンジが弱いBBはEQを実現できません。ICMの影響が強い場合には、ブラフキャッチのメリットも少ないです。そのため、プリフロップでのAll-inレンジを広げてEQを実現する戦略をとるのだと思います。
この場合のHJ 2bbオープンに対するBBディフェンスレンジの構成についても、同スタックの場合と比較してみる。
All-in rangeはQQ-TT, AQ+,などのバリューハンドに加えて、QJsやJTsなど相手のcallレンジに高いEQを持つハンドと、Axローキッカーのブロッカー重視のハンド
3.5x 3betはKK+, AKs, Axoで構成
CallのボーダーがK9o. J6s, 75sあたり
3-4. 結論
「あなたがBBで、2bbオープンしてきたHJにスタックがカバーされているとき、ディフェンスレンジは狭くなる?」
答えは、
少しカバーされている場合には、ほぼ変わらない
大きくカバーされている場合には、狭くなる。All-inが増えて、Foldが多くなる
4. 自分がカバーしているとき
4-1. クイズ②🙋♀️
この章でも、下記のクイズに答えてみましょう。
「あなたがBBで、2bbオープンしてきたHJのスタックをカバーしているとき、ディフェンスレンジは広くなる?」
答えは [4-4. 結論] に書いてます。
4-2. BBのリスクプレミアム
スタックが相手と同じ場合と、相手をカバーしてる場合のリスクプレミアムの比較を行ったのが下記の表です。HJ (EFS23-25bb) の2bbオープンに対して、カバーしてるBBがディフェンスします。
BBが相手のスタックを大きくカバーしているときに、リスクプレミアムが大幅に減少することがわかりました。
4-3. BBディフェンス戦略の変化 (EFS 23~25bb )
BBのディフェンス戦略の変化についても見ていきます。
スタック差が小さい50% leftの戦略を見ると、カバーしてるときと同スタックの時では戦略は大きく変化しない
スタックを大きくカバーしてる37% left~Near Bubbleの戦略を見ると、3betとcall頻度が上昇し、Foldが少なくなる
リスクプレミアムの差が大きくなるほど、3betとcall頻度が上昇する
Near Bubble: HJ (23bb) vs BB (74bb)におけるBBディフェンスレンジの構成についても少し深堀してみる。同スタックの場合と大きくカバーしてるときのレンジ構成を比較してみます。
All-inレンジは、HJがAll-inに対して99+, ATs+, AQo+でcallするので、相手のcallレンジを強くブロックしているAxのローキッカー、ドミネイトされているハンドからFoldがとれる55-44 (対88-55) や、KTs, QJs, JTs (対KQs-KTs) で構築
3.5x 3betはAll-inにcallするTT+, AQs+に、Light 3betのAxo-Qxo、FoldとのボーダーとなるT4o, 84o,52oなどのハンドを混ぜている
CallのボーダーはT6o,74o,63oあたり
4-4. 結論
「あなたがBBで、2bbオープンしてきたHJのスタックをカバーしているとき、ディフェンスレンジは広くなる?」
答えは、
少しカバーしてる場合には、ほぼ変わらない
大きくカバーしているほど、広くなる。3betとcallが増えて、Foldが少なくなる
5. まとめ
今回は個人的に難しいと感じていたICMの影響がある場合のBBディフェンス、特にプリフロップの戦略の変化について見てきました。今回の学びは、
トーナメントが進むにつれてBBのディフェンスレンジはタイトになる
スタック差が僅かなときには、カバーしてる/されてるにかかわらず戦略は変わらない
相手とのスタック差が大きくリスクプレミアムに差がある場合に戦略が大きく変わる
次回は、このようにスタック差が大きい場合のポストフロップの戦略についても考察してみたいと思います。拙い文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
6. 参考動画
今回のnoteはGTO Wizardの公式Youtubeに上がっている動画を参考にしています。興味がある方はぜひこちらの動画も見てみてください。考察の内容は異なりますが、分析方法はこちらをベースにしてます。
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