カッパラ
5年生になって、ぼくのことを「学級委員」と呼ぶ男子が現れた。たしかにぼくは学級委員だったのだが、彼の呼び方には多少の悪意がこもっていた。何でもかんでも、学級委員なんだからお前がやれよ、という感じだった。彼は、いじめっ子というわけではなく、かと言ってガキ大将というのとも違う、気に入らないものに対しては気に入らないということを表に出すような、ハッキリした子だった。おかっぱのような髪をして目がギョロリと大きく、エラの張った顔をしていた。いつも着ている黄緑のジャージと、しゃがれた声が特徴的な子で、彼の苗字と引っ掛けて、カッパラ、と呼ばれていた。
一学期の途中で、転校生がやってきた。背がとても大きくて、ガッチリした身体をした男子だったが、声はとても小さくて気の弱そうな感じの子だった。カッパラは、何故か彼のことが気に入らなかったらしく、休み時間になると、本気でプロレスの技をかけたりした。それをぼくが注意すると、じゃあ学級委員が代わりになれ、と言って、ぼくに技をかけた。カッパラはプロレスが好きで、コブラツイストや卍固めなど、次々に技を繰り出した。転校生の子は、それを止めるでもなく、困ったように見ているのが常だった。
そんなカッパラとクワガタを採りに行くことになった。カッパラの幼馴染とぼくは仲が良く、最初は2人で行くことにしたのだが、それを聞きつけたカッパラが、おれも行く、と言い出したのだった。カッパラは昆虫も好きで、クワガタのいる場所や捕まえ方をよく知っていたので、3人で行くことになった。カッパラは、おれが行くんだから絶対に採れると自信満々だった。日曜日の朝早く待ち合わせをして、カッパラの案内で、近くの山へ向かった。カッパラは、今日行くところは二番目によく採れるところだ、と言った。一番は秘密だから教えてやらない、と、言わなくてもいいことも言った。カッパラはそういうやつだ。
山道を歩きながら、時々カッパラは木の幹を足の裏で力強く蹴飛ばした。木にクワガタがつかまっていても、こうすると落ちてくるんだ、と教えてくれた。ぼくたちもカッパラの真似をして、クワガタがいそうな木を見つけては蹴飛ばして歩いた。昼近くになって、ようやくカッパラが小さめのミヤマクワガタを捕まえた。カッパラは得意気に、ほら、おれが行った通り採れただろ?と言った。それ以降、昼を過ぎてもクワガタを見つけることはできず、お腹も空いたし帰ろう、ということになった。山道を歩いていると、100円が落ちていた。ぼくが拾うとカッパラは、おれにくれ、と言った。クワガタと交換ならあげる、とぼくがいうと、カッパラは、デパートで100円でクワガタ買えるわけないだろ、おれが損するから嫌だ、と言った。
カッパラの世界観は一貫していた。自分を基本にして、許容できるもの、できないものがはっきりしていて、妥協がなかった。カッパラのことは好きにはなれなかったが、その世界観は分け隔てなく平等で、それは、イジメやガキ大将的なものとは全く違う、小学生のぼくにはいささか珍しい、「カッパラ」というものだったと思うのである。