マーケターは自分の世界だけを生きるな -マーケティングにおける「憑依」論 -
こんにちは。株式会社Icraの鴻上です。
先日「マーケターが持つべき4つの姿勢」について書きました。
たくさん反応いただきありがとうございます!
この中で客体の主観から考える「憑依の姿勢」が重要と書いたんですが、今回はそれについてもう少し深掘りして書いてみたいと思います。
「『顧客に憑依して考えろ』って言われても、どうやって考えたらいいかよくわからない!」っていう方の参考になれば嬉しいです。
前提として、「人はそれぞれ自分の世界を生きている」
まず「憑依」する前に、前提として認識しておくべきことがあります。
それは、「人はそれぞれ自分の世界を生きている」ということです。
例えば、次の文章を読んであなたは何を感じ何を考えましたか?
「20代のうちに全員一回起業した方がいい」
「ほんとそれ。」
「いや人によるでしょ。」
「極論すぎない?」
「俺には起業は向いてない。」
「今の日本だとこれくらいのこと言った方がいいよな。」
それぞれにいろんな思考が生まれたと思います。
こんな風に、表現されているものは1つの同じものであっても、一人一人の脳内では異なる反応が起こります。
人はそれぞれにこれまで生きてきた歴史があり、その歴史から生まれている世界観の中を生きています。
「ターゲットに憑依する」ということは「ある広告やある商品を見た時に、ターゲットであればどんな反応をするのか理解する」ことだと思いますが、そのためには「他者の脳を借りて、その人の世界から物事を見る」というスタンスが大切になってきます。
マーケターは自分の世界だけを生きていてはダメなんです。
他人に憑依して考えやすくするコツ
「脳を借りる」と言われてもどうすればいいかわからないと思うので、もう少し噛み砕いてみます。
人は何かを見た時にどのように反応しているんでしょうか。
人の脳の処理プロセスはコンピュータみたいに
「知覚(インプット)」
「記憶(データベース)」
「思考(ワーキングメモリ)」
「判断(アウトプット)」
で整理するとわかりやすいです。
例えば自分の話ですが、この前「ひとり温泉ガイド最新版 楽しいひとり温泉。2024」というムック本を衝動買いしました。
その時の脳内の処理プロセスを構造化してみるとこんな感じです。
雑誌の表紙と、そこに書かれている「ひとり温泉」というワードからブワッと経験記憶と思考が広がっていき、パラパラと5分ほどページをめくってみてすぐに「買ってみよ」という判断になリました。
「憑依する」という時に、ターゲットと同じ脳になってこの脳内の処理プロセスを想像できるかどうかがポイントになります。
想像するためにまず必要なことは、「どんな記憶(知識・経験)を持っているのかを把握する」ことです。
その人はこれまでどんな経験をしてきたのか。どんな知識を得ているのか。それを知ると脳をお借りしやすくなります。
「僕に憑依してください」と言われても難しいと思いますが、
「以下の経験をしたことがある人間に憑依してください」
と言われたら、想像しやすくなりませんか?
ペルソナを設定する目的の1つはこれですよね。
デプスインタビューを行う際は、過去の知識・経験と、それによってどんな価値観が生まれているのかを深掘りすると憑依して思考しやすくなるのでおすすめです。
相手の脳内を想像して表現を生み出せていますか?
相手の持っている記憶(知識・経験)を把握して憑依できるようになったら、表現を生み出す際には毎回必ずちゃんと「その人の脳でみた時に、どんな反応になるか」を想像してつくりましょう。
マーケティングで表現を考える時に、ゴールとして「こういう判断になってもらいたい」と考えると、そこに向けてストレートな表現になりがちです。
これは例えるなら「俺ってかっこいいでしょ」と言うようなもの。
絶対そんなこと言われても「あの人かっこいい」とはならないことが多いじゃないですか。
だから表現を考える時には「こういう判断になる前に、こういう思考をしてくれるといいな」と考えられるといいです。そのあとで表現を考える順番が吉。
「あの人かっこいい」っていう判断になる前に、「あの人は自分の考えを持ってるな」っていう思考になってもらえるとよさそうだ。
そのために、「自分の好きなことをトコトンやってるところ」を見てもらおう。みたいな。
例えば「USJ行ってみたい」っていう判断になってもらうために、「過去のテンションマックスになった瞬間の記憶」と紐づけて「USJ行ったらめっちゃ楽しめそうだな」と思考してもらう、みたいな感じです。
伝わるかなこれ。
「他でうまくいってる広告をパクれば当たりやすい」みたいなことを言ってる人もいますが、そうじゃないんですよ。
その広告を見て、「どんな記憶からどんな思考が生まれているのか」をまず想像して、その脳内の変化をマックス引き起こせる別の表現を考えることをしないとマーケターとしては成長しないんじゃないかと思ったりします。
まとめ
人はそれぞれ自分の脳で思考し、自分の世界を生きている
憑依するとは、「その人の脳を借りて、同じ世界から物事を見る」こと
脳内での処理は「知覚」「記憶」「思考」「判断」で構造化できる
憑依する上ではまず「記憶」を把握することが大切
表現を生み出すときは相手の「記憶」「思考」を想像し尽くす
一言で表すなら「他者の生きる世界に対する想像力を持ちましょう」ということですね。
マーケティングのスキル面を頑張って習得するよりも前に、「相手の脳内になり切る」訓練はどれだけやってもやりすぎることはない、と強く主張したいです。
ちなみにこれはビジネスにおけるマーケティングだけでなく、他者に何らかの働きかけをする上ではとても大切なスキルです。
実際子育ての時とかはこのスタンス持ってることですごくやりやすくなってると感じてます。(「お風呂入るよー!」って言ってもまぁ入ってくれませんから)
僕の場合は前職が接客業で、たくさんの人に直接商品を販売する中で「他人脳ストック」がいっぱい生まれてるんじゃないかなと想像します。
マーケターとしてこれからもとにかくたくさんの人に会って話して観察して「他人脳」をストックし続けたいと思います。
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