ビジネスの未来 - エコノミーにヒューマニティを取り戻す (山口周・著)

<<著者>> 

山口 周(Yamaguchi Shu)1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)で多くの賞受賞。多くの著書ありますが、私は『ニュータイプの時代』と『武器になる哲学』が好きです。

<<本書の概要>>

資本主義の限界や行き詰まりを指摘する言説が昨今増えてきているが、本書では、資本主義の過去・現在を冷静に分析し、日本をはじめとする先進諸国の未来、およびあるべき社会システムを論じていく。本書の書き出しは「ビジネスはその歴史的使命をすでに終えつつある」と衝撃的な内容で始まり、今の停滞したり低成長の社会を悲観するのでなく、既に近代文明化を終えて「物質的貧困を社会からなくす」ことに成功した我々を称え、それを受容した上で、新たな課題への挑戦を見出す示唆をしている。

<<本書からの抜粋>>

:ビジネスはその歴史的使命を既におえているのではないか?答えはイエス。ビジネスはその歴史的使命を終えつつある。経済とテクノロジーの力によって物質的な貧困を社会から無くすミッションだ。

:21世紀に生きる我々は”経済成長”というゲームに不法な延長・組成措置を施すのでなく、”安全で便利で快適なだけの世界”から”真に豊かで生きるに値する社会”へ変成させるべき。その為には3つのポイントがある。①終焉の受容、②現状況をポジティブに受け入れる、③新しいゲームの始まり。

:(ハンス・ロリングのファクトフルネスのデータを参照して)1800年と2019年のGDPと平均寿命を比較。多くの国で平均寿命は倍以上に伸長し、一人当たりのGDPは10~数十倍に上昇した。その中でも日本の跳躍は著しい。1800年当時はパキスタンと同等だった一人当たりのGDPが2019年にはフランスやイギリス等主要先進国と同等なレベルになった。昨今のアメリカとの比較論での”ダメ日本論”など気にせずに日本が過去に成し遂げた偉業に注目するべき。

:本書の大枠でのサマリーは4つに分けられる。①私たちの社会は明るく開けた高原社会へと軟着陸しつつある(人類が長らく夢見続けた”物質的不測の解消”という宿命をほぼ実現しつつある。長期間の上昇の後には緩やかに成長率を低下させるプラトー/高原があるべきであり軟着陸すべし。無限の上昇・拡大・成長という強迫からの解放)、②高原社会での課題は「エコノミーにヒューマニティを回復させる」こと (様々な制度疲労が指摘される資本主義だが経済性原理や社会システムに更に人間性原理を組み込むべき)、③実現のカギとなるのが「人間性に根ざした衝動」に基づいた労働と消費(未来の為に今を犠牲にするという手段主義を捨て、永遠に循環する自己充足的思考・行動様式への転換)、④実現のためには教育・福祉・税制などの社会基盤のアップデートが求められる(物質的不足を解消した文明化を推し進めるための制度設計を抜本的に見直すべき)

:経済性から人間性への転換。便利で快適なだけの社会(経済性に根差し動く社会)を生きるに値する世界(任芸性に根差して動く社会)へ変えていくことに尽きる。

:GDPに貢献しないGAFAMサービス。富の移転しか起こさず結果として貧富の差が拡大。

:高原のコンサマトリー経済。コンサマトリーの対義語はインストルメンタル(功利的・手段的)で、自己充足的・自己完結的との意味。このような社会においては「消費」あるいは「購買」が「贈与」や「応援」に近いものになり、その関係はアーティストとパトロンの関係に近い。つまり、資本主義・市場原理のドグマに頭をハックされている私達は、経済的報酬を得る為に仕方なくやる仕事(インストルメンタル)に漬かり過ぎていて、活動それ自体が報酬となる自己充足的な活動(コンサマトリー)的なアプローチが乏しい。活動それ自体が愉悦となるような営み。ハンナ・アーレントは著書”人間の条件”において、いわゆる一般的な仕事を3つのカテゴリーに分けた。既に私たち人間社会は”労働”と”仕事”から解放され残るのは”活動”のみ。この”活動”を楽しみとする。

:労働が愉悦となって回収される社会。例えばプロが無償で作り上げたLinux開発プロジェクト。マルクスが資本主義により文明化が一定の水準に達した社会では労働が苦役でなく個人個人が存分を十分に発揮する為の一種の表現方法となると述べている。

:アメリカの新自由主義・市場万能主義から北欧の社会民主主義に大きく社会ビジョンをシフトするべき。

:経営思想家のピーター・ドラッカーは起業の目的は顧客の創造で、その活動はイノベーションとマーケティングの2つの支えられると言い切っているが、これは問題の開発(マーケティング)と問題の解消(イノベーション)と言い換えられる。ビジネスは常に問題の開発と解消の組み合わせで、新たな問題を生み出すことでビジネスの延命措置が可能。

:電通のマーケティング戦略立案に用いられた戦略十訓:もっと使わせろ、捨てさせろ、無駄使いさせろ、季節を忘れさせろ、贈り物をさせろ、組み合わせで買わせろ、きっかけを投じろ、流行遅れにさせろ、気安く買わせろ、混乱をつくり出せ→ 1970年代に作成されたもの。需要の飽和を先送り。

:大規模な災害や戦争の後にはGDPが増大する。逆に言えば経済成長には破壊が必要。非倫理的にならないように”破壊”と言わずに”消費”と言う。マーケティングのお話し。

:絶対的ニーズ(生きるために必要)は限界があり、相対的ニーズ(他人に優越するために必要)は限りがない。これは”必要”と”奢侈(しゃし)”に置き換えられ、また奢侈は他者性と時間軸の観点から閉じた目的(自己満足・自己顕示)と開かれた目的(高い次元の悦び)に分けられる。

:パンデミックがグレートリセット。世界経済フォーラム創設のクラウス・シュワブ(Klaus Schwab) 会長の言葉:"The pandemic represents a rare but narrow window of opportunity to reflect, reimagine, and reset our world" "the long term economic consequences of the pandemic will exacerbate the climate and social crises that were already underway and this will make more urgent the “great reset” of our economic and social systems"。金融緩和でマネーがあふれ資本主義の意味は薄れた。いまや成功を導くのはイノベーションであり才能主義(Talentism)だ。医療や教育の社会サービスの充実。社会的市場経済ESG(Environment, Social, Governance)の重視が必要。利子は信用または資本の価値として支払われるもの。金利が安くなったということは資本の価値がなくなったということで、時間経過が資本家地の増殖との定理に基づいた社会システムは機能しなく、つまり時間の価値も無くな田ッといえる。

:ビジネスの本義を問い直す - CSV(Creating Social Value), 社会的課題の解決(ソーシャルイノベーションの実現)、文化的価値の創出(大聖堂の建設など文明でなく文化的豊かさ)、経済合理性を超えた衝動(成功者はイノベーションを起こそうと思って起こしてない)、

:成功した人のキャリア形成のきっかけは80%が偶然(スタンフォード大学教育学部・心理学者ジョン・クランボルツ教授) 故に良い偶然を引き起こす努力をするべき→ 好奇心(色々な分野に広げる。専門分野だけNG)、粘り強さ(失敗しても継続)、柔軟性(状況は常に変化するを念頭に)、楽観性(何事もポジティブに)、リスクテーク(未知な事へのチャレンジは失敗がつきもの故にチャンスも広がる)

:ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI、文化的で健康な生活を維持するのに必要な金額を、無条件で、全国民に対して、給付する制度)→ 貧困の解消と格差の是正が目的。知的生産の質と量を向上。ソーシャルイノベーションを成功させるには取組の絶対量を増やす。イギリス・ブレア首相のブレーンのアンソニー・ギデンス社会学者が提案する(生計費支給でなく人的資本に投資する)社会的投資国家。

:感情は個体の生存・繁栄に有利に働く。故に感情を押し殺してインストルメンタル(功利的・経済的のみ狭義な視点)な生き様を志向することは本質的な生命としてのバイタリティを喪失する。

:米国と日本の違い - 国土は25倍、人口は2.6倍(しかもアメリカは増加傾向vs日本は人口減少傾向)、天然資源豊富(米国エネルギー自給率92.6%, 日本9.6%)、国際公用語の英語が事実上の公用語。


<<私の所感>>

山口周さんの著書は沢山読んでいますが常に感銘するのは山口氏のリサーチ力且つ斬新な切り口で且つ高い視座で世界の流れを読んで読者(である私)に自分が無知で更に学ぶことが多くある事をリマインドしてくれる点です。また山口氏の著書を読み終えた自分に多くの色眼鏡が備わった錯覚になり価値観や世界観に変化が起きたことに気づきます。逆に言えば自分の愚かさや未熟さを痛感し精進したい気にさせられます。本書は主にビジネスに関して話が展開されているので自らを投影し読むことが出来ました。ビジネスが歴史的使命を終えている事、文明よりも文化的豊かさが必要な世界、経済性から人間性の転換が必須であること、資本主義・市場原理主義を活かしながら社会民主主義を実現させるべく活動すべき事。多くの視点に共感し私が日頃行っている事業が、山口氏の思い描いている理想の世界の一助になることも確信し更に広く太く活動する決意が持てました。日本は、トヨタやパナソニックの創立者が目指したように、物質的な豊かさを目指し物凄いスピードで達成させました。つまり小さなアメリカになりたっかた。しかし小さなアメリカになった後は目的を見失ってしまった。では逆に明治維新前の日本人もしくは日本社会は豊かでなかったのか?私の理解は文明化されていないが文化面では豊かだった。となると、世界的に文明化され今後文化発展が求められる社会では長期間文化的成長・発展を成し遂げた日本が世界に貢献できる領域は多く・広いはずです。資本主義・市場原理のドグマに洗脳され感情を殺して一生懸命働いている真面目だが乏しい日本人は多くいるはずです。経済的報酬を得る為に仕方なくやる仕事(インストルメンタル)に漬かり過ぎていている事を自覚して過去の日本人から学ぶものがあれば突破口は見えてくるはずです。頑張れニッポン!


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