鷺巣詩郎さんの「執筆録」、読了しました

鷺巣詩郎さんの「執筆録」、読了しました。

内容としては、音楽制作者向けの内容も多く含むものの、第一線の職業ミュージシャンの日常がわかる貴重な資料として、万人にも楽しめる内容なのではないかと思います。

鷺巣さんの専門分野である、コンテンポラリーブラックミュージックとフィルムスコアに関しては、やや詳しい基礎知識が求められます。

音楽理論に関する見解や機材、特にプロツールスに関する興味深い見解などもしばしば出てきますので、その辺の知識もあるとより楽しめる書籍ではございます。

ただこの点については、今はGoogleやApple MUSICなど便利なものもあるので、わからないこと、知らない曲が出てきたら調べながら進むというのも、この本の楽しみ方とも思います

実際私も、知らない曲などはApple MUSICで探したり、ググったりして読み進めました。

この本で一番印象的なのは、鷺巣さんのようなスコア作成をベースにした作編曲家にとって、優秀なプレイヤー不足の問題が、本当に本当に、深刻なのだなぁとひしひしと伝わってきたこと。

伝統工芸の後継者不足とかと、本質的に同じで、仕組み作りから取り組まないといけない問題という認識です。

我々ファンにとっても、鷺巣さんの音楽は譜面ではなくCDやストリーミングで耳に届けられるものなので、優秀なプレイヤーがいないことによるクオリティーの劣化があるとしたら、それは残念なことこの上ない。

やはりこれだけ機材が発達してしまうと優れたクリエイターは楽器の練習より脳内に鳴り響く音のコンピューター上での再現に時間を費やしてしまうのは仕方がないことですし、その傾向が強まるばかりなのかなと言う気がしております。

またプレイヤーや歌い手に求められるクオリティがどんどん高いものが求められているのかなあと言う気がしております。

なぜなら機材の発達により、ノイズ、息遣いなどのひとつひとつがより明晰に記録できるようになっているためであります。

また機材の発達により、「録音」より「編集」にかける時間が跳ね上がったという部分は同感で、先日友人の手伝いでリリースした曲などでも、録音したものを届けるところまで持っていく作業の、なんと長くて険しいことよ。

一方で一発録りのセッションを気軽にYouTubeなどにアップできる環境もあるので、かえってそっちの方が伝わったりなんかすると、ますます音源作り込みのモチベーションからは遠ざかる…。

なんか暗くなってきてしまうのでこれ以上は書くまい。

きちんと作り込んだ音楽を聴きたいという欲求は絶対に無くならないので、そういう人のために、日々研鑽を重ねていきたい所存でございます。

ちょっと話はそれますが、最近、かつてグレゴリオ聖歌や民族音楽をハウスのリズムに乗せてヒットさせた「エニグマ」みたいに、コンセプチュアルに音楽を作りたいなと、考えています。

例えば、てぃんさぐぬ花って、実は1番から10番まであるらしいんですよ。

しかし、これだけネットが発達した今でも、10コーラスフルに歌った録音物を聴くことは、できない。

なので、ないなら作ってしまおう、いや、ないからこそ、作ってしまおう、ということで、例えば今話題のAIきりたんに歌わせてみて、アレンジを作り込んでリリースしてみる、とか。

コンセプチュアルに音楽を作っていきたいです。

賛同いただける方、ぜひご一報を!

さて、鷺巣詩郎さんの執筆録に戻ります。

この本からの学びは、

・ブルーノートはルートへの重力との戯れである
・フィルムスコア(劇伴)には完璧を求めない
・超ハイファイなプロトゥールズ時代のサウンドプロダクション、それまでとの違い
・最初のイメージからブレない曲作りを作り切る大切さ
・書道と同じで譜面を書き続けることで人柄や個性が出る

など挙げればキリがありません。

度々出てくるHidden wonder of music(音楽の秘めたる驚き)という言葉もいいです。

また、お父さんのうしおそうじさんと詩郎さんの少年時代の鷺巣家のことを愛情深く回想しているのも良い。

父親をこんなに誇らしげに語れるって素敵ですね。

また、ある箇所ではすごくピュアな一面が顔を出し心打たれます。

音楽漬けの日々が綴られ最後は奥様への感謝が突然顔を出す展開も心打たれます。

ロンドン・パリ・東京、の3拠点の目まぐるしい、移動生活を奥様と常に共にしたっていうんだから、なんて素敵なご夫婦だ!と思ってしまいました。

少しでも興味を持たれたら、ぜひ読んでみてください。

これも本で知ったのですが、鷺巣詩郎さんの作編曲によるMISIAの「The Glory Day」(超名曲!)の、アカペラバージョンをテイク6がやっていたんですね。すごく素敵なトラックに仕上がっています。そんな素敵な発見もあり、しばし読後の余韻に浸りたいと思います。



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