夏休み
空にできたこの飛行機雲を、いちばんに見つけたのは絶対私だと思う。
山の尾根に立って、空を見上げて、
顔から、首から、背中から汗がつたっているのがわかる。
気持ち悪い。
腕で拭うと袖まで汗で濡れていて、
服のびしょびしょが顔にひんやりしてより不愉快な気持ちになって顔をしかめた。
7月31日に海に行った。
海で遊んでいる小学生を見ながら、
帰ったらお母さんの作ったご飯食べてテレビ見て寝て、ラジオ体操行って、クーラーきいた部屋でもっかい寝て、カップヌードルのシーフード味食べて……とか考え出すと、夏休みの楽しさを思い出して楽しくなった。
ゴミの日を確認しようとカレンダーをみたら8月2日になっていた。
もう8月の2日なのか。7月おわったじゃん。夏休みあと一ヶ月切っちゃったじゃん!
そう思うといきなり心がどんよりし始めた。
数字が増えるということは、学校に行かなくてもいい日が減っているということだ。
9月1日という学校に行かなくてはならない日が確実に近付いている。
憎むべき恨むべき9月に、生きれば生きるだけ確実に近付く。
行かなきゃと、でも行けないなぜなら行きたくないからの狭間で苦しむ、また。
はい! もうやめようやめよう!
25歳のおばさんには夏休み関係ないんでした!!!
全然好きじゃなかった。
夏休み、私全然好きじゃなかったんだった。
海で遊ぶ子どもたちが眩しすぎて忘れかかってた。
近所の干物やさんでサバの桜干しを買って、車に戻る海辺の道を歩いていたら、
風がブワッと吹いて、それでも空気は蒸し暑くて、太陽は超元気で、
私は生理で腹が痛くて、汗で湿ったブラが不快で、また太ったので着ていたTシャツはキツかった。
目を薄めて入道雲を見ながら、
うわー、逆に死にてーーー、
と思った。
高校生の頃と全く同じようにそう思った。
高校生の時は思い詰めた。何日も何時間も。
25歳の私は、
さー帰って梅干してるやつ裏返さなあかんからなー唯は、と思って車に乗り込んだ。
エンジンをかけたら死にたいことは忘れていた。
健全な大人でも、ヘルシーな社会人たちも時々は、あー死にてぇと思ったりするのかな。せんのかな。
一瞬思うくらい、私は許すよ。何歳になっても。誰でも。
延命延命でいいから、死にたくなるのがちょっとづつ短くなる日まで生きとくことは可能?
9月1日には、好きなところにいき。
学校じゃなくて。必要なら車出したる。
宿題なんて捨ててしまえ。どうせ手つけてないんやから。
それで一緒に怒られよう。その後どうしたらいいか、一緒に考えよう。
宿題提出するよりさ、そういうことのほうが大事なんちゃうかなって思うねん。ほんまに。
嫌々学校行くよりさ、好きなところにいくほうが偉い気するし。
やからさ、頼むから、そんな顔せんといてよ。