【作曲者による】光田健一さん【ライナーノーツ】

今年の頭に、全曲委嘱新作コントラバス作品のアルバムを発売しました。「コントラバスの新しいレパートリーを作りたい。」がコンセプトなので、CDと合わせて楽譜も販売しております。


今回がっつり3楽章形式の組曲を書いてくださった光田さん。
ライナーノーツをお願いしたところ、木村との出会いまで遡り大変嬉しいお言葉を頂戴しましたので、ここに掲載させていただきます。今後沢山の奏者に取り上げてほしいので、その際はプログラムノートにも是非こちらを参照いただければ幸いです。以下光田さんより。


木村将之くんと 


どの世の時代にも、実にたくさんのVirtuosoの方々がいらっしゃいますが、その技術と演奏力、更には人間力に接するにつけ、「ああこの方はこの楽器を奏でるために産まれ出で、今ここにあられるんだなぁ」と感銘を受けます。そうして多くの作曲家たちは、こんな素晴らしい演奏家の人に、自身の作品を演奏してもらえたら、それはそれはどれだけ幸せだろう...と感じるのです。感じて、すぐさま作曲行為に入るひらめき型もいれば、じっとじっと心と頭の中で温め続ける熟考型もいるでしょう。 

木村将之くんと出逢ったのは、随分前、確か銀座老舗クラブのジャズ・セッションだったと記憶しているのですが、最初に会った印象は、ベースがもの凄く大きく見えるくらいの、彼のスマートな佇まい。ところがその細い両手からハジケ出てくる音は、太いし強いし優しいし、何より上品で、でもそれでいていろんな意味でそれは大きいもので、とにかく圧倒された。ジャズ系のセンスは無論のこと、落ち着きとひらめきを兼ね備え、中でも時折出てくるarcoを聴けば、彼がクラシック奏者としてのハイレベルな素養が培われていることはすぐにわかり、今日自分は世界的にスゴイ、ハイブリッド奏者とめぐり逢ったのだということを頭の中で整理しながら、ライブ後の高まりも相まって興奮気味に帰路についたことを覚えています。 

その後、クラシカルなエッセンスのものも含め、これまでかなり幅広いスタイルの現場を作編曲家兼演奏者としてご一緒していますが、彼から委嘱新曲の連絡をいただいた時には、驚きと喜びで、メール画面を見ながら思わず「おー」っと声が出ました。 

木村くんはコントラバスのアンサンブルや編曲、楽譜作成、動画の配信など、コンバス界のかゆいところに手が届く的な、ある種の普及活動も積極的にされているので、委嘱作品の方向性としては、幅広い演奏家の方を想定した、いわば中クラス程度の難易度が好ましいのかな...などと悩みながら、作曲にとりかかりました。第1楽章が概ね出来たところで、難易度の想定について「上手な音大生」か「プロがレパートリーとしてチョイスする作品」か「木村将之」かを相談してみたところ、「オレでお願いします」と即答いただき、直ぐさまリミッターを解除し、発想を自由転換。重音も増やし、フラジオ含め高音部はオクターブ上げたりなどなど、一気に第3楽章までを書き上げました。初演の録音では、改めてその技術と表現力の素晴らしさに胸が高鳴り、また後輩にあたる作曲家でもあるピアニストの松下倫士くんとのダイナミックで絶妙でなアンサンブル、ほとばしるパッションを目の当たりにし、ああ自分にもこんな時があったろうか...いやいや昔とはレベルが桁違い...などなど、東京芸大作曲科入学時のサラダデイズ、柔なあの頃を思い出し、この日もまたかなり興奮気味に帰路についたのでした。

作品について 

素晴らしいコントラバス奏者の演奏は、幾分大袈裟にいうなら、まるで心の叫びのような、身を削り切るような歌唱に聞こえ、胸に迫ります。オーケストラで最も大きい弦楽器を、およそ7600万年前に生きた恐竜「ランベオサウルス」になぞらえ、その命を育む懸命な鳴き声をイメージした作品にしました。ランベオサウルス=鳥脚類としては最大級の10~15m。頭に独特のトサカがついていて声も大きかったとされる、ユニークな存在の草食恐竜。Lambent=光が揺れる。輝く。軽妙。「ランベント・ランベオ」=「キラキラ踊る、ランベオサウルス」の意。

7/8拍子が目立つ第1楽章は、バロック時代の組曲に倣いつつ、アルマンド(4/4拍子のドイツ風舞曲)とサラバンド(3/4拍子のスペイン風舞曲)を混ぜた造語の「アルサラマンド」。ランベオは懸命に生きるための作務を日々こなすが、上を下への西から東への使命が困難過ぎて、最早踊っているようにしか映らない。 

第2楽章は、ハイポジションの旋律がひたすらつながっていくアリア。しだれ落ちる雨が、ただただ綺麗な情景。社会の不条理さに悲観し、森の洞窟で寂しさを募らせるランベオの美しい瞳。静かな地球、密やかな古代の午後。

庶民の民族舞踊が発祥とされる古典舞曲であるガヴォットに、最上級の「-ssimo」と付け足した造語「ガヴォッティッシモ」。第3楽章は、ほどほどに快活な奇想曲(カプリッチョ)。ジャズ風なアドリブダンスの応酬を見ていたたくさんのランベオが一斉に集まってきて、第1楽章のテーマを基に、最後には全員でダンス・フォーメーションを決め、一気に終える。

以上、あくまで作曲者から見た独断的イメージですので、聴く方や演奏される方は、また別の違った印象を抱いてくださるとひときわ嬉しく思います。ト音記号で書かれたハイポジションが高すぎて演奏困難な場合は、随時オクターブ下に変更してください。改めまして最後に、このような喜ばしい機会をくださり、楽曲に心を向け、想像以上に拡張してくれ、素晴らしい演奏を残してくれた木村将之くんと松下倫士くんのお二人に、心いっぱいの感謝を申し上げます。
Kenichi Mitsuda 2023-2024

楽譜は以下からダウンロード販売しております。
CDの方も是非!


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