マガジンa quiet dayのこれから
今回の最新号となる11作目のマガジンa quiet dayの製作に際し、「より抽象的なテーマにすること」「新しいチャレンジをすること」「経験価値を最大化すること」の3つを完遂することを編集長としての目標として掲げていました。
より抽象的なテーマヘ
一つ目の「より抽象的なテーマにすること」としては、昨年10月にローンチした10作目までを通して、割と北欧のクリエイターからの姿勢を客観的に見てみて、自分がメインとして生活している日本や東京に今足りないことを対比してテーマを設定していました。そして10作目では「Future」未来をテーマにすることで、来たる11作目からのセカンドシーズンへの架け橋にしたかったという訳です。
また同時に、9作目あたりの製作や現地取材をしている頃から少しずつマガジンに対する期待や役割、取り巻く環境の変化も相まって変化が見られたということも大きいです。
代表的な例を挙げると2019年4月に日本でローンチしたProlog Cupがあります。これは、デンマークのクラフト陶器アーティストOh Oak(Season6掲載)とデンマークのコーヒーロースターProlog Coffee Bar(Season8掲載)をa quiet dayがコンダクターになる形で繋ぎ合わせコンセプトなどをディレクションし形になっていきました。このうようにマガジン以外の形としてアウトプットする機会が格段に増えてきたのが事実です。
その他の例でいうと、新しい旅のプラットフォームTravel Kollekt(ISSUE 2018 October掲載)を立ち上げたLouiseさんと協力してデンマークの首都コペンハーゲンのガイドブックをキュレーションさせてもらったり、といったようにハード面、ソフト面両方の領域でアウトプットが出せてきています。
さらにフィジカル面。これは現段階では日本国内限定の活動になっていますが、全国の蔦屋書店さんのご協力のもと各店舗での「言葉とモノ」にフォーカスを当てたフェア展開(東京、大阪、福岡の3都市で開催)、そしてインテリアショップACTUSさんとの長期的なデザイン・アート・クラフト・ファッションの行く末を一緒に考えさせてもらう機会をいただいたりといった形で変化してきています。こういった変遷を経て、前述の通り10作目までの「北欧の要素を抽出したマガジン」から「北欧と日本の共通要素や問題意識を見出し編集していくマガジン」へと真価させていきたいと考えが芽生え始めました。
この北欧と日本の共通要素。言うのは易しなのですが、実際に考えてみると実に抽象度が高く、言語化しにくいということが分かるかと思います。それに日本の古くから積み上げられている文化的な部分のことについて自分があまり知らないということもあり、改めて谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」や岡倉天心の「茶の本」の書籍や茂木健一郎さんの著書「IKIGAI」など日本人のアイデンティティや美意識が編集されている書籍などを通して見識を深めていきました。
そこで浮かび上がったのが「侘び寂び」という概念。概念の解説については、それだけで一冊の本になってしまうと思うので他に譲るとして、この言葉の情景をイメージしてみると、使い古された中に宿る美しさがシンプルな空間の中に配置された情景が思い浮かびます。少なくとも過去マガジンで取材させてもらった北欧の方々と仮に一緒にその情景を見た時に、同じように「美しい」と感じてもらえるだろうなという感覚がありました。つまりその情景を「侘び寂び」という言葉を使わずに自分なりの表現に変えてみると、「時」の流れと共に絶え間なく変化し続ける一定の完成形を保たない状況、つまり「不完全」「imperfection」というキーワードを今回のテーマとして据え置くことにしたのです。11作目を皮切りにセカンドシーズンでは、言語化されていない価値やナレッジを可視化していきたいと思います。
マガジンからクリエイターファームへ
そして2つ目の「新しいチャレンジをすること」というのは、11作目からチャプターに取り入れた「THE COMPASS」という部分にあたります。前述したマガジンを取り巻く状況の変化からも分かるように、ただ何かが編集されたマガジンというものではなく、ある種の「クリエイターファーム」の一要素として再定義することも可能になってきました。いわゆるクリエイターたちが新たに何かを生み出すためのプラットフォームになっていければと思っています。
それと同時にそのアウトプットのマクロのチャネルとして日本と北欧、流通としてマガジンを基軸にしたあらゆるメディアを通じて表現して「紹介」していく「商會」のような役割があるのではないのかなと感じています。まさに「クワイエット・デイ商會」のごとく異なるプレイヤー同士を「紹介」し繋げていくために、北欧だけでなく世界の技術や職人の宝庫である日本のローカルプレイヤーにもフォーカスを当てて行こうと考えて、彼らの生き方や考え方を国内外に発信し、現代の私たちが持つべき「COMPASS」を考えていきながら、a quiet dayのこれからの道しるべとして考えていきたいという裏の狙いも実はあったりします。
a quiet dayの「編集型の旅」
最後の3つ目になる「経験価値を最大化すること」。マガジンa quiet dayの製作は正直大変な部分が多いと客観的に見て感じています。なので、関わってくれている仲間、そして自分の経験価値を最大化(この製作プロセスに関わることで、新たな気づきや発見が生まれ個人そして集団として前進していける状況)していきたいと感じていました。
製作を全て一人で行なっていた頃から変わらず貫いていることは、現地で人に会って生のありのままを伝えていくということ。だから、このマガジンa quiet dayの製作を振り返ってみると、必然といつも「旅」が中心にあり、切っても切れない存在だったのです。ただそれは各地に足を運びいわゆる観光をするという意味ではなく、マガジンのテーマをいつも頭の片隅におきながら、その土地のこと人のことについてインタビューをしながら「旅」をする「編集型の旅」なのです。ここでいう編集とは、人の言葉を聞きながら、咀嚼し、自分なりの言葉で再び語っていくということです。これの経験により、自分の意識や考え方がアップデートされ、どのような状況でも割と楽しく乗り越えていけるようになった気がします。
私の話についてはさておき、このテーマを持って誰かの話を聞く、さらには「旅」という要素を加えて実行するという経験を編集チームと共有することで経験価値を最大化したかったのです。今回新たに発足したチャプターの「THE COMPASS」をきっかけに、長野の松本を拠点に寝食を共にしながら「編集型の旅」を決行しました。
その場所の経験やインプットだけでなくマガジンのコンテンツとして写真や文章として各自の得意を活かしながら作っていくことで、ただ単に人の話を聞くというフェーズから経験やインプットを自分の言葉で再び語り直すことにより、次第にそれは自分たちの考えへと昇華し、チームビルドされていくという気づきも生まれました。
以上の3つの点がマガジンを手にしただけでは伝え切れないプロセスの部分であります。
世の中には、目には見えないことや普段は言語化していない事柄がたくさんあると思います。そして当人にとってはそれは日常であるケースが多い反面、他の人から見たら価値のあることばかりだと考えています。だから学び続けていきたいと思っています。
引き続きマガジン a quiet dayでは、”小さな声”(実際に小さいという意味ではない。)編集型の旅を通じて可視化し、新たなことが生まれる状況を作っていきたいと思います。
人生は日常の積み重ねです。
豊かな人生を送りたければ、豊かな日常を。
そして豊かな時を。
a quiet day 編集長 岩井 謙介
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