法律答案の書き方(総論)

 大学や予備校では法的三段論法について詳しく教わらないし、予備校教材の参考答案も法的三段論法を崩しているものが多い
 それなのに、答案添削では「法的三段論法が使えていません。」とコメントされ、どうすればいいのかわからない…
 というのは、法学部生や司法試験受験生にとってあるあるだと思います。

 合格者のほとんどは、数多の答案を読んだり書いたりする経験を通して感覚的に「法的三段論法の使い方」を身につけているため、その「法的三段論法の使い方」が言語化されることは多くありません。

 そこで、本稿では、「法的三段論法の使い方」について、できるだけ言語化して説明してみたいと思います。

1 三段論法の基礎知識

(以下の内容は「法律答案の書き方」との関係では知らなくても全く問題ありませんが、「できるだけ言語化する」というコンセプトのもと、用語の定義からはじめています。)

 三段論法とは推論規則の一部である。そもそも推論とは、一定の前提命題から、論理必然的に(前提命題とは異なる)結論命題に帰結するものとする論議をいう。そして、前提命題と結論命題を結びつける一定の構造連関によって「推論の正しさ」が特徴づけられる。このような構造連関のことを推論規則という。
 三段論法は、① 前提命題が二つであること、② その前提命題と結論命題の各々が四つの量質記号(全称肯定・全称否定・特称肯定・特称否定)のどれか一つによって結合された二つの項から成り立っていること、③ 各々が任意に何らかの様相子に支配されていることを条件として成り立つ推論規則である。

 上記の①〜④を満たすような推論の構造は、概念の配置に基づく四つの格と命題形式の区分に基づく64通りの式との組み合わせによって4×64=256通り考えられ、このうち推論規則として有効なもの(=「推論の正しさ」が特徴付けられるもの)は24通りある。すなわち、三段論法とは、この24パターンある推論規則の総称である。

 法的三段論法は、後述するように二つの三段論法の連鎖式によって成り立つが、いずれの三段論法も第1格A-A-A型であり、小前提は単称命題である。

 何を言っているのかさっぱり分からなかったと思うので簡単に要約すると、以下のような内容です。
・「推論の構造」によって「推論の正しさ」が決まることがあり、そのような「推論の構造」のことを推論規則と言います。
・三段論法は一定の条件のもとで成り立つ推論規則の総称で、全部で24パターンありますが、法的三段論法ではその中の一つしか使いません。


2 基本的三段論法

 法律答案においては、以下のような三段論法が基本になる。これを本稿では基本的三段論法と呼ぶ。

・大前提:法律要件→法律効果
・小前提:事実⊂法律要件
・結論:法律効果の発生

・補足
 法律要件は、いくつかの要素に分解することができる場合がある。本稿では、この場合の各要素を「法律要件要素」と呼び、その総体としての「法律要件」と呼び分けている。
 基本的三段論法における媒概念は「法律要件」であり、後述するあてはめの三段論法における大概念は「法律要件要素」である。

・具体例

「人を殺した者」には、殺人罪が成立する。
甲は、「人を殺した者」にあたる。
∴ 甲に殺人罪が成立する。


3 あてはめの三段論法

 法律要件要素が多義的であったり、語義が明確でなかったりする場合、基本的三段論法だけでは「推論の正しさ」を担保することができない(語義曖昧による誤謬)。

 そこで、そのような場合には、法律要件要素の具体的内容(具体的法規範)を明らかにした上で、その具体的法規範が事実を包含していること、したがって法律要件要素を充足していることを示す必要がある。
 本稿では、この三段論法をあてはめの三段論法と呼ぶ。

大前提:具体的法規範⊆法律要件要素
小前提:事実⊂具体的法規範
結論:事実⊂法律要件要素

・補足
 「事実⊂法律要件」は、「事実⊂法律要件要素」の集積である。この意味で、あてはめの三段論法の結論部分と基本的三段論法の小前提とが関連する。
 したがって、法的三段論法とは「基本的三段論法あてはめの三段論法連鎖式」である。

・具体例
 窃盗罪が成立するための法律要件(構成要件)は、以下の法律要件要素(構成要件要素)に分解可能である。

  • ① 「他人の財物」

  • ② ①を「窃取した」こと

  • ③ 故意

  • ④ 不法領得の意思

 このうち、②の「窃取」については、法律用語であるため、語義を明確にした上でその充足性を論じる必要がある。

 「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物の占有を移転することをいう。
 Vに無断で本件腕時計を持ち帰った行為は、占有者の意思に反する占有移転にあたる。
 ∴ 上記行為は、「窃取」にあたる。

・発展(執筆中)
「あてはめ」は「評価」か?

 事実概念の法律要件要素(事実的法律要件)と評価概念の法律要件要素(規範的法律要件)に分けて考える必要がある。
 規範的法律要件のあてはめは、言うまでもなく、評価根拠事実の「評価」によって行われるのに対し、
 事実的法律要件のあてはめの場合、事実と法律要件の関係は抽象-具体の関係であるはずであり、「評価」を介すことはない。

引用:高橋文彦「『法論理』再考:三弾論法から対話的なデフォルト論理へ」(慶應義塾大学学術情報リポジトリ)


4 省略三段論法

 大前提・小前提・結論のいずれかが省略されていたとしても、その省略部分を状況や文脈から推定することができる場合には、三段論法として成立する。

 例えば、「雨が降ってきたから傘をさした」という文には、その前提として「雨が降ってきたならば傘をさす」という命題が潜在する。
 このように、小前提と結論とその間の因果関係が示されていれば、大前提を推定することができる。
 以下のような例文のように、中心的論点ではない法律要件要素については、省略三段論法を用いて、あてはめの三段論法を示すことが多い。

 本件腕時計は、Vの所有物であるため「他人の財物」にあたる。

 また、基本的三段論法における大前提は、条文を示せば足りるため、省略されるのが通常である。


5 まとめ

  • 基本的三段論法とあてはめの三段論法の連鎖式

  • 大前提は省略可能な場合がある。

答案の書き方(各論)

補論


いいなと思ったら応援しよう!