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思い出すことが学びを深める ー リドリーバルと学習の科学

学びを深めるために重要な「リドリーバル(retrieval)」。これは、ただ記憶した情報を受動的に復習するのではなく、自ら思い出そうとするプロセスを意図的に繰り返す学習法です。今回は、リドリーバルを実践したいと思ったときに生じがちな疑問やその答えを交えながら、その効果と実践法を解説します。

リドリーバルとは? ー 学習における「思い出す」ことの効果

リドリーバルは、記憶した情報を自分で思い出そうとする学習法です。例えば、暗記した単語や学んだ知識を、ノートや資料を見ずに頭の中で再生することがそれにあたります。科学的には、思い出すこと自体が脳を刺激し、シナプス結合を強化するため、単に情報を見返すよりも記憶の定着効果が高いことが分かっています。

また、「思い出そうとする」ことが学びに積極的に関わる姿勢を促し、情報へのエンゲージメントを高めます。このプロセスは、思い出せなかった場合も含めて脳に良い刺激となり、記憶に残りやすくするのです。

リドリーバルを活用した学習の方法 ー 具体的なステップ

ステップ1: 短時間のリドリーバルを行う

リドリーバルの1回あたりの時間は1~2分で十分です。この短時間で、できる限り自分で記憶を引き出すことを意識します。

ステップ2: 思い出せない場合は一旦諦める

思い出そうとしても2~3分経っても思い出せない場合は、無理に続けず、一旦諦めて別の作業に移るか、時間を置いて再挑戦するのが現実的です。すぐに答えを見ずに、あえて「思い出すまでのプロセス」を大切にすることで、次回リドリーバルに成功しやすくなります。

ステップ3: ヒントや手がかりを活用する

どうしても思い出せない場合、手がかりを使うことが効果的です。キーワードや関連情報を見て思い出す手助けをし、もう一度リドリーバルに挑戦します。

ステップ4: 最後の手段として調べる

手がかりを使っても思い出せないときは、調べることもOK。ただし、答えを確認したらそれで終わりにせず、調べた情報を元に数日後に再度リドリーバルを行い、記憶をしっかりと定着させます。

リドリーバルに関する素朴な疑問とその答え

Q1: 思い出せなかったら、記憶には全く意味がないの?

A: 思い出せなかったとしても、そのプロセスには意味があります。思い出そうとする努力そのものが、次のリドリーバルに成功しやすくなる要因となり、脳に「覚える必要がある」と認識させることで記憶の強化に繋がります。

Q2: なぜメモや資料をすぐに見てはいけないの?

A: すぐに答えを確認してしまうと、脳が自分で記憶を引き出すプロセスを飛ばしてしまうため、定着しにくくなります。思い出す努力が記憶の定着に不可欠であるため、まずはノートや資料を見ずにチャレンジすることが大切です。

Q3: リドリーバルはどんなタイプの学習に有効なの?

A: 言語学習、歴史の暗記、数学の公式など、どんな分野にも効果的です。特に暗記系に強いですが、クリエイティブな思考や問題解決能力の向上にも役立ちます。

Q4: リドリーバルは一人じゃないとできないの?

A: 他人と一緒にリドリーバルを行うことも可能です。例えば、パートナーとクイズ形式で行ったり、ディスカッションで思い出す行為を組み合わせると、協力的な学習にもなります。

リドリーバルを効率的に進めるための「スペーシング」

スペーシングとは、一定の間隔を空けてリドリーバルを繰り返す学習法です。この方法は、エビングハウスの「忘却曲線」に基づき、記憶をより長期的に保持するために有効です。

スペーシングのおすすめタイミング

  • 学習直後に1回リドリーバル。

  • 1日後、3日後、1週間後、1か月後と間隔を空けながらリドリーバルを繰り返す。

このように、徐々に間隔を空けてリドリーバルを行うことで、情報が短期記憶から長期記憶へと移行し、定着が強化されます。

リドリーバルを続けるコツとまとめ

リドリーバルは、短時間の集中と反復、そして思い出す努力を続けることがポイントです。無理に完璧に思い出そうとするのではなく、思い出せなかったらヒントを使い、最終手段として調べるなど、柔軟に対応しながら進めていくと良いでしょう。思い出すことに対して気楽な姿勢で取り組むことで、より効果的に学びを深められます。

リドリーバルの実践を通じて、受動的な復習から抜け出し、記憶に能動的に関わる学習方法を取り入れてみてください。

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