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#6 そのスイッチを押したのは

「あなたの新しい一面が見てみたい」

10代最後、そして休学生活最後の舞台。
演出家の彼は大きな課題を私に与えた。
今思えばこの作品が、それまでの私を変える小さなスイッチとなった。


私に与えられた役柄はこうだ。
バス整備士として真面目に働いていた彼女は、ある日、バス会社が起こした事故の罪を擦り付けられてしまう。
会社に、人に裏切られ何も信じられなくなった彼女は復讐のためにバスジャックを起こす。


今まで私が演じてきた役は真面目なキャラクターが多かった。
それに比べて今回の役はすべてが未知で。
しかもト書きには「ケラケラと笑いながら拳銃を向ける」の文字。
引き出しのない私にできるのか不安しかなかった。



結果からいうと舞台は無事に千秋楽を迎えた。
新しい自分を知ることができたと身をもって実感した。


でも同時にまだまだだ、と痛感した。
今の私ではここまでしか出せない。もっともっと全身で表現がしたい。
そう強く思った。


じゃあどうしたらいいのか。


今の自分と向き合わなきゃだめだ。

学校のこと、これからのこと、自分はどうしたいのか。
いつまでも見て見ぬふりしてちゃ始まらない。

私の心がちょっとずつ動き始めた。



何がそこまで動かしたのか。今考えると気づいたことがある。
それは「人と言葉を交わすこと」。

難しい役ということもあり、稽古中はとにかくたくさん話をして相談した。
声の出し方、役のこと、作品について。
そうするとだんだん人と話すことに苦手意識がなくなってきた。
というより、トラウマが解け始めたのだと思う。

ムカつくことも傷つくときもあるけれど。
少しずつではあるけれど。
人と言葉を交わすことってこんなにも大切なんだ。
こんなにもおもしろいんだ。

あぁ、そっか。
「私は人と話すのが好きだったんだ」

そこに気づけたとき、もう私の心は沼から顔を出していた。

休学終了までは1か月あったけど、私の心は決まっていた。

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