見出し画像

堀 「話はそれからだ…」と中年男は言った シーズン2 その4

俺たちは“奴”の取り巻きに完全に包囲された。
正確には“奴”の取り巻きではなく、ペヤングの取り巻きなのだ。
ペヤングはここ狭山ヶ丘国際大学の理事長の孫だか娘ということで、その財力と権力で取り巻き共を集めている。
この取り巻き連中ってのが揃いも揃ってカス糞汚物の類いだ。
調子に乗って、先頭に立ち今にも俺に飛び掛かかってきそうな勢いなのが堀込って奴だ。
大学に入ってまでも坊主頭の野球部員。
素人目に見ても下手な癖に何故かエースで四番なことから、監督と何かあるんじゃないのかと噂の男。

「風間、お嬢様が席開けろと言ってるんだ!さっさと退け!」

堀込が顔を近付けて凄む。
堀込の顔はくどい。眉毛は太く、目鼻口の全てが大胆で大袈裟な作りの主張激しいパーツばかりで、繊細さの微塵も無い。
ちょうどあれだ。福笑いみたいな顔だ。
中でも堀込の唇は何処か不穏なものを感じさせる。
それは何か…、多分色と艶だ。
色は赤紫に近く、それでいて照りのようないやらしい艶を放つ。
どんなことをしていたら、こんな不快な艶を放つのか?想像したら危険だと、脳がそれ以上考えることを遮断してくる。
そんなものが近付いてくるのだ。こんな不快な事は無い。

「お前が野球部の堀込って奴だろ?」

「ああ、そうだ!」

堀込は俺がその存在を知っていることに自尊心をくすぐられたようだ。
何処か満足気な表情を浮かべる。

「入部以来、打率打点本塁打ゼロの奇跡の三冠王ってお前の事だよな?」

俺の言葉に堀込の顔は瞬時に茹蛸のように染まる。

「それでいてレギュラー、しかもエースで四番なんだろ?
有名だぞ、お前。
勿論、悪い意味でな…」

俺の言葉に周囲の空気が凍りついた。
俺は並外れた肥満体で容姿は醜いのだが、割と声は格好いいと自負している。
そんな俺の美声が堀込の痛いところを突いた。
しかも声のトーンと言葉の速さに間、発声のタイミングも完璧だ。
これは決まったな…

「シロタン、言い過ぎだよ」

とジージョさんが耳打ちをしてくるが、知ったことでは無い。

「堀込、お前が何故にエースで四番なのか知ってるぞ。それはだな、お前は監督に堀」

突然の衝撃が俺の顔面に走る。
そこから先の核心部分と俺の美声を遮られた。
呻きを上げる間もなく、口の中に生暖かく、微妙に塩味のする何かが溢れて出てきた。

血だ。

間髪入れず、右の頬に電光石火の一撃を浴びる。

「堀込君、こいつ外に連れて行ってボコボコにしてやろうよ」

声変わり期間の男子小学生みたいな不快な響きの声が聞こえる。
声の主は西松だ。
本名、西野松彦。通称、西松。
ひっくり返したサラダボウルに味付け海苔を貼り付けたような髪型と、顔を画用紙にして、アニメキャラの顔を描いたのかというぐらい化粧を施した美形キャラ……、気取りのいけすかない野郎だ。

「西松、お前は」

と、言いかけた時、堀込の拳が俺の顔面に飛び込んできた。
俺は背後からペヤングの取り巻き連中に両肩を掴まれ、無理矢理立たされる。
俺は抵抗をするのだが多勢に無勢だ。

「シロタン…」

ジージョさんは心配そうな表情を浮かべる。

「ジージョさん、大丈夫ですよ」

と言ったのだがな、勿論強がりだ。

俺は取り巻き連中に取り押さえられるかのようにして、講義室から連れ出された。

いいなと思ったら応援しよう!