7本指のピアニスト
7本指のピアニスト 西川悟平
アメリカを拠点とするピアニストの講演を聞きました。ピアニストということで途中演奏も交えながらの内容でした。タイトルの通り10本全て使うことのできない演奏家なのですが、保育園児に弾いて聞かせた「きらきら星」を生で聞いた時、
「あ、確かに何かきれいだなー」
と感じました。
嘘のような話だが奇跡のような体験談をお話をしよう。
私は10年程前、アメリカの自宅に強盗に入られたことがある。黒人の2人組だ。一人は注射器を持ち、動くな、手を挙げろ、というやつだ。金目のものを物色し備え付けのテレビまで無理矢理外して盗もうとする姿を見て恐ろしいながらもだんだん好奇心が湧いてきた。彼らはどんな人生を送り、今日こんな所業に及んでいるのかと。
「少ししゃべってもいいですか?どんな幼少期だったの?(英語で)」
すると一人が手を止め、こちらを見ずに答えた。
「お前に俺の苦しみがわかるか?」
聞くと4歳の時に父親に性的虐待をされ、あげく両親に捨てられた幼少期だったそうだ。
なんてことだ・・・。そう思うと涙が出た。辛かっただろうと彼らの話を聞くうちに気づけば5時間以上話し込んでいた。思い切ってお茶でも飲むか?と聞くと、飲むと言う。うまいかと聞くと、うまいと答える。
「ピアノがあるけどお前は何をしてるんだ?」
ピアニストだと告げ数曲披露した。
結局彼らは多少の現金だけであとは何も取らずに帰った。泥棒に入られないようなアドバイスもしてくれて。帰り際になぜ見逃してくれたのかと聞くと
「お前が俺たちを理解しようとしたじゃないか。」
そう言われた。別れ際彼らと約束をした。今日のことは警察には言わない、その代わりちゃんとした仕事に就いてくれ。そして僕が将来カーネギーホールでコンサートする時には必ず招待する。ありえないことだが携帯番号の交換もして別れた。
そして2016年達成した10本指のないピアニストによる初のカーネギーホールでのコンサート。プロデューサーに過去の約束のことを恐る恐る伝えるとプロデューサーは言った。
「約束は守らないと駄目だろう」
コンサート当日、かつての泥棒2人組はスーツを着て現れた。
ピアノを始めたきっかけは高校一年の時だ。どうしてもショパン/ノクターンオーパス9-2を弾きたいと思った。しかし音大に入学する人というのは3歳から英才教育を受け、1日5時間の練習をしてきたという強者ばかりだ。先生にはやめろと言われたが、結果私は推薦で奨学金付きの条件で現役合格することになる。過去の入試の課題曲10年分を弾けるようにだけではなく、楽しませるところまでイメージして猛練習した。
その後渡米することになるのだが、そこから歯車が狂い始める。勝つことだけに執着し、テクニックに走りすぎたあまり、だんだん指が曲がっていったのだ。しかも医師の診断は筋肉では原因は脳にあると。20年前の話だが、もう10本の指でピアノを弾くことは無理だと言われた。さすがの私も落ち込んだ。そんな時知り合いが気分転換に幼稚園にでも演奏においでよと言ってくれた。そこで園児に
「Hey,play something!!」
そう言われたので3本指できらきら星を弾いた。園児たちがtwinkle twinkle little star♪と歌う。演奏後一人の園児に
「何かきれいなきらきら星だったね!」
と言われて電気が走った。初めて動く指だけで弾いてみようと思った。自分よりも技術的に優れた奏者は5万といる。そこにきて10本の指が使えないとなれば敵うわけがない。
そこから人生が好転していきイタリアに呼ばれたり、ビルゲイツのパーティに呼ばれたりした。ある時はマイケルジェイフォックス財団と協力してチャリティコンサートを開いた。2憶円集まった。その資金を自分にピアノは諦めろといった病院に寄付した。
「今後2度と患者にあなたは〇〇できません」
言わないという約束を取り付けて。
2020東京オリンピックパラリンピックのグランドフィナーレでの演奏は東京決定時からの夢だったので嬉しかった。今私は小学3年生の道徳の教科書に掲載されている。
自分の夢を謙遜しないでほしい。
まとめ
話し方は若干ゲイっぽかったですがすごく魅力的な方でした。エピソードもなかなかではないでしょうか。書籍も出ているようですが、レビューを見るとやや自慢話的な評価があったので書籍の購入は控えました。ただピアノの音色は素人ですが素敵だったと思います。