「好日来来と夢路をたどる」の歌と名乗り口上から読み解く物語解説
2019年11月発売の小説(新刊) 『好日来来と夢路をたどる』のネタバレを含む解説です。
#カクヨム にて本文サンプル上げてます。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054890056049
この物語を綴る上で、日本古来からの伝統的な歌(和歌)をベースに言葉を選んでいます。主に掛詞に注目して読んでいただけたらと思い、今回は解説をするにあたりました。
早速、以下 解説です。
引用箇所の章番号と合わせて御覧ください。
序
澪標のおぼろげなる影
「澪標」は「みをつくし」と読みます。すなわち「水脈(=水緒、みを)つ串(くし)」の意で、流れのある所、つまり船の通り路に、水先案内のために、水路の標識としてさす杭(くい)を言うわけです。
和歌において、「澪標」は「身を尽くすこと」という言葉にもかかります。
うきたり浜辺に
「うき」をひらがな表記にしたのには、「浮き」と「憂き」を掛けるためです。
1
「ここは、どこですか」
「勝手に来てどこかと問うのだね。どこに向かうんだい、きみは」
「イギリスに向けて旅に出た。でも、どうしてここに来たのかは、わからない」
「されば、どこへ行こうとそこが終。
こっちなら、昼の浜。
あっちなら、夜の森。
奇異なる國へ来たのが運の尽」
嗤う不思議な猫は月形の口で大きくわらった。
今回、「不思議の国のアリス」のオマージュという側面もあり、英語でいうRhyme(ライム)=韻を日本語でも踏めないかという試みをしました。この文章以外にもあるので探していただけたら幸いです。
1
「いい子だ。
Twinkle, twinkle, little cat.
How I wonder what you're at.
チラチラ光る、子猫ちゃん
君はいったいなにをチラかすんだい 」
あまりにも有名な「不思議の国のアリス」の鼠の歌。
本家原作はBat(こうもり)ですが、ノアールは猫なのでCatにしました。
ブランは猫耳をみて、子猫ちゃん、と呼び掛けてます。
(任意のイケボで想像してください)
3
二人は大笑いしている。
この笑い声に反応してか、鼠がハッと目を覚ました。ポットの縁に手をかけて立ち上がったと思えば、
“hundreds and thousands, an hourglass in which the sand is falling,
雑踏、菫灯、唐の土踏んで、チラチラ光る左手に 滔滔と流れる海砂……”
寝言のようなふわふわした口調で歌いながら、小さな左手をひらひらと振った。
太字の部分
すべて連続して韻を踏んでます。本家原作にならって、深い意味はありませんが、この後の後半の物語が砂時計が落ちるようにあっという間に終わる意図を暗に示しています。※英語の訳としての日本語ではありません
ここより、登場人物の名乗り(口上)を引用掲載します。
2
コキノ 口上
「お初に御目に掛かります。
私はアルフォデル・コキノ。
我々の茶会へようこそ!
待ち人来たらず、午後三時すぎ。
平時の平々凡々な茶会ではない、
貴方の来訪を祝って、祝月見茶会をしよう」
コキノは、元々は白兎で、魔法使いとの契約により人の形を得た少年です。
ブランに読み聞かせてもらった「不思議の国のアリス」の「アリス」が、夢の中に現れるようになり、「アリス」のためにすべてを尽くすことになります。コキノの気性はかなり激しく、まるで二重人格のようで、冷静なときと混乱しているときがあり、3月は兎としての肉体バランスが崩れるために、ほぼ幻覚状態で過ごしています。
コキノにとって、三時、茶会、時間はとても大事なことです。
ブラン 口上
「お初に御目に掛かります。帽子屋カンパニュラと申すは藪から棒に蛇も出でし青天雷の素っ頓狂でございまして、御上の御誕生日伺いたい旨ことづけ申さむと思ふは、聞きたまひてむや」
「帽子屋」として名乗るブランは、自分がいかに狂っているかということを強調しています。続編において詳しくブランを掘り下げたいため詳細は割愛しますが、ブランにとって、奇異ノ國を統括する謎の女帝は気味わるく、自分の存在や大事なコキノさえ奪われるのではないかという意味で宿敵です。
口上の言葉にはあえて誤用の言葉も入れました。
余談ではありますが、小説のカバーデザインがとても最高なので、今回特別に公開します。
読んだ方にしか伝わらない尊さを詰め込みました。
ちなみに背面の ” Bon anniversaire ” のリボンは、ブランがコキノにはじめて贈ったものです。
と、いうことで
このNote読んでから、ますます本文が読みたくなってしまった
そこのあなたに朗報です。
#minne の通販ページ、こっそりopenしました ↓
今後とも、物語のほうも、よろしくお願いいたします。
橘屋あれん
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?