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女装小説「めざめ」第7話・サトミの夜

前回の「めざめ」は…

 サトシが、そっとヴィクトリアの扉を開けると、店内の明かりは半分以上は消され、すでに閉店したような雰囲気であった。
 「こんばんわ…。」弱弱しい声でそっと声がけすると。
 「待ってたよ。どうぞ、どうぞ、奥においで!」大山の朗らかな声が聞こえてきた。奥へと向かう。セーラー服やメイド服、色とりどりのワンピースや華やかなドレスの間を通り抜けながら、サトシは、数週間前に来た時とは全く違って、鼓動の高鳴りを止められない自分に少し驚いていた。

 何から切り出せばいいのだろうか?何から言い出すにしても、恥ずかしいことばかりだが、まずはちゃんと買い取ることから言おうと決めた。
 「先日の汚しちゃった服ですが、お金を…。」
 「いいよ、いいよ、あれは気に入ったのなら、あげるよ。」
 「でも、それじゃあ…。」
 「気にしないで。今日は、それよりももっと大事なことがあるんじゃないの?」
 打って変わって、大山は真剣な眼差しで、サトシの気持ちを見透かしたように、その目を真っ直ぐに見つめた。(この人は何もかも全部分かっていて、お見通しなのにちがいない。)
 そう思うと少し気持ちは楽になったが、覚悟を決めてはきたものの、何から言い出すべきなのか、判断がつかなかった。


 「サトミちゃんになりたいんでしょ?」
 ああ、ついに言わせてしまった。でも、言われたかったのかもしれない。この感覚だ。こうして大山の言葉に翻弄されながら、女装をしたかったんだと自分の中で納得した。大山の言葉に「サトミのペニクリ」がむくむくと大きくなるのを感じながら、小さく頷くのが精一杯だった。
 「何を着たいの?セーラー服はちょっと飽きちゃったんじゃない?」
 大山に相手をしてもらえるならば、セーラー服だって十分だったが、大山に何か考えがありそうな雰囲気を感じたので、俯いたままでいた。
 「じゃあ、僕に任せる、でいいのかな?」
 黙ってうなづく。
 「じゃあ、サロンに上がろうか。上に、サトミちゃんのために用意した衣装があるんだ。気に入るといいんだが。」

 (えっ、用意した衣装?)

 驚くと同時に、そう聞くと、そうされたかったんだと自分の深層心理の願望にも気づかされた。大山のうしろに従って、階段を昇りながら、用意された衣装への期待から、「サトミのペニクリ」は大きくなり過ぎて、歩きづらいと感じるほどだ。大山はそんなことにお構いなしに、前を向いたまま、フランクに話しかけてくる。

「あの日、君に女装娘の素質が一番あるって言ったの覚えてる?本当にそうだったね。あの後、セーラー服は何回くらい着たの?」

 そんな恥ずかしい質問にすらすら答えられるわけがない。そう思って黙って、俯いたままで階段を昇っていると、最上段までたどり着いた大山は足をとめると、くるっと振り向いた。

 「ここから先は、僕の聞いたことにちゃんと答えてくれないと、サトミちゃんになれないよ。」

 「・・・5回ほど。」蚊のなくような声で、やっとのことで答えた。

 「そんなに何回も着たんだ。エッチな娘だね。そんなエッチなサトミちゃんは、もしかしたら、他の衣装も試したんじゃないの?」

 「・・・。」

 「答えてくれないと、サトミちゃんになれないって、言ったよね。」

 「・・・、すみません、試しました。」

 「思った通りだ。どんな女装をしたの?」

 「・・・。答えないとダメですか・・・?」

 「サトミちゃんになるんでしょ?」

 「・・・メイド服」

 「メイドにまでなったんだ。ほんとにスケベな女装娘ちゃんだね。」

 少し呆れたようなトーンで言いながら、実は満足げな様子で、大山は再び歩みを進め、サロンの方へと向かった。サロンに入った途端、もうほとんどサトミとなっているサトシは、そこに用意された衣装を目にして、「あっ」と息を呑んだ。


 彼の目に入ったものは、何と純白のプリンセスラインのウェディングドレスだったのだ。


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