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お風呂に入る私をダウンジャケットを着ながら隣で見守る彼氏
大学生は常にお金がない生き物だと思う。それは私も例外ではなく、遠距離恋愛中の彼氏も同じだ。彼とは高校の同級生で、かつては毎日のように一緒に過ごしていたけれど、大学への進学を機にお互い違う県へ引っ越すことになった。今では、月に一度どちらかが会いに行く約束をしていて、少しでも会えない時間を縮めようと努力している。
そんな彼の小さなアパートで過ごす時間は楽しいのだけれど、ひとつだけ慣れないことがある。それは彼の家でのお風呂タイムである。
彼の家のお風呂場はユニットバス。でも、ユニットバスは狭くて寒い。特に冬の冷え込んだ夜は、シャワーを浴びるだけでも心が折れそうになっちゃう。彼のアパートのバスタブでは、湯を張ってもすぐに冷めてしまうので、結局お湯に浸かることはなく、いつもシャワーだけで済ませるのが定番だ。さらに、あの薄っぺらいカーテンが濡れて肌にまとわりつく感覚が、私は本当に苦手。真冬にはもう絶対にここには来ないと心に決めたほどである。
とはいえ、10月のこの時期はまだ過ごしやすい気温だし、彼に会いたくて遊びに来た。だけど、やっぱりお風呂だけはどうしても気が進まない。そんな私の様子を見かねた彼が、ある日奇妙な提案をしてきた。「お風呂に入ってる間、隣のトイレで待ってるよ。話し相手がいれば少しはお風呂も楽しいんじゃない?」と。最初は「かえって面倒いのでは??」と思ったけれど、割と真剣な彼の顔を見て、ちょっと試してみることにした。
いざお風呂に入ると、彼はトイレの蓋に座り、ダウンジャケットを着てスタンバイ。10月とはいえ、お風呂場の寒さは本当に厳しいので、ダウンジャケットは必須だ。
お風呂場にシャワーの音が響く中、彼は「思ったより湿気がすごい」とつぶやいた。
「大丈夫ー?」とカーテン越しに声をかけると、「少し息苦しいけど、大丈夫」と苦笑い。でも、彼が言い出した事なのだから最後まで頑張ってもらいたいところだ。ダウンジャケットを着ながら小さくなっている彼を想像すると、なんだか少し可愛く感じられた。
シャワーを浴び終わった後、彼はダウンジャケットを脱ぎながら「次は美琴(私)の番ね〜」と笑った。そう、今度は私が彼を見守る番だ。もちろん、寒さと戦いながら。
彼との遠距離恋愛は簡単ではないけれど、こうして少しでもお互いを近くに感じられる瞬間があるから、割と頑張れている気がする。月に一度の時間でも、二人で過ごす時間が私たちの距離を少しずつ縮めてくれている。
高校時代のように近くにいられない今だからこそ、こうした時間が特別に感じられるのかな。いつかこの安いアパートでの思い出も、笑って話せる日が来るだろう。たとえこのユニットバスが、どれだけ嫌だったとしても。
これからも彼の家に行くたびに、シャワーを浴びるたびに、私たちはこの不思議なお風呂タイムを繰り返すのかもしれない。次の月も、またその次の月も、私たちはこうして遠距離を乗り越えながら、お互いを見守っていきたいな。