筆が・・・
大事にしてた筆が、マメオにやられた。
机に上がっては、ジッと上を見ていた。小さなカレンダーが、やっと手の届く位置にあったので、それが気になっているとばかり思っていた。どうやら狙いは、更にその上らしかった。
居間でノンビリしてたら、前を行ったり来たり、とつぜん足で咥えた棒を蹴ったり。見せびらかしたい様子なので相手をしたら・・・、筆が・・・。
机の上にはノートやメモ類、本も乱雑に置いてある。棚に飛びつくには足場が悪いし、何よりも筆には興味は無いと勝手に思っていた。
床に散らばった筆を集めていたら、オトウちゃんすごいでしょ、なんて言うような顔つきで見てる。
写経用の筆が見つからない。面相筆や仮名用筆、日本画用の彩色筆はベッドの奥に入っていたが、一番気に入っていた写経用の細筆だけが見つからない。
マメオの好みなのか、イタチやタヌキの毛がグチャグチャにかまれていた。仮名用の山羊毛の長鋒は全く噛まれてなかった。
人間って面白いものだと思う。もう長いこと筆を手にしていなかったのに、荒らされると急に恋しくなる。
筆の価格で作りにかなりの差があることも分かった。数千円クラスの筆は、噛まれるとボサボサになってまとまりが付かない変な癖が出て、使えないかもしれない。それに引き替え、五千円以上のクラスは、荒れているようで水につけると元のような筆に戻った。
叔父の亡くなった後、好きな物を持っていくように言われ、主に書籍類と硯を形見分けでもらった。クジャクの羽の筆や、払子のような大筆は、使わないし手入れも難しいのでもらわなかった。あれが有れば、猫達にとっては良いオモチャになっただろう。
片付けを終えて、焼酎のライム炭酸割を飲みながら、ボニー・レイットの「I Can't Make You Love Me」を聞いた。
この人、ギタリストでシンガー、ロックだかウエスタンだか分からないが、もともと音楽を聴くようなガラでもなかったし。でも何となく好きでCDを2枚持ってる。中でもこの曲が一番好き。
別れることは確実なのに、それを隠そうと、自分に懸命に言い聞かせて、でも別れが来るという。そういう、どうしようもない不条理感が、ボニー・レイットの声と合っているようで、いろいろと考えるときにはCDをかけている。
そして最後にこれを聞いて寝てる。
二人が待ってる、もう寝ましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?