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足の悪いスズメ

朝と夕方に、玄関の前に小鳥用の餌を撒いてる。
たまたま数年前のヘッカタ用の餌が出てきて、玄関前に撒いたら、1羽足の悪い雀がいた。少し外側に曲がっているようで、でも元気に飛び跳ねていたから支障は無いのかもしれないが、それから餌を撒くようになった。

ずいぶん昔になるが、まだ20代の頃、ブタンガスのボンベを40本並べていた。そのボンベ小屋の台はトラックに合わせて高くなっていて、そこに仏壇の米を置いた。母を亡くしたばかりで、毎日母のために水と炊きたてのご飯を供えて読経を上げていた。そのご飯を読経の後に撒いた。

白と黒のハクセキレイが、父の子供の頃には「ヘッカタ」と呼ばれていたそうだが、家の駐車場や庭によく集まっていたので、その鳥が好きだった。ヘッカタと一緒にスズメも集まるようになり、その中に1羽だけ片足が横に曲がって立てない子がいた。よく見ると、周りのヘッカタやスズメがこの子を守るように思えてきた。来るのが遅くなって、ドスンと腹をぶつけるように下りると、餌場を譲るように少し離れていた。

そんな仲間を思い遣るような姿を父に話したら、一緒に見ていて、鳥にも仲間に対する愛情があるのだろうかと話していた。むかしの父の実家の家では、幕末まで村の中で様々な障害をもった子を、本家の横の長屋で一緒に暮らしていたという。戦国時代に領地がたびたび襲われ、ついに敵数千を打ち負かした。その最後の戦い「暗闇谷の戦い」を制したのは、体力で戦えないが、それぞれの能力を活かした「狭隘の策」で、全員の力を集められたからだという。以来どの様な者でもそれぞれの特技があるとして、長屋を建てて勉強をさせ、本家の者と同格に暮らすようになったとか。

そんな話を聞かされたので、なおさら足の悪いスズメが気になり、餌やりを続けた。1年くらいして来なくなり、大きな鳥に襲われたのか、猫などに襲われたのかと心配したが、とうとう現れなくなった。


足が不自由といえば、20年くらい前にある工場に行き、元暴走族の青年に会った。彼は派遣社員として来ていて、時々目にすると、他の派遣とは違って懸命に働いていた。休憩時間に話しかけると、意外と話し好きな青年で、懐から1枚の写真を出して見せてくれた。普通の女性で、変わったところは無いのだが、彼にとっては最も大事な人だった。グループを抜ける儀式も受けて、そこまでしても付き合いたい人だという。

彼女は事故で片足を失い、大学進学も諦めていたそうだ。その頃にたまたま知り合い、彼女の心の美しさに惹かれたと言っていた。何が美しいのか、中学にもろくに通っていなかった、ただバイクで迷惑行為ばかりしていたのに、「美」が分かるのかと興味が湧いた。

立派な家の娘で、有名な女子高に通い、成績も良かったのに事故で入院が伸びて、進学も諦めたそうだ。彼にとっては彼女が初恋らしく、誰よりも綺麗に見えたらしい。当然ながら二人が付き合えば親は大反対をする。娘に近寄り家の財産が欲しいのか、同情心を見せて娘に手を出そうとするのか、まともに働きもせず娘をバカにしてるのか、など散々に言われたそうだ。

一念発起して、暴走族は辞めて真面目に働き、ちゃんと生活が出来るようになったら結婚させて下さい。初めてネクタイをして彼女の家に行き、土下座をして頼んだそうだ。父親は無言の返事で座り続け、母親は帰りに玄関で娘は貴方のことが好きだと言っていた、と聞かされたとか。まるでドラマのような話しで、何処まで本当の事だかと思っていた。

数ヶ月して会ったときに、暴走族は辞められたと話していた。今は派遣で頑張り、彼女から勉強も教えてもらい、来年から夜間高校に行くことになったと言っていた。高校に入学したら、派遣は辞めて彼女の父親の紹介で「本物の会社」で働くと言っていた。


足の悪いスズメを思い出し、書いているうちに派遣の青年を思い出した。もうずいぶん経ったが、上手くいってるのだろうか。名前も聞いてなかったし、住所も知らないので、気になったも確かめようもない。

夜間高校を卒業したら、通信で大学も卒業して、会社で偉くなって給料をタップリもらって、彼女が何もしなくても良いような家庭を作りたい。などと夢物語を語っていたが、肝心な中学の基礎学力も無いのに、彼女さんが教えたくらいで何処まで出来るモノやら。冶金学や経済学を大学の通信教育で受けたが、自営だから続けられたので、決して甘いモノではない。元暴走族の根性が知りたくなった。

もしかしたら、今は彼の言う「本物の会社」で偉くなって結婚をしたのかもしれない。一人娘だと言うから、婿殿として親と同居をして、やがて親との喧嘩でもして離婚して家を出たとか・・・。

儀式を経て真面目になったのだから、今は立派な家庭を築き、夫婦仲良く暮らしているだろう。窓辺でスズメを眺めているニャンコ達を見て、今頃はニャンコ達のように夫婦仲良く暮らし、あるいは子供も出来て賑やかになっているだろうか。そう成っていて欲しいものだ。恋愛ドラマというか、青春ドラマというか、そういう苦難の末に幸せを掴んだという事が、実際に起きていて欲しいと願う。


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