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海外ロマンス温故知新6 凍える夜に読みたい! 貧困を真正面から扱った心温まる名作②『完璧な恋に魂を捧げて』

『完璧な恋に魂を捧げて』
ミア・シェリダン著
高里ひろ 訳
扶桑社
2021年4月29日発行

ストーリー★★★★★
ヒーロー ★★★★★
ヒロイン ★★★★★
ハラハラ ★★★★★
ピュア  ★★★★★
キュン  ★★★★★
切ない  ★★★★★
笑える  ★★★★☆
ホット  ★★★☆☆
泣ける  ★★★★☆

【萌えポイント】とにかくヒロインとヒーローがかわいい! 瑞々しくてまっすぐでピュアで。タイトルに「捧げて」という言葉がありますが、ここまで捧げちゃうなんて! 図書館の本にメッセージをはさんでやりとりするシーンも良き。ただし、昔読んだホラー小説に似たようなシチュエーションがありましたが……。

先ごろ第二次トランプ政権が発足しましたが、2016年の選挙でトランプの勝利の鍵を握っていたとされるのが、「ヒルビリー」とか「ホワイト・トラッシュ」などと呼ばれる、繁栄から取り残された白人の低所得者層でした。この作品では、そうしたヒルビリーたちの暮らしがリアルに描かれています。実際に問題になっている「マウンテンデューの口」と呼ばれる虫歯だらけの歯をした人々や、フードスタンプ(アメリカ政府による公的扶助のひとつで、食料品を購入できる金券のようなもの)を悪用して本来対象外の煙草やドラッグの購入に充てる人々の存在にも言及していて、この地域を覆う絶望感のようなものが伝わってきます。<訳者あとがき>によると、著者のミア・シェリダンはある報道番組でアパラチアの貧困問題を知り、数年間のリサーチを経て本作を執筆したそうです。ちなみに、ヒルビリーに関しては『ヒルビリー・エレジー』(J・D・ヴァンス著/関根光宏・山田文訳/光文社)と『死体とFBI』(ジョー・シャーキー著/倉田真木訳/早川書房)がわかりやすくておすすめです。

ロマンス小説では、貧しいヒロインが超リッチなヒーローに見初められてハッピーエンドというパターンが多いと思いますが、この作品はヒーローも極貧です……。

ヒロインのテンリーは高校に通いながらアルバイトで家計を助け、姉と二人で精神疾患を患う母の世話をしているヤングケアラー。父親はテンリーが生まれてすぐに家族を捨てて出て行ってしまい、三人はおんぼろのトレーラーハウスで極貧の生活を送っています。

同じ高校に通うヒーローのカイランドは、父と兄を炭鉱事故で亡くし、(一応)母とふたりで粗末な家で暮らし、その日の食べ物にも困っている様子。ただ、成績は優秀なので、学年で一人だけが受け取れる奨学金を手に入れて町から出て行くと決めています。テンリーも奨学金獲得を目指しているため二人はライバル関係なのですが、ふとしたことから仲良くなり、お互いに惹かれあっていきます。しかし、数か月後には卒業して、どちらかが都会の大学に行くことになれば別れが待っているため、あまり深入りすると別れがつらくなるだけとも感じていました。二人とも奨学金がもらえなかった場合は別れなくていいのではとも思いますが、カイランドは絶対自分がもらえると信じて疑いません。カイランドにとって奨学金は、貧困と絶望に満ちた故郷を捨てて新しい人生を始めるためにどうしても必要なものでした。

本作はテンリーとカイランドの視点から交互に描かれていて、それぞれの心の動きが鮮明に伝わってきます。テンリーを傷つけたくなくて深い関係になるのをためらうカイランドと、何もかもを捧げたいまっすぐなテンリーの気持ちが瑞々しく綴られてキュンキュンします。ただし、いくら高校生の純愛ラブストーリーといえども、プラトニックというわけではありません。「ちょっとちょっと、子供がそんなことしちゃいかんに……」と言いたくなるシーンもあるのでご注意ください。

そんなこんなで、とうとう奨学金が誰のものか発表され、ほぼ同時にカイランドが衝撃的な発言をしたことで二人はやっぱり別れることに。それも、絶対に復縁はないだろうなという別れ方で高校生パートが終わり、四年後の大人パートの始まりです。すっかり大人になった二人が再会して、また驚きの展開が待っていました。

もう名作すぎてツッコミどころがありません。ふだん大富豪やCEO、貴族がヒーローの作品を読むことが多く、ヒーローがありあまる財力でヒロインを幸せにするというパターンに慣れてしまっていましたが、こんなふうに貧しくても自分を犠牲にしてまで真実の愛を貫いてくれるカイランドが素敵すぎて!! 「お金の引き寄せ」みたいな本ばかり読み漁っていた自分が恥ずかしいです……。ロマンス好き必読の一冊です!
(文責:岡田ウェンディ)

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