わたしと母の宝物のような歌詞カード【Precious Time】
小学生のとき、女性歌手グループ・SPEEDが大人気だった。自分たちとほぼ同世代であるSPEEDがキラキラとテレビに出ていて、女子の間で憧れの存在になっていた。
わたしの友達にも、熱狂的なSPEEDファンがいたし、SPEEDの歌を口ずさむ子が多かったように思う。【White Love】【Alive】【my graduathion】【Long Way Home】…忘れられない歌が次から次へと思い浮かぶ。
そんなSPEEDブームの中、わたしももれなくSPEEDも好きだったが、ほかにもPUFFYやKinki Kids、V6、aiko、SMAP、Kiroroなど好きな歌手グループが多く、どれか一つに夢中になるという感じではなかった。
小学校3年生ごろのある時期は、PUFFYの【これが私の生きる道】【アジアの純真】を毎日のように歌っていた。初めて買ってもらったCDは、PUFFYだったような気がする。
またある時期は、岡本真夜の【涙の数だけ強くなれるよ】をひたすら歌っていた。歌いすぎて、歩きながらも歌っていた気がする。これは、その後の人生で辛いときに口ずさみたくなる歌になった。
そしてまたあるときは、V6の【WAになって踊ろう】、SMAPの【夜空ノムコウ】【がんばりましょう】など。
そんな風にヒットしている歌はすぐに好きになり、暇さえあれば口ずさみ歌っていたわたしだが、その頃からなんとなく聞きとりの悪さを感じていたため、覚え間違いもあった気がする。気にせず歌っていたけれど。
そんなわたしが、一字一句間違えずに、絶対覚えたいと思った歌が一つあった。
SPEEDの【Precious Time】だ。
なぜかこの歌だけは歌詞をしっかりと見て、歌詞もメロディーも間違えずに覚えたいという気持ちが湧いてきた。誰かに披露するわけでもないのに。
弱視のわたしにとって、小学生当時、文字を読むのは、拡大読書器を使うか、拡大写本を使うか。そのどちらかがわたしの文字の読み方だった。
拡大読書器は、今より性能が良くなく、ピントが合わせずらくて疲れやすかった。
拡大写本は、ボランティアさんや母にお願いして作ってもらっていた。(教科書や児童書など)
拡大読書器に小さい歌詞カードを入れて覚えるのも大変だったし、自分で書きうつすのも大変だった。拡大読書器のなかで書くと、どうもちょうどいい大きさにならないのだ。
そこで、わたしは母に歌詞カードを書いてもらうことにした。
それがこちら。
今も大事に取っておいた母の歌詞カード。やっぱり手書きのぬくもり好きだな。何度でも読み返したくなる。眺めたくなるのだ。
これをいつも持ち歩いて、家では口ずさんでいた。少々音痴のわたしだったが、(少々かどうかも怪しいが)この歌は自信を持って歌えるようになった。
寝転びながら、このカードを眺めていた当時の自分を思い出すことができる。
きっと、寝転びながら、歌詞を読めることが嬉しかったのだろうな。小さい歌詞カードではできないことだから。
中学生になりカラオケに行くようになると、この歌詞カードを持っていき、画面が遠くて見えないのでこれを見ながら歌っていた。
想い出の歌詞カードだ。
でも、今見るとなんだか気恥ずかしさを感じた。
小学6年生のわたしが母に「書いてほしい」と頼んだ歌、その歌のせつなさ・大人っぽさに、大人になったわたしは照れるのだ。
失恋ソングを母に手書きしてもらう娘、なかなかいない。
恋人と別れた女の子が、ずっとそばにいて慰めてくれていた男友達の存在の大切さに気付く、なんともせつない歌詞。
もうすぐ思春期になる6年生の女の子が大好きだった歌、母にお願いして書いてもらった【Precious Time】。
これが、わたしにとって忘れられない思い出の曲のひとつだ。