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はこ

頭の中に思考が詰まっていないと気持ちの収まりが悪い。常に何かを考えていなければ悪いものに乗っ取られてしまいそうになる。
だから好きなものや楽しいもので頭の中を満たそうとしていた。

頭の中はそのまま部屋の中に反映される。部屋が汚い人間は頭の中もごちゃごちゃとしているし、部屋が綺麗な人間は頭の中がすっきりしている。
ものがない人は、頭の中にも何も存在しないのだろう。

僕はどうか。部屋は僕の思考で埋め尽くされている。好きな映画のポスターや、女優の写真で壁が埋まっている。好きな漫画のフィギュアがずらりと並んでいる。壁一面にはびっしりと本棚が本をたたえている。

部屋に帰ると安心する。僕が作った僕だけのための空間は、決して僕を否定することはない。

でも僕は、これらを否定することができる。

所詮は無機物。僕は彼らを一方的にここに集め、一方的に捨て去ることだってできる。

ふと、何もいらなくなる時がある。

今まで好きだったものが嫌いになることがある。
何もいらなくなる時がある。
好きなものが満ちていない隙間を見つけると恐ろしくなって、だったら全部いらなくなってしまうことがある。

何かに執着するということは恐ろしいことだ。
思い通りにならないものに執着すれば、いづれ訳の分からない怪物に心を支配されてしまうだろう。

怪物に乗っ取られる前に、自分自身で心をコントロールしなければならない。
箱の中に仕舞い込んで、蓋をして、何でもないふりをしなければならない。

部屋という小さな箱の中は、頭の中を映す鏡だ。
頭の中の隙間を無くすためには、部屋を整理しなければならない。

しかし情というものがある。
集めたものたちとの思い出を、僕は記憶力が良いせいで全て細かく覚えている。
忘れられたならどんなに気持ちが楽だっただろう。
無感情に捨てられたらどんなに良いものだろう。
残念ながら僕には無情に自分の所有物を捨てることができない。

何度も部屋のものを全部捨ててしまおうと思った。
何度も家に火がついて無理矢理僕からものを奪ってくれと願った。
相反する感情が、常に心を支配する。

逃げたいのだ。
自分からとにかく逃げ出したいのだ。

満たされないままどう生きたらいいのか分からないなら、逃げてしまう方がよっぽど楽だ。
いつもそんなことを考えている。

だから、頭の中はこんな邪念が紛れ込まないように、思考で満たしておく必要があるのだ。

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鬼堂廻
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