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【小説】首を絞める

午前1時。
首を絞めてくれと言われた。
仕方なしに絞めてみて、女の首は折ろうと思えばすぐ折れそうだな、と妙に冴えた頭でそんなことを考えた。
僕にはそういう趣味はない。どちらかと言えばノーマルなプレイを好む。平凡な僕はなんとなくそういう行為をして、お互い気持ちよかったねといってゆっくり眠るほうがよっぽど言い。
だから、女の子にそんなこと言われて少しだけ戸惑った。

6畳一間の僕の部屋は、大学生の男の部屋というにはやけに雑然としていて物が多い。度々遊びに来る友人にも『なんでもあるじゃん』とよく言われる。変なところで研究熱心なところがある僕は一度興味を示したものを徹底的に調べ上げる癖があり、今までハマったもの…例えば映画の「LEON」のグッズや年代物のワインの空きビンが飾られている。他にも、コンビニの飲み物のおまけでついてくる小さなフィギュアとか、そういうものが棚には適当に置かれている。
どこにでもいる、普通の大学生だ。それなりに友達と遊んで、女の子とも遊んで、バイトして。
そんな平凡だったはずの僕は、突然要求された加虐行為を促されるまま行っている。カーテンの隙間から照らされて彼女の首が白く浮かび上がる。首に対して、顔はわずかに赤い。快楽なのか苦しみなのかわからない表情を浮かべた彼女と目が合った。熱を帯びた瞳に浮かされて僕は、不思議な高揚感を覚えた。思わず指に入る力が強くなっていく。
このまま絞め続けたら、どうなるのだろう。
アルコールのせいもあって安定しない思考でとんでもないことを考えている自分がいる。それと同時に、理性をもった脳の一部では危険信号が瞬いている。これ以上踏み込んだら、戻ってこられなくなるぞ、と。
かはっ、けほっ。
彼女が浅い咳をした。
その音で現実に引き戻された僕は慌てて手をどけた。
彼女がえずいている。
「ごめん」
「あたし、このくらいされないと感じないから」
本当だろうか。わずかに涙を浮かべた瞳を見たら、心配の方が勝ってしまう。僕の困惑した表情に気づいた彼女が笑った。
「センスあると思う」

なんのセンスがあるというのだろう。
その答えを聞く暇もないまま彼女は僕の布団で眠ってしまった。部屋の中でひとり取り残された僕はいつまでも手に残る感触を反芻する羽目になってしまった。
柔らかい皮膚がゆっくりと圧迫されて脈がはっきりと手に伝わってくる感触。徐々に早くなっていく鼓動。快楽と苦痛が入り混じった表情。
妙に生々しく脳裏に刻まれている。そして、このまま絞め続けたらどうなるのだろうという好奇心。
首を絞めたら死んでしまうのなんてわかりきっているはずなのに、僕はその感触を確かめたいと思ってしまった。
こんなの、普通じゃない。
頭を冷やすためにも、一旦シャワーを浴びてこよう。
軽く頭を振って、僕は部屋を後にした。



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鬼堂廻
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