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途轍もなくきつい仕事をしているのかと言われると全くそんなことはない。
何でもそつなくこなせてそれなりに恵まれた環境にポンと身を置くことが出来てきたせいもあってか、「死ぬ気で」「血反吐を吐くまで」努力した記憶なんてものは片手に入るくらいしかない。
受験やら就職やらが、人生のうちでもっとも努力しなくてはいけないタイミングなのだろうけれど、そういう節目と言われるときですら僕は怠けた。
就職をする気が無かった。
なんとなくバイトしていたバーが好きだったからそこでフリーターでもいいかと思っていた。何か一つのものに固執して自分を見失いたくなかった、なんて格好つけたことを言い訳にしていた。
スーツを着てキャリア支援課に通い詰めている顔しか知らない同期のことを哀れに思っていたし、ゼミに来てはひたすら面接の本を読み漁っている同期を横目にYouTubeを見ていた。
僕は怠けものなので、絶対に普通に会社でスーツを着てサラリーマンをするなんて無理だと思っていたし、今も思っている。
養いたいと言ってくれる人もいたので最悪そこでヒモでもしよう、なんて甘えたことを考えていた。
夏終わりくらいに、ふと、新卒というカードをきってフリーターはもったいないような気になった。
変なところでケチ、というか損得勘定が働く僕は、使えるものは全部使いたいという欲が出てきて、適当に楽そうな仕事を見繕って履歴書を送った。
履歴書を書くのは好きだ。自分のしてきたことを美化して可視化できる、わかりやすい自己肯定作業だと思っている。多少盛ってもばれやしない。というか、自分をよく見せられなければダメなのではないか?
大学から来る「進路希望調査票」を全部無視して、大学からの電話も着信拒否していた自分がまさか就活をするとは。そんな自分自身に妙に感動と自信をもって面接に行った。
面接は苦手じゃない。塾の先生をしていたり、舞台経験もある僕は人前でしゃべることに抵抗が無かった。外面を見繕うのは本当に得意だ。自分でも感動するような御託をならべて、ハキハキ笑顔でその場をやり過ごせば良いことも分かっていた。
1社目にして内定が決まった。こうして、がむしゃらに努力するまでもなく就活が終わった。相変わらず大学からのメールは無視し続けた。
僕はこの仕事に就いて2年目になる。
何もきついことはない。ただ、何かが死んでいくような気がする。
勝ち組だろうとか言われるが、本当の勝ち組ではない。勝ち組のようにみせているだけだ。
文字を書きたいな、とか、演劇の世界に入りたいな、とかそういった小さい夢に向き合うのを投げ出して、今僕はここにいる。
今からでも遅くない、なんていうのはきれいごとだ。
もう遅い。すべての人がシンデレラみたいに魔法使いに出会えるわけじゃない。ラプンツェルみたいに、棟の中から出られるわけじゃない。
時々発作のように、全てを投げ出したくなる。