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れもんぱい

夏なので、レモンパイが食べたくなった。
しかしレモンパイを置いている喫茶店はなかなかみつからない。

ある時、僕は友人と映画を見に行く約束をした。
時間より早くに集合場所へ到着してしまった。少しだけ付近を散策していると、友人が遅れてくるという連絡が入る。
なんとなく、映画館の横にある喫茶店が目に入った。

それは偶然だった。
足を踏み入れてみて、ふと、店の看板を見ると、そこにはレモンパイの文字が。
その喫茶店には、夏限定で、レモンパイを置いていた。友人の遅刻などもうどうでもよくなった。僕は、かねてより欲していたレモンパイにようやくありつけるのだ!
昼前の、人の少ない店内で僕はそれを注文した。
静かにジャズが流れている。待っている間、それに耳を傾けていた。

「お待たせしました」いよいよ念願のレモンパイが届く。目の前に置かれた皿の上には、行儀良く佇む黄金色の三角形をしたレモンパイがあった。店員に礼を言い、僕はフォークを握る。早く食べたい気持ちと、食べ終わってしまってはもったいないという気になった。

サクッとした手触りでレモンパイはフォークに沿って分離した。その一片を口へ運ぶ。わずかな酸味が甘さの中に顔を出した。爽やかな夏の味が広がる。嗚呼、僕の欲していたものはこれだったのだ!
夢中で、しかし大切にレモンパイを味わっていく。

言葉にできない多幸感に包まれた。じっとりと汗の滲む夏に、風が吹くような気分である。
僕は、そのレモンパイ一片で夏を満喫し、かつ愛せるほど単純な人間なのである。

満たされた気分で最後のひとかけらを口へと運んだ。夏の終わりのような寂しさがよぎる。
嗚呼、食べ終わってしまった。
少し残念な気持ちと、舌の奥に広がるレモンパイの余韻に浸りながら一緒に運ばれてきた紅茶を飲んだ。

友人から連絡が来た。
遅延していてもう少しだけ遅れるらしい。

僕は、空になった皿を見つめながら、悩んだ。

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鬼堂廻
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