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お金の見方を変えてくれた先生


塾に通っていた。

あれは中学生の時だったか。受験を控えた中学3年の夏くらいから通い始めた塾は、少人数制だった。

5~6人のメンバーと共に学校でならった勉強のおさらいをする形式だ。

大体は同じ先生が日替わりで担当するのだが、その中で「レア」な先生がいた。

大滝先生(仮名)である。

彼はどうやら他の校舎と掛け持ちしているらしく、うちの校舎がサブだったので時々現れた。

よれよれのシャツ適当なスーツという、パキっとしたイメージの塾講師からかけ離れた風貌をしていた。

最近で言うなら、宮本浩次にちょっと似ていた気がする。

そんな先生は、見た目の通り変人だった。

確かメイン科目は日本史・国語・英語・現代社会と幅広く、ド文系…かと思いきや大学は理工学系だったらしい。

なかなか有名な大学を卒業しているにも関わらず就職せずに大手飲食店でバイト、あれよという間に店長まで上り詰めて退職、暇つぶしに博物館巡りで熱心にノートにメモを取っているとき、現在の塾長にスカウトされてこの職についているという経緯を塾長から聞いた。

なんという、絵にかいたような変人だ。

初授業での初セリフは

「この前先祖調べてきたんだけど、みんなも調べなよ、面白いから」

というクレイジーなものだったのをよく覚えている。

授業もうまくて、話術に長けている人だったと思う。今思い返せば、京極夏彦の話構成と似た喋りの人だった。

その人の授業はどれも面白くて、中身は覚えていないけれど子供の感性には少しだけ早いけれど背伸びできるような、そんな心地よさがあったと思う。

その授業の中で一つだけ鮮明に覚えていて、それでいて自分の価値観を変えた授業がある。

現代社会だっただろうか。

経済の仕組みに関する授業だったと思う。

授業が始まるや否や、

「じゃあ、100万円もらったらどうするか考えてみて」

と言ったのだ。

トリッキーすぎる。一瞬ざわついたが、みんなそれぞれ考えていた。

しばらく経って、「一人ひとり発表して」と言われた。

「貯金する」という意見が大半の中、一人の男子がふざけ半分で「100万円分の牛丼を食べる」と言った。

その子はムードメーカ的存在で、ウケ狙いで言ったんだと思う。周りも、ふざけてるな~とか茶化しながら笑っていた。

しかし先生はそれに大きな拍手を送った。

「素晴らしい!これが経済のあるべき姿なんだ!」

僕たちはポカーンとした顔になっていたと思う。その子本人も驚きを隠せない顔をしていたから。

先生曰く、こういうことらしい

・貯金は大事だが、貯金をしすぎたことによって市場にお金が出なくなっている。・そのせいで不景気・貯める以上に使うことが大事・活性化は「使うこと」から始まる・使う仕組みを作れなかった世代が悪い・俺たちの代が作れなかったお金の価値観を君たちから変えてほしい

みたいな話だった。

丁度不景気だ、就職氷河期だとかいう時期だったから余計に貯金という頭が中学生の僕らにもあった。

確かに中学生で貯金するとかいう回答、夢が無くてつまらないよなあ

僕の家も、お金には厳しかった。貰ったお小遣いは貯めなさいともいわれていたし、値段の張るものは我慢しなさいと言われる家庭だった。

この先生の話を聞いて、ただ漠然と貯金するくらいなら欲しいものを買ってしまったほうが自分の為にも社会の為にもなるんだなあと学んだ。

この時から、「お金を使うこと」に罪悪感を抱かないようになったのだと思う。

どんなムダ金だったという場合でも、できるだけ経験になったと思うようにしている。

経験を金で買うというほうが良いのかもしれない。


自分でお金を稼ぐようになって、誰かが払ったお金で自分の生活は成り立っているのだと実感した。

じゃあ、誰かがお金を払ってくれなくなったら?

それを考えると正直怖い。

そう思うと、自分もお金を出す側としてあまり渋ってはいけないなと思っている。自分が行ったことは必ず返ってくるという因果応報主義なので、出した分だけ返ってくるだろう。

お金を払うことに抵抗のある人、「なんでこんなに高いんだ!」と憤る人は良く考えてほしい。

あなたの給料は誰かが払ったものですよーって。


大滝先生、元気かなあ。

中学卒業と同時に塾もやめてしまったので、もう彼の消息も分からない。

元気にしているといいな。


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鬼堂廻
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