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話題の行動経済学の基礎を約10000文字でまとめました

最近、行動経済学の勉強を始めました。このnoteでは、今までの成果をまとめたいと思います。

中には、意味を取り間違えたり、解釈を勘違いしたり、読み間違えている点もあるかもしれません。その際は「何間違ってんだよ」とお叱り下さい。でもキレないで。怒らないで…。優しく叱って下さい。

なお、私が勉強に使った教材は大竹文雄先生(大阪大学)の刊行された「行動経済学の使い方」です。行動経済学面白い!と思われたら、まずは以下の書籍を購入されると良いでしょう。

大竹先生のnoteはこちらです。私の連載している日経ビジネスの連載について、ちょくちょく大竹先生がコメントされているのは存じ上げており、いつの日かご指導頂ければと思う次第です。

(2020.06.06追記)
本noteをまとめて以降、行動経済学や認知心理学を学んだ経験を活かして書籍にしています。


「プロスペクト理論」とは?

ものすごくザックリ説明すると、人間がどういう理屈で意思決定を下すかを示した理論です。行動経済学における代表的な成果と言われています。

人間は論理的に整合性の取れた意思決定を下すと思われがちですが、ごく稀に…いや結構な頻度で、非論理的で辻褄の合わない意思決定を下します。

私たちマーケターやデータサイエンティストは、数字で説明できない人間の行動を「ありえない」と一刀両断しがちですが、プロスペクト理論で考えれば論理的に説明できるようになります。

人間を理解するには、行動経済学を理解する必要がある…というのが2019年の私なりの結論です。

プロスペクト理論を支える特徴は「確実性効果」と「損失回避」です。この2つの特徴をまとめてプロスペクト理論とも呼ばれていますので、まずはこれらを説明しましょう。


■確率に対する人の反応が線形でない「確実性効果」

行動経済学を代表する学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによると、意思決定を下す際に感じる確率と、客観的確率には以下図のように乖離が生じているようです。

図1

図をお手製で作成しました…ちょっと汚くてごめんなさい。

ある物事が起こる確率が客観的に20%~30%の時、人間の主観的な感覚でも同じように捉えます。図で言うと、点線と棒線がちょうど交わる当たり。

一方で、そこから外れるほど客観と主観のズレが大きくなります。

起きる確率(客観的な確率)が80%~90%のものを実際は低い確率だと主観的に捉え、10%~20%のものを実際より高く感じる傾向があるのです。グラフの左上と右下、それぞれ結構なギャップが見えますね。

なぜなら、絶対発生しない=0%、絶対発生する=100%が起点になるからです。0%の環境下で、ごく僅かな確率でも発生すると分かれば過大に認識し、100%の環境下で、ごく僅かな確率で発生しないと分かれば過少に認識してしまうのです。

【「確実性効果」の例】
「ワクチンの接種で0.01%の確率で副作用が発生します」と言われると、1万人に1人の確率なのに「自分に当たったらどうしよう」と考えてしまう。これを「自意識過剰」とも言います。
「当たる確率が低いのに"当たったらどうしよう"と思わせるのが上手い」のが宝くじ、ガチャの類です。宝くじなんか期待値が低いので、買っている人たちを「情弱」と切り捨てる人もいるようですが、彼らは確実性効果の罠に嵌っているのです。どうせなら見下すのではなく、「確実性効果」を脱出させる方法を発見して欲しいものです。


■富の変化量から効用を得る「損失回避」

同じく行動経済学を代表する学者であるダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが発見したのですが、人間は利得よりも損失を大きく嫌うと分かりました。

画像2

英語版wikipedia「Prospect theory」からの画像引用
https://en.wikipedia.org/wiki/Prospect_theory

図では、縦軸は「価値」、横軸は「損失⇔利得」を表します。「価値」だとちょっと数字に置き換えにくいので、高いほど「嬉しい」、低いほど「悲しい」と置き換えて下さい。

この図を見ると、利得・損失と価値の関係を示す曲線が原点の右と左で傾きが異なっていて、損失の局面の傾きが大きいと分かります。

$5で得られる価値、$5で失う価値は、まったく同じではありません。圧倒的に「悲しい」の方が大きい。つまり、少しの損失でも大きく価値を失ってしまうと感じるのです。損したくないんですよね。

詳しくは数式で説明できるのですが、話がややこしいので割愛しています。興味を持たれた方は市販の書籍を読んでみて下さい!

この図で考えると、特に損失において「考えられない選択」をしがちです。以下の選択肢を見比べて下さい。

(A)確実に1万円貰える
(B)50%の確率で2万円貰えるが、50%の確率で0円になる
(C)確実に1万円失う
(D)50%の確率で2万円失うが、50%の確率で0円になる

(A)と(B)では、(A)を選ぶ人が多いようです。中にはリスクを取って(B)を選ぶ人もいるでしょうけど(ちなみに私はB派で山師です)。

一方で(C)と(D)では、(D)を選ぶ人が多いようです。

どちらも平均1万円の利得・損失ですが、選択肢の傾向が変わるのは図の通り、感じる価値が違うからです。

株の損切りできない人たちが、まさに「損失回避」に陥いりがちです。いま確実に売り払えば1万円の損失で済むのに、この先もしかしたら50%の確率でチャラになるかもしれない…そう考えてしまい、株を売れず、余計に損失を被ってしまうのです。

「今辞めたら最小の被害で済むのに」という論理的な思考は、「今辞めると被害が発生してしまうけど、続けたら被害すら帳消しになる可能性がある」というプロスペクト理論を前に圧倒的無意味なのです。

【「損失回避」の例】
 人間がつく「嘘」って、実は大半は損失回避に起因しているのではないでしょうか。ここで認めてしまうと被害が発生してしまうけど、嘘をついて現状を誤魔化して後から何とか取り繕えば元に戻せるかもしれない…。
 だから、そういう時は「嘘を付くな!」と責めるより「この先に何があっても取り繕えない、元には戻らない」ことを証明した方が、心理的には効果があると思います。


■「参照点」の概念を知れば応用の幅は広い

プロスペクト理論は「確実性効果」「損失回避」の双方に「参照点」という概念があると分かります。

損した得したという心理的な感覚の評価は、主観的に設定された現在の状況を基準に判断します。ちなみに現在の状況を「参照点」と呼びます。

確実性効果であれば絶対発生しない=0%、絶対発生する=100%が参照点になり、損失回避であればXとYが(0,0)で交差する点が参照点です。

つまり「どこを基準に置くか」で人間の意思決定は大きく変わってきます。

例えば「現状維持バイアス」は、まさに「現状そのもの」を参照点とみなして、現状からの変更を損失と感じてしまう「損失回避」が原因です。

【「現状維持バイアス」の例】
 サブスクリプションビジネスにおける「解約」は、現状維持バイアスから脱却できた人たちの宝庫です。彼らはただ「解約をした」のではなく「自ら現状維持バイアスを抜け出し解約という行動に移せた」のです。
 「転職へのためらい」も現状維持バイアスの好例でしょう。その会社に移ることへの不安感が「現状からの損失」と感じてしまい、結果的に転職しないという選択肢が採られます。
 現状維持バイアスを壊すのに良いのは「現状のままだと損失が発生する」「変わることが現状維持になる」という、ある種の思い込みみたいなものが必要なのかもしれません。

現状維持バイアスは「保有効果」としても説明可能です。現状を「全て自分が保有している」と捉えてしまい、何かを手放す=損失と考え、大した価値の無いものすら「価値がある」と考えて手放せなくなるのです。

既に所有しているモノの価値を高く見積もってしまうと、所有する前と所有した後で、そのモノに対する価値の見積もりが変わります。

【「保有効果」の例】
 物が捨てられず部屋が散らかっている人は「保有効果」から抜け出せずにいるのかもしれません。彼らは「意思が弱い」のではなく「意思が強い」から捨てられないのでしょう。
 他にも、同じようにサブスクリプションビジネスは元来、保有効果を考慮したビジネスモデルです。繰り返しになりますが、所有している状態にあるとき、価値を高く見積もってしまいがちなのです。最近流行りのカスタマーサクセスも、本来は「保有効果」を活かすべきではないでしょうか。


ヒューリスティックスとは?

ものすごくザックリ説明すると、理屈も筋も通ってないけど、本人だけは正しいと思っている直感的な意思決定をなぜ下すかを示した理論です。

通常であれば、数字を集めて計算したり、様々な情報を収集して考えたり、論理立てて、じっくり時間をかけて合理的な意思決定が行われます。

しかし、全ての意思決定において、それらをやっていると脳が爆発します。少なくとも疲れる。

例えば今日はどんな服着る? 昼飯何を食べる? 家の外を出るのは右足、左足? 仕事は何から始める? 日常における意思決定の数を挙げたらキリがありませんよね。

自分の中で優先順位も高く、自分の意志で決めたい場合を除いて、脳はヒューリスティックスと呼ばれる直感的な意思決定に頼ります。これはファスト&スローでダニエル・カーネマンが説いた「システム1」状態です。

ヒューリスティックスは「脳が考えるのを止める」のではなく「脳が省電力モードで稼働する」のと同義だと私は捉えています。

メリットとしては、脳が疲れずに済み、時間もかからず短期間で結論を得られます。デメリットとしては、よく考えれば誤りだと気付く意思決定も、システム1状態だと気付けません。

そのおかげで、様々な「ワナ」に陥ってしまう。以下に幾つか列挙します。


■偶然を必然と考える「平均への回帰」

1回目の結果が良かった・悪かった人たちの2回目の結果は、1回目全体の平均値に近くなる現象を「平均への回帰」と言います。データは、極端なデータになるよりも平均値に近くなる確率は常に高いのです。

「回帰」には「もとの位置または状態に戻る」という意味があります。すなわち「平均への回帰」とは「最終的に平均に戻る現象」と考えれば良いでしょう。

プロ野球で言うところの「隔年投手」を例に考えると「平均に比べて特段に能力が優れているわけでは無いけど偶然活躍でした」「平均に比べてずば抜けて優れているのに偶然活躍できなかった」の2種類が考えられます。

山口俊さんは前者、工藤公康さんは後者。知らんけど。

でも人間はヒューリスティックスな状態だと「良い時」「悪い時」だけを見て判断しがちですよね。90年代のヤクルトとか年単位で評価が変わって大変です。

【「平均への回帰」に気付かないで罠に嵌る例】
 ビジョナリーカンパニーで取り上げられていた企業は、「良い瞬間」だけを切り取られています。先ほど紹介した「ファスト&スロー」でも、以下のような記載があります。

『ビジョナリー・カンパニー』で調査対象になった卓越した企業とぱっとしない企業との収益性と株式リターンの格差は、大まかに言って調査期間後には縮小し、ほとんどゼロに近づいている。

 ブックオフの「ビジネス書コーナー」に足を向けて下さい。10年前、15年前のベンチャー経営者の自伝がズラッと並んでいます。彼らはどこに行ったのでしょうか?
 「平均への回帰」に気付いたのが、日経ビジネスの編集長だった杉田亮毅さんです。就職時に人気大企業だった会社が見る影も無くなる、あるいは歯牙にもかけなかった中小企業が大企業になるのを見て、杉田さんはデータから「企業の寿命は30年だ」と発見します。ちなみに後に杉田さんは日経新聞の社長を務め、日経新聞デジタルの礎を築いた人でもあります。
 時系列・時間軸での評価が誤謬に気付く方法でしょうか。少なくとも、たった1回で判断せず、2回目3回目を見守るべきですし、もしたった1回で判断せざるえない場面があるなら「平均への回帰」の可能性を忘れてはいけないでしょう。


■身近な情報を正しいと考える「利用可能性ヒューリスティックス」

正確な情報を手に入れず、身近にある情報や即座に思い浮かぶ知識で意思決定してしまう現象を「利用可能性ヒューリスティックス」と言います。端的に言ってしまうと「思い込み」です。

しかも、本人はそれを裏付けせず「正しい」と思っているので、指摘するとムッとされます。隊長からは「当てに行くバッティングではなく、フルスイングで殴りに行く姿勢」と表現されたので、言い方が悪いんかな…。

「単純接触効果」と言って、繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果があります。何度も何度も触れていると「有名なんだな」と錯誤して、それが当たり前だと勘違いを起こします。

例えば、皆さんが普段利用しているコンビニ。コンビニの数と、神社の数、どちらかが多いでしょうか。

この流れで聞くってことは、もちろん神社が多いのです。日本フランチャイズチェーン協会が公開している資料によると2018年のコンビニの数は58,340店舗、宗教統計調査によると2017年の神社の数は81,067社だそうです。

コンビニばかり言っていると「利用可能性ヒューリスティックス」が働いて「コンビニは全国津々浦々に溢れている」と思い込みがちですが、全国津々浦々に溢れているのは、どちらかと言えば神社なのです。

利用可能性ヒューリスティックスを打破した事例として、FUCTFULLNESSが思い浮かびますね。皆さんバイアスが壊される快感を覚えたから、この書籍を色んな人にお薦めしたんでしょう。

【「利用可能性ヒューリスティックス」に気付かないで罠に嵌る例】
 有名な〇〇さんが言っていた、昔からの言い伝え、おばあちゃんが教えてくれた、だいたいこれらは利用可能性ヒューリスティックスになる可能性があります。一定の信頼を獲得している人からだと「無条件」に信じてしまうのは、その人の信頼が、話の内容自体の信頼に繋がるからかも。それが、ふろむださんの書かれた「人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている」だと思います。
 Twitter炎上芸人も、狙っているのは利用可能性ヒューリスティックスでしょう。ここで注意すべきは「誰もがバッシングする意見を言う」のではありません。「賛否両論巻き起こる意見を言い、否定派を煽る」のです。賛否が分かれる分、意見量も増え、接触回数も増えて、意見の言い出しっぺに注目が集まる仕組みです。
 そう言えば、BuzzFeedに移られた岩永直子さんは「利用可能性ヒューリスティックス」と戦われているジャーナリストではないでしょうか。思い込みや迷信で医療を語られたらたまったもんじゃないと思いつつ、いかに人間の「意思」は堅牢か…。


■みんなが支持しているから正しい「代表性ヒューリスティックス」

自分の身の回りの出来事や、似たような類似の例を過大評価して意思決定してしまう現象を「利用可能性ヒューリスティックス」と言います。端的に言ってしまうと「もっともらしさに引きずられる」のです。

しかも、本人はそれを裏付けせず「合理的」と思っているので、指摘するとムッとされます。隊長からは「当てに行くバッティングではなく、フルスイングで殴りに行く姿勢」と表現されたので、言い方が悪いんかな…。

例えば、コイントスで遊んでいる時に、4回投げて4回連続「表」が出てきました。さて5回目に表が出る確率は?

もちろん「50%」です。個々の事象は独立していますから表が50%、裏も50%です。

次に、コイントスで遊んでいる時に、4回投げて「表・裏・裏・表」の順番に出てきました。さて5回目に表が出る確率は?

こちらも、もちろん「50%」です。個々の事象は独立していますから表が50%、裏も50%です。

では、4回投げて4回連続「表」が出る、4回投げて「表・裏・裏・表」が出る、どちらの方が出る機会は多いでしょうか?


…。


……。


………。


もちろん、「どちらも同じ」が正解です。個々の事象は独立していますから発生確率は同じです。0.5^4 = 0.0625 ですね。

4回投げて「表・裏・裏・表」が出る機会が多いと直感的に思うのは、コインは表と裏がランダムに出るので、ランダムに出ている方が「もっともらしい」という思考に引きずられるのでしょう。

【「代表性ヒューリスティックス」に気付かないで罠に嵌る例】
 Twitter上で、ある特定のコンテンツに何度も触れていると「それが今、人気のコンテンツなんだな」と考え、その記事を読んだり、自分も同じようにRTするのが「代表性ヒューリスティックス」だと私は思います。言い方は悪いですが、ユーザーを錯誤させているのです。ただ、昔からテレビや雑誌は「〇〇で流行っている」と流行を作ってきましたから、昔も今もそんなに変わんない。


■お金に色を付ける「メンタル・アカウンティング」

お金の入手方法に応じて、お金を仕分けする心理を「メンタル・アカウンティング」と言います。端的に言ってしまうと「人は誰しも独自の勘定科目を持っている」のです(端的じゃないか)。

例えば「あぶく銭は散在しても構わない」とか。あぶく銭だろうが何だろうが、お金はお金なので、給料と同じように貯金したら良いのに、あぶく銭だからという理由で散在するのは全く論理的ではありません。

お金に関して意思決定をする際、様々なことを勘案して総合的に判断せず、入手方法という狭いフレームの中で判断してしまうのは、お金に「色」が付いているからですね。

例えば、当初予算は3万円だったのに、どうしても5万円のシューズが欲しくて買ったとします。すると2万円オーバーしているので、どうしても節約しがちです。例えばいつもは大盛なのに並を頼んじゃう、とか。

自分の心の中で勝手に「シューズ代」という勘定科目を作ってしまうと、その枠内で赤字・黒字って考えてしまうんです。

でも、その2万円オーバーはその月の支出額のうち、どれくらいを占めるのでしょうか? 貯金から切り崩すという発想はないのでしょうか?

【「メンタル・アカウンティング」に気付かないで罠に嵌る例】
 心の勘定科目リプレイスってよくあるんです。「月々コーヒー1杯分で〇〇し放題!」とか。じゃあ、それで実際にコーヒー1回我慢しているかと言えば、そうでもない。
 罠から抜け出すのに手っ取り早いのは「入金も出金も財布を1つにする」です。間違っても、noteで得た売上を「臨時金」と考えない。第2の給料と考えるんだ。副業をやっている人は陥りにくいですが、副業をやっていない人ほど「メンタル・アカウンティング」は鍛えないといけないでしょう。


■絶対に戻ってこない「サンクコスト」

既に支払ってしまって回収できない費用を、サンクコストと言います。費用とは、お金だけでなく時間も含まれます。

「サンクコスト」は帳簿などでは数字に表れるのでしょうが、意思決定を下す際に都度、帳簿で判断するわけにもいきません。何より全ての費用が、すぐさま数字で表現できるわけもありません。その結果、サンクコストに縛られた意思決定を下してしまうのです。

端的に言ってしまうと、脳内で「もったいない精神」が起きているのです。

例えば、長蛇の行列に並んでいる最中に「ここまで時間を費やして並んでいるのだから途中で抜けるのはもったいない」と考えてしまう。AmazonPrimeで購入した映画がクソほどつまらないのに「せっかく買ったから」と考えて最後まで観てしまう。

既に投資した2時間が無駄になるから、既に支払った500円が無駄になるから、さらに2時間投資してしまう。ただし、列に並んだ2時間や、既に支払った500円は戻ってくるわけでは無いんです。この返ってくるはずのないコストをサンクコストと呼びます。

「参照点」を「行列に並んだ段階」や「映画を購入した段階」に設けてしまい、「既にコストを投入しているのでここで抜け出すと損をする」と考えてしまう心理が、意思決定に影響してしまうんです。

「今、再び行列に並ばないといけないと考えて並ぶか?」
「今、映画を見始めたとして、引き続きこの映画を見るか?」

こんな感じで「今」を起点にすると良いのではないでしょうか。

【「サンクコスト」に気付かないで罠に嵌る例】
「こんなに課金したのに辞めるなんてもったいない!」というのがガチャしまくったアプリを卒業するときに思うことです。「ここで辞めたら今までの時間はなんだったの?」と思うでしょう。ただ、どれだけ思っても時間は帰ってきません。今やりたいのか、と考えるべきです。
逆に、健康食品のような「継続」ビジネスは、全面的にサンクコストを訴えれば良いと思います。「あなたはこれまで弊社のサービスを"8カ月"も続けられました。体質の改善、体調の変化はジワジワと変わるもので、10か月で変化の兆しを感じた人は6500人、11カ月で変化を兆しを感じた人は7600人もいます」とか。


知っておくべきその他の行動経済学用語

最後に、プロスペクト理論やヒューリスティックスのような、知っておくべき単語に触れておきます。


■ダイエットは明日からやる「現在バイアス」

計画はできるのに、いざ実行する瞬間になると現在の楽しみを優先し、計画を先延ばししてしまう対応を「現在バイアス」と呼びます。時間が経過した以外に大きな変化も起きていないのに、なぜか選択肢が変化してしまう「非整合な意思決定」と言えます。

例えば、明日からダイエットすると決めたのに、明日になるとダイエットが出来ない、とか。他にも夏休みの宿題先延ばし症候群、積読増える症候群、みんな「現在バイアス」にかかっています。

打破するには「今日からやる」しかありません。「今すぐやる」「今すぐ読む」でしかバイアスを破れません。

この「現在バイアス」の打破をもっとも上手くマーケティングに活用した事例の1つが「ライザップ」の"結果にコミット"です。

とにかく、今日にコミットし続けるしか、現在バイアスから逃れられないのですから。ただ行き過ぎると、強迫性神経障害に繋がるかもしれないのでご注意を(ワシがそうなってしまった)


■SDGsにも展開可能な「社会的選好」

旧来の経済学では「人間は利己的」と定義してきました。(大竹先生の説明によると、旧来の経済学は、多数の個人からなる市場での行動を分析していたことに由来するそうです)

しかし意思決定を下す際、自身の物的・金銭的選好に加えて、他者の物的・金銭的利得への関心を示すことが明らかになっています。

この思考は「利他性」「互恵性」の2つから説明可能です。

利他性とは「他人の幸福度が高まると自分の幸福度も高まる」「自分が他人の為になる行動や寄付額そのものから幸福感を感じる」という2種類が混ざっています。

例えば、イオンでは「幸せの黄色いレシート」という寄付活動が毎月11日に行われています。以前住んでいたマンションの近くにイオンがあって、よく投函しています。

さて、現在はレシートの合計金額の1%ですが、もし「8月はチャリティ月間として2%にする」とイオンが宣言したらどうでしょうか。

(A)今までより多く商品を購入して投函する。
(B)今までより少なく商品を購入して投函する。
(C)何も変えず投函する。

行動経済学的には、どの行動も利他性を表しているのですが、(A)と(B)は自分の行動が寄付額に変わる=他人の幸福度に影響を与えているという考えであり、(C)は寄付すること自体に喜びを得ていると言えます。

イオンさんは大竹先生を招いて、ぜひ実証実験をされると良いでしょう。たぶん、11日の売上がちょっと上がって、それは1%追加分の寄付額を上回る売上になるはずです。

もう1つの互恵性とは「他人が自分に対して親切な行動をしてくれると、それを返す」という返応を指します。

例えば、相手から何かモノを貰ったら返さないと気が済まないとか、お歳暮にお中元、あるいは「既読スルーはイヤ」とかみんな互恵性を期待しているんですよね。

人間は自己中心的な生き物だから、国連様が登場してSDGsとか言っちゃってるのですが、社会的選好、とくに「利他性」「互恵性」を活かせば、強制性を伴わない行動変容を起こせそうな気がしています。


最後に一言

プロの方から見れば、まだまだ分かってないな~こいつ、ってところあるかもしれません。もし良かったら私に「お前、この本読めよ!」って紹介して下さい。行動経済学、認知心理学について改めて学びたいと思っています。

以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。

(2020.06.06追記)
いろんな書籍、学術書を紹介いただき、学んだ成果を1冊の書籍にまとめました。


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松本健太郎
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