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「マーケティング本はなぜ売れない?」なぜなら勉強するマーケターは約24万人しかいないから

「テーマはマーケティングですか。うーん、マーケティングの書籍って売れないんですよね。マーケターって少ないですからね…」

出版社の編集者さんと企画会議をすると、決まって出るのがこのセリフ。親の仇かというくらい、マーケティングの書籍を出すのは嫌がられます。

書店のビジネス書コーナーに足を運んでみて下さい。マーケティングの書籍が飛ぶように売れているケースは少ないと気付きます。

売れている「マーケティング」関連書籍を見ても、1冊目に非マーケティングの書籍を刊行されて大ヒットを飛ばしている著者か、広いマーケティング(商品・サービス開発/市場・顧客調査/事業戦略策定)について書かれているか、どちらかです。

余談ですが、大ヒットを飛ばした作家の書籍だと、書店の皆様も安心して棚を開けてくれます。もちろん、版元のパワーも影響していますが。以前の調査で、書籍をリアルの書店で購入するのは7割いると分かっています。やっぱリアル書店、大事です。

我らが森岡毅さんの1作目は、メインテーマは「アイデア発想の技術」でした。書籍のタイトルは、当時流行っていた「なぜ〇〇」形式で、マーケティングの「マ」も登場しません。

他にも、北の達人・木下さんの1作目は、メインテーマは「ファイナンス」でした。書影は山田真哉氏ですから、そっちに寄せてるよな~と思っています。

さらに、音部さんの1作目は、メインテーマは「戦略」でしたね。こちらも、「なぜ〇〇」形式です。

もちろん、マーケティング全般、特にマーケター向けに施策に特化して解説して売れている書籍もあります。しかし、その何十倍と売れていない書籍があるのです。

実際、国会図書館で出版年を2024年に絞って検索すると、タイトルに「マーケティング」が含まれる書籍・ムックは103冊、内容細目に「マーケティング」が含まれる書籍・ムックは1064冊もあります。

でも、皆さんの記憶に残っているマーケティングの書籍は、せいぜい3~5冊程度ではないでしょうか? どこ行った、残り1000冊は。

必要性・重要性は理解しつつも「広いマーケティングの話ならビジネスパーソンも対象になるんですが、マーケター向けの狭いマーケティングの話は、専門として扱っている出版社ならともかく、私たちはちょっと…」と小首を傾げる編集者さんの気持ちは分からんでもない。

ちなみに狭いマーケティング・広いマーケティングを図にするとこんな感じです。狭いマーケティング=マーケティング職従事者(マーケター)、広いマーケティング=マーケティング職では無いがマーケティングスキル・技能を必要とするビジネスパーソン、と定義できるかと考えます。

冒頭にご紹介させていただいた「アイデア」「ファイナンス」「戦略」いずれも、筆者は「広いマーケティング」を解説していると考えます。

イメージとしての「狭い」「広い」

では、「狭いマーケティング」=マーケティング職従事者(マーケター)の数は本当に少ないのでしょうか? 汐留では3万人って話を聞きましたし、六本木では30万人って話を聞きましたし、四谷では300万人って話を聞きました。どれが本当なのでしょうか。

そこで、マーケターは何人ほどいるのかを調査してみました。


令和2年国勢調査で類推するマーケターの人数

まず、公的に公開されている情報から、マーケターは何人いるのか類推してみましょう。

令和2年国勢調査によると、2020年の就業者数は5767万3630人でした。うち雇用者(正規の職員・従業員、派遣職員、パート・アルバイト・その他)は4698万1610人、役員は314万1140人です。

産業別の内訳は以下の通りです。「製造業」「卸売業・小売業」「医療・福祉」を合わせると2538万6670人(就業者数全体の44%)となります。

産業別就業者数

次に職業別(詳細な職業分類および定義はコチラ)は以下の通りです。「専門的・技術的職」「事務職」を合わせると2202万7060人(就業者数全体の38%)となります。

職業別就業者数

ちなみに、産業別 × 職業別をクロス集計してヒートマップで表現すると以下のようになります。見難くてすいません。D列(販売従事者)のH行(卸売業・小売業)、H列(生産工程従事者)のE行(製造業)が1マスだけ赤くなっており、産業・職業における偏りが伺えます。

産業別就業者数×職業別就業者数

「マーケター」は、職業分類で言えば、どれに該当するでしょうか。

厚生労働省が運営している職業情報提供サイトによれば、マーケターの職業分類(「マーケティング・リサーチャー」または「Webマーケティング(ネット広告・販売促進)」)は「企画・調査事務員」が該当するそうです。初めて知りました。

「令和4年版厚生労働省編職業分類表」によれば、「大分類:事務的職業」「中分類:総務・人事・企画事務の職業」の1つに分類されていました。マーケターって広義には事務職なんか!と驚きました。

033-03 企画・調査事務員(例示職業名)
〇 イベントプランナー、Webプランナー、Webマーケティング事務員、営業企画係(企画が主であるもの)、NPO法人職員(企画)、企画係事務員、企画係事務員(百貨店)、経営企画事務員、出版物企画員、商品開発部員、商品企画開発事務員(チェーンストア)、商品企画事務員、太陽光発電企画・調査事務員、ツアープランナー、店舗開発事務員(コンビニエンスストア)、統計調査企画係員、ネット広告・販売促進事務員、ネット通販企画開発事務員、販売企画事務員、販売促進企画事務員、販売促進部員、マーケティング企画事務員、マーチャンダイザー(百貨店)、旅行商品企画事務員、調査事務員、マーケター、マーケティングリサーチャー

さて、ここまでは良かったのですが、少し困った事態となりました。なにも厚労省・総務省に限りませんが、こうしたグルーピングのタグは省庁を横断して統一化されておらず、総務省国勢調査で厳密に同じ定義のタグがありませんでした。デジタル庁様、なんとかして下さい。

「厚生労働省編職業分類表」と「国勢調査に用いる職業分類」を見比べて、「企画・調査事務員」とは「C 事務従事者」>「一般事務従事者」>「企画事務員」が該当するであろう、と判断しました。

【国勢調査に用いる職業分類から引用】
253 企画事務員
企画・立案、業務計画の策定及び市場調査などの仕事に従事するものをいう。
○ 企画課長補佐;企画課長代理;企画係長;企画係事務員;プランナー;業務計画係事務員;マーケティング・リサーチャー;商品開発部員
× 調査員(電話によるもの)〔256〕

そこで、「企画事務員」に絞り込んだ産業別就業者数のクロス集計を作成してみました。ただし、企画事務員のみ集計したデータが無く、「秘書」「その他の一般事務従事者」も含まれた「その他の一般事務従事者」として集計されている点に留意が必要です。

産業別就業者数×職業別就業者数(25c_その他の一般事務従事者)

事務従事者1175万6080人のうち、その他の一般事務従事者は373万7850人(事務従事者全体の32%)が該当します。

ただし、産業別内訳で見ると公務(国家公務員21万2690人、地方公務員74万3450人)が圧倒的に多く「マーケティングってそういうことだっけ?」と小首を傾げます。

が、いったんは「373万7850人」(就業者数全体の6%)を、国勢調査を基準にしたマーケティング職従事者数ではないかと定義します。


ネット調査で類推するマーケターの人数①

373万人を導き出すロジックは、仕方が無いとはいえ「ちょっと緩い計算しているな」と思いました。そこで今度はインターネットリサーチのFreeasyを使って、マーケターは何人いるのか類推してみましょう。

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