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「これが欲しかった!」コンビニスイーツのインサイトを発見するには?詳細解説

「セブンさんは、一体どうなっているのですか」「お手本としていたのに」。この夏、流通・食品業界などでセブン-イレブン・ジャパンの営業成績を心配する会話が頻繁に交わされていた。今年になってセブンイレブンの既存店舗売上高が前年実績を下回る月が続き、一方で競合のファミリーマートとローソンはプラスの月が並ぶ。こうした状況にセブンイレブンの永松文彦社長は7月の第1四半期決算で、「顧客ニーズに対し低価格の訴求が半年遅れた」と反省の弁を述べていた。

セブン-イレブンの苦戦を伝える報道が続いています。

ツイッターでは、こうした報道と共に「値上げ底上げ弁当」「トリックアートパッケージ」「詐欺サンド」等の罵詈雑言が並んでいます。親の仇討ちか何かでしょうか。いったん落ち着きましょう。

ダイエット時には高たんぱく質を求めて、セブン-イレブンで鯖やサラダチキンやサラダを買うので、こうした状況に胸を痛めています。オマール海老のビスクも美味しい。冷凍食品も美味しい。「反省しろよセブン-イレブン、だけどやっぱりセブン-イレブン」と筆者は思っています。

ただし、コンビニスイーツ。これは伸び代を感じています。もっとワクワクしたい。どちらを買うか迷いたい。そして、どちらも買いたい。

というわけで、今回は「コンビニスイーツ」をテーマに、CEPの発見からインサイトの抽出までをやってみます。


コンビニへの来店頻度/好意度

コンビニスイーツのCEPを発見する前に、そもそもコンビニへどれくらいの頻度で来訪しているか、またどれくらい好意度があるのかを調査しました。

<調査条件>
セルフ型アンケートツール「Freeasy」を用いて調査を行った。
調査日は9月30日。
対象は全国に住む15歳以上69歳以下の男女10,000人。そのうち、有効回答と認められる6,929人で集計を行った。年代別は以下の通り。
15歳~19歳:502人
20歳~29歳:1,065人
30歳~39歳:1,157人
40歳~49歳:1,542人
50歳~59歳:1,536人
60歳~69歳:1,127人

ここ最近(~3か月以内)、どれくらいの頻度でそれぞれのコンビニに訪れているか聞いたところ、以下のような結果となりました。

訪問頻度

週1回以上と回答した割合は、セブン-イレブン36.50%、ファミマ27.23%、ローソン27.00%、ミニストップ3.29%、デイリーヤマザキ2.06%となりました。(聞くタイミングやパネルによって数値は変わるででょうから、ざっくりとした傾向として掴む数字かと思います)

こうした傾向になるのは、店舗数が影響していると考えます。日本経済新聞社が実施した2023年度コンビニエンスストア調査によると、各店舗数はそれぞれ以下の通りだそうです。

  • セブン-イレブン:2万1535店

  • ファミリーマート:1万6271店

  • ローソン:1万4643店

  • ミニストップ:1856店

  • デイリーヤマザキ:1315店

では、来店頻度は「好意度」に影響するでしょうか。上記5つのブランドを並べて、「あなたが好きなコンビニのランキングを作成してください」とお願いしました。その結果は以下の通りです。

「あなたが好きなコンビニのランキング」を作成依頼

セブン-イレブンは47.76%が1位だと選択しました。もし調査を第1四半期決算後に行っていれば、傾向はまた変わったかもしれません。事前に調査をしておいて良かったです。

さて、こうして見ると、訪問頻度と好意度に一定の相関があるのでは、という仮説が浮かびます。そこで、訪問頻度×好意度の表を作成しました。

セブン-イレブンの場合
ローソンの場合

例えば「週1回」で比較すると、セブン-イレブンの場合は56.40%が1位を選択していますが、ローソンの場合は34.22%が1位を選択しています。つまり訪問頻度と好意度が必ずしも関係するとは言い難い結果となりました。

その理由は「そのブランドだけ訪問している消費者が少ない」ことに尽きると考えます。例えば、セブン-イレブンには行ったことがあるけど他4社のコンビニに行ったことが無いのは280人(4.04%)でした。他、ファミマのみは96人(1.39%)、ローソンのみは104人(1.50%)でした。

そこで、横軸にセブン-イレブン、縦軸にローソンの訪問頻度の表を作成しました。「ですよね」という結果になりました。

横軸にセブン-イレブン、縦軸にローソンの訪問頻度の

つまり、大半の人は普段から複数のコンビニを利用しながら、訪問頻度にさほど大きな違いが無いなかで、セブン-イレブンの好意度が相対的に高いということが分かりました。

これは過去の「良いイメージ」が大きく影響しているのではないか、と考えます。今日の結果は、昨日の原因に成り立っているのです。

だから、そういう過去の「良いイメージ」を壊すようなことは絶対やってはいけないし、「反省しろよセブン-イレブン」と思うのです。

ちなみに、いずれの結果も年代別、地域別に求められます。メールで連絡いただけると、まま共有します。メールアドレスは i_effective_executive [アットマーク] yahoo.co.jp です。ただし、フリーアドレスからの連絡は受け付けません。会社名・所属部署は必ず明かしてください。(大っぴらに配布するデータでも無いので)


インサイトをどのように抽出するのか?

ビジネスパーソンで、インサイトの話を嫌う人にあまり会いません。筆者も大好きです。「そういう手があったのか!」と思うことがしばしばです。

余談ですが、インサイトの定義は諸先輩のマーケターが様々に定義をされておられます。筆者は「デコム派」に所属しており、インサイトは「人を動かす隠れた心理」と考えます。詳細は大松さんが刊行された書籍、筆者が刊行した書籍をご覧いただければ幸いです。

一方、そうしたインサイトを「どうやって見つけるのか?」について焦点を充てたコンテンツは少ないかもしれません。「インタビューで…」「社内で議論して…」とボカされています。絶対に盗まれてはいけない秘伝のタレでもあるでしょうから、口を濁すのは当然かもしれません。

余談ですが、デコム在籍時に苦労したのは「事例が取れないこと」でした。競合に知られたくない!って理由でした。

そこで、まずは、どうやってインサイトを見つけるか?(HOW)に焦点を絞って解説します。

例えば、あなたがスマホゲームアプリの開発者だったとして、離脱したユーザーにインタビューする機会があったとします。ゲームはリテンションが年々低下しており、ロイヤリティーを高めることが喫緊の課題でした。

離脱したユーザーには「何らかの理由」があるはずです。それこそがインサイトです。インタビューを通じて、それを引き出さなければなりません。

何と聞きましょうか。ずばり、そのまま「どうしてゲームを止めたのでしょうか?」と聞いてみましょうか。90%ぐらいの確率で「飽きました」と返ってくるはずです。ウソではないでしょうが、本音でもないでしょう。

ところが「飽きた」という言葉が独り歩きして「『飽きた』を早めに検知できないか?」というビッグデータプロジェクトが走り出すのです。

筆者も1度経験があります。「ログイン頻度が少しずつ減るのでは?」「滞在時間が少しずつ短くなるのでは?」と仮説を立てた結果、「定期的にログインしたくなるようなコラボキャンペーンしましょう!」みたいな結論が出ました。

確かに、「ログインするのを止める」という結果を生んだのは、「飽きた」という原因です。しかし、「飽きた」という結果を生んだ原因は何なのでしょうか? それが分からない限り、「ログインしたくなるコラボキャンペーン」が施策として正しいかどうかは分かりません。(新規ユーザーは増えるでしょうがリテンションは低いままになりそう)

どうやって「何らかの理由」を聞き出すのか。その手法の1つが、参照点を設けることです。

例えば、「今の仕事に不満はありますか?」と聞くより、自分より仕事で活躍しているAさんや年収が高いBさんと比べるのです。「あなたは仕事を一生懸命頑張っているようですが、AさんやBさんの仕事ぶりと比べて、今の仕事に不満はありますか?」と参照点を設けて聞いた方が、不満は出易いです。

そもそも、不平・不満は何かと比較するから出るのです。自己啓発書を読むと「他人と比較するな」と記載されています。なぜなら誰と比較しても自分の足りない点を見つけてしまい「不満が出る」からです。

同じように、スマホゲームアプリにおける離脱したユーザーの「何らかの理由」も、参照点と比較して聞くことで「実は…」と出てくるのではないでしょうか。

例えば、「勝負事は何かと夢中になってしまう」人に「ところで、そんなあなたがスマホゲームに最近ログインしていませんが何かありましたか?」と聞いてみましょう。「対戦で何度も負けて悔しい思いをしたから」という回答が返ってくるかもしれません。

例えば、「課金はせずに気軽に遊びたい」人に「ところで、そんなあなたがスマホゲームに最近ログインしていませんが何かありましたか?」と聞いてみましょう。「廃課金者とたたかって金の力をまざまざと見せつけられたから」という回答が返ってくるかもしれません。

これらの回答は「そう言えばそんなことあった」と思い出す内容であったり「言われてみれば」と整理して気付く内容であったりします。いずれにせよ脊髄で反応した回答ではなく、脳で思考を通した回答だと筆者は考えます。


参照点としてのCEPを発見する

本人がパッと思い出せなかった「何らかの理由」を聞き出すための参照点の筋の良さが、インサイトに巡り合うために重要なポイントです。

筆者はあれやこれやと模索した結果、「CEPを使うのが良いかもしれない」と考えるに至りました。今回は「コンビニスイーツのインサイト」ですからお菓子を購入する際のCEPが良いでしょう。

お菓子と言っても、洋生菓子もあれば和生菓子もあるし、チョコレートもビスケットもあります。それらはコンビニで買えるから「コンビニスイーツ」と呼ばれますし、百貨店で買えば「デパ地下スイーツ」と呼ばれます。

まずは、ここ最近(~3か月以内)、どれくらいの頻度でそれぞれお菓子を買っているか聞いたところ、以下のような結果となりました。

お菓子の購入頻度

「買っている」なので、どのお菓子も20%~50%が「買っていない」と回答しているのが特徴です。パッと見た感じ、商品単価も影響していそうな印象を受けます。

全日本菓子協会によると、令和5年の菓子小売金額はチョコレートが6,040億円、スナック菓子が5,304億円…と記載があるので、傾向としては一致していそうです。

続いて、買った場所を聞いたところ、以下のような結果となりました。

お菓子を買った場所(n=6,919人)

スーパー、コンビニ、ドラッグストアが上位を占めるようです。百貨店は意外と少ないのが驚きでした。

そう言えば、「スーパースイーツ」「ドラッグストアスイーツ」って言いませんね。コンビニスイーツは自社ブランドで製造しているから、まだ分かるのですが、デパ地下スイーツはそうでは無いと思います。これがブランドの力なのか…どうなんでしょう。

こうした背景を頭に叩き込んで、マーケティングリサーチを用いてCEPを発見していきます。ちなみに、詳細な解説はこちらに記載しています。

文章完成法を用いて以下のような質問を作成し、先ほどいずれかのお菓子をここ最近(~3か月以内において)買ったと回答した6,142人からの回答を得ました。

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Q.何がお菓子を買うキッカケになったでしょうか? もっとも印象に残っているキッカケを、できるだけその瞬間が目に浮かぶように記載してください。


私が買ったお菓子は、(          )だ。
私は、(          )という状況・場面で、そのお菓子を食べたいな、と思った。
そのきっかけは、(          )という出来事があったから。
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先ほど公開したnoteで詳細を解説しているので、こうした文章完成法にしている理由は譲るとして、解答例はこんな感じです。

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