そういうふうに、まる子でできている。③
「ちびまる子ちゃん」は、当然全巻そろっている。でも、ひとつの巻だけ未開封のものがある。
17巻。最終巻になってしまった巻だ。
先生の訃報は、旅行中に届いた。ホテルでくつろいでいた夜、LINEが鳴った。「さくらプロダクションからお知らせです。」というタイトルを見て、心臓がギュッとなったのを覚えている。怖い予感がした。内容を読んで、息が止まった。頭が真っ白になり、とりあえず携帯を閉じて、LINEを見る前に時を戻そうと現実から逃げた。でも、心の中は大パニックだった。どうあたふたしていいか分からなかった。あたふたした所でどうこうなる事もない。だから、その場で泣き崩れるなんてこともなかった。水木しげる先生が亡くなった時と同じだ。
家へ戻り、淡々とお別れ会のことなどを調べた。ちびまる子ちゃんランドに献花台を設けるということで、1人電車で向かった。献花台に並び、ただただ手を合わせることしかできなかった。その場から少し離れ、献花台の様子をじっと見ていた。帰りも長時間の電車移動だったが、その間でもまだ気持ちの整理がつかず、「そうか、逝ってしまったか」という気にはならなかった。無理に踏ん切りをつける必要もないかなと思った。が、この先、新作を読める楽しみはもうないんだな、と思うと猛烈に悲しくなり、不安になった。自分の指針がぶれそうだった。
先日、本棚を掃除した。埃をはらいながら、自慢のまる子コーナーに目を止めた。未開封の17巻を手に取り、さすり、表裏を何度も見て、また棚に戻した。ずらりと並べたさくらももこシリーズを眺めるのは久しぶりだった。中を開き、読むこともせず、並んでいる本の背表紙をしばらく眺めていたら、ボロボロと涙があふれてきた。自分でも「え!?今!?」と驚きながら泣きじゃくり、先生が逝ってしまったことにようやく向き合った。
実は、先生が亡くなる少し前に手紙を書こうと思っていた。ファンレターというのは、何をどう書いたらいいのか分からなくて、さらに、なんだか先生の様子が変ではないか。と、特別な能力があるわけじゃないが、そう思ってしまい、書かずにいた。それで、最近noteというものを知り、恐れながら、この場をお借りしようと思った。
最後に、先生へ。
先生の優しさを、震災後の新聞に掲載された4コマでより深く実感しました。情深い先生の優しさが大好きです。バカバカしい事に全力を注ぐところも大好きです。そして、先生の粋なところが大好きです。先生の生き方は、これからも真似して楽しませてもらいます。なので、これからもうんとお世話になるつもりです。さくらプロダクションの方が細目に先生のことをSNSで発信してくれているので、淋しくありません。ですが、17巻はまだまだ開封できそうにないです。先生の生き方が自分なりに身についてきたな、と思ったところで読んでみようかな、と今は思っています。
今、これを書いている時に「おどるポンポコリン」がテレビから流れてきました。若い男の子たちが歌っていますが、涙が出てきます。まだまだまる子は私のそばにいてくれます。
たくさん、たくさん、笑わせてくれて、人生の楽しみ方を教えてくれてありがとうございました。