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イカの目の水晶体

イカの目には水晶体がある。
それを発見したのは昨年の暑い頃だった。保育園を早上がりした息子と行ったスーパーで、「おかあさん、イカ買ってよ!」と言われたのだ。普段からイカをしょっちゅう食べるわけでもないし、多分本人は食べないだろうし、そもそもイカを捌いた経験自体はるか昔だし面倒くさいし。でも息子がイカを欲しがったのは初めてではなかったし、1杯198円だった。うーんと考えて、「息子くんがさばいてくれるならいいよ」というとパッと目を輝かせて「わかった!」というので、買うことにした。

その数日前、小さなイワシの下処理をしていた時に息子をキッチンに呼んだ。イワシの内臓がどこにどんな風に入っているのかを見せたかったのと、あわよくば内臓を取る作業をしてくれないかなと思ったからだ。この時は内臓の感触を怖がって、見てはいたけれどほとんど触ることはなかった。だから、まあイカもいざやり始めたらやらないだろうなあと思っていたのだけれど。

まずyoutubeでイカのさばき方を調べて、1~2回一緒に見たあと、手を洗ってキッチンを整理した。動画を見ながら作業を進めては戻り、進めては戻りして、最終的にほぼひとりで解体した。私が手伝ったのは皮を剥いだり、引っ張るような力のいる作業くらいだった。

バラバラに解体されたあとは、それを細かく見ていった。
足は全部で10本で、うち2本は長い。
口がどこにあって、どういう構造になっているのか。口の内側から指で押してみると、ギザギザの歯が二層でにゅっと押し出される(上顎板と下顎板というらしい)様子は実際に触ってみないとわからないし、なかなか面白い感触だった。
墨袋を破かずにさばけたので、実際にさばいてその色やにおいを見てみる。水に溶かしてその様子を観察する。真っ黒というかんじではなくて、どちらかというと茶色っぽい色だったように記憶している。

それから、今回のタイトルでもある、目。
もともとはつぶさないように、と思っていた。キッチンの掃除が面倒くさいし、なんとなく内容物がぶちゅっと飛び散るような気がしていて抵抗感があった。でも結局観察作業中にひとつがつぶれてしまったので、どうせつぶれたならよく見てみようと、中を見てみた。そうしたら、透明な小さな物体が出てきたのだ。水晶体だ!と感覚的にわかった。

高校生の頃、生物の希望者実習で豚の目の解剖をした。その時、水晶体の美しさに感動したのを思い出した。ガラスのように透明で透き通っていて、メガネのレンズのように文字を拡大して見ることができる。この働きを補うのがメガネというものなのかという実感と、美しさに鳥肌が立ったのを覚えている。
考えてみれば当然ではあるのだけれど、軟体動物の目にも水晶体があるのだ。そのことにとても驚いた。豚は哺乳類だから、私と構造が似ていてもなんら不思議に思わない。けれど、そもそも脊椎もなく、呼吸方法も違い、モンスターのような口をしたこの生き物も、私と同じように水晶体を持っている。生物とはなんと面白いのか!と大興奮してしまった。

おそらく、息子(4歳児)にはこの感動は「おかあさん、なんか喜んで盛り上がってるな~」くらいにしか伝わっていないと思うが、私はなんだかとてもうれしかった。息子がイカを買ってほしいと言わなければ、この発見はなかったのだ。彼の活動や興味が、私にも新しいものを見せてくれる。ただ単に息子のためにやった活動で終わるのではなくて、同じ活動を通して私にも楽しみがあったことはとてもよかったとおもう。

因みに、このイカはその日の晩ご飯のパエリアに添えられたが、息子はひと齧りして終わった。魚介が食べたいお父さんが喜んで食べたのでみんなハッピーだった。

イカをさばいた、という話は息子の持ちネタのひとつになった。直後は保育園や療育、隣家の方など、会う人会う人に「ぼくイカさばいたよ!」と自慢しまくっていた。その話をするときの彼は興奮気味で、少し誇らしげで、ああ良い経験だったんだなと親心に嬉しかった。

動画を見ながらやれば案外難しくないので、生き物好きや魚好きのお子さんには是非お勧めしたい。刃物の登場場面もそんなにないし、うろこや骨で怪我をするリスクもない。水分が飛び散って汚れるようなことも思ったほどはないし、最終的には晩ご飯が一品増える。コストもそんなにかからないので、お試ししやすいかなと思う。


・作業は本人、見守りと補助は必要
・アナログ
・ねらい(観察/巧緻性/生き物の構造を知る/実体験する/料理)
・購入時価格 198円(8月か9月くらい)
・購入場所 近所のスーパー

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ともり あお | 燈青
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