最近は国会議事堂の中でアルバイトをしている。普段はテレビ局でバイトをしていて、それも結構珍しいバイトだと思うけど、国会議事堂でのバイトはもっと珍しい。
国立国会図書館の分館というのが、国会議事堂の4階にある。議員向けの書籍が多数置いてある小さな図書館だ。小さな図書館といっても蔵書数は中々で、正確な数は知らないけれど本棚がどれもパンパンなので作業には苦労した。ここは夏季に2人だけ非常勤の職員を募集しているから、アルバイトのレア度は相当高いと思う。
国会図書館で働いているわけではないので勘違いなさらぬよう。勤務場所は国会議事堂の中の分館なので、国会図書館のことは何も分からない。最近この話を内定先のおじさんにしたのだけれど、国会図書館で働いてると勘違いされてしまった。私がいるのは分館である。国会議事堂の中である。国会図書館のことはよく知らない。
国会議事堂の中に入ったことがある人は、関東生まれだと意外に多いらしい。小学生の頃などに、見学に行く機会があるそうだ。私と一緒に働いている横浜出身の後輩も小学生の頃に一度来たと言っていた。
国会議事堂の床はすごい。全てにレッドカーペットが敷いてある。ちょっとくさい。ダニがいると思う。勤務前は必ずアレルギーの薬を飲んでいた。そうでないと、ひどい鼻詰まりを起こす。
国会議事堂の天井は高い。高級感は天井の高さで出せると知った。お城のような雰囲気がある。天井が高いのでその分ドアも大きいし、なぜか階段もめちゃくちゃデカい。エレベーターもデカい。エレベーターにはエレガントな装飾がしてあって、こんな美しいエレベーターを私は生まれて初めて見た。
国会議事堂のカレーは美味しい。食堂が3ヶ所あって、その全てにカレーがある。中央食堂のカレーは普通。衆議院の議員食堂のカレーはあまり好きでない。参議院の議員食堂のカレーは美味しすぎる。そもそも食堂で1000円近くするカレーを初めて食べたし、食べたら3000円くらいの味がした。今までの人生の中で一番美味しいカレーだった。味をどう表現したらいいか分からないが、濃厚で美味しい。人生で一番美味しいと感じたカレーを、次に議事堂に行くまで食べられないと思うと本当にショック。
国会議事堂のコーヒーは渋い。正確に言うと衆議院分館の中にある喫茶あかねのコーヒーが渋い。インドカレーが食べられる純喫茶で、そこのコーヒーは氷もコーヒーで作られているから味が薄くならないと聞いて飲んでみた。一口飲んで「おじさんの味がする」と私が言ったら、後輩は「おじさんの…味……?」と困惑していた。でも飲んだ後に「先輩が言ってることが分かるような分からないような、分かるような気がします」とか言うから、あかねのコーヒーはおじさんの味ということになった。一口飲むとおじさんの苦労とか、辛さとか、これからの仕事とかが脳内に広がる渋い味。
国会議事堂には幽霊がいると思う。私は霊感がないのでさっぱり分からないが、あ、まずい、と思うことがあった。国会議事堂はエレベーターで4階までしかいけないが、実際は9階建てだ。書庫がある5階から階段で6階に行って、さらにその上まで行ってみようということになって、後輩と一緒に真っ暗な階段をスマホのライトで照らしながら進むと、2回目の踊り場に五芒星が書いてあり、直感で後輩に「帰ろう。」と言った。その先に進むことが出来なかった。好奇心に恐怖が勝ったのは初めてだ。来るな、と言われたわけではなく、行く必要がない、と強く感じたから行かなかった。階段の壁には手の跡がビッシリついていた。次の日5階書庫で作業をしていたら本が誰かに引っこ抜かれたみたいにドンと落ちた。私は「おかえりください」と言った。
国会議事堂の話ばかりしたが、そもそも図書館でのアルバイトは結構楽しかった。今まで図書館は研究の参考のために寄るものだったが、趣味で行っても楽しいところだと思い出した。分館の図書は普通の図書館と違って年度で分類してあるから、その年々に何が起こったのか把握するのにとても役立つ。2013年の本は震災の本がかなり多かったし、2020年の本はぼちぼちコロナの話題が増えていた。ツバキ文具店とか蜂蜜と遠雷とかもあって、あー流行ったなーと思い出す。よく分かる市区町村合併とか、ユニークでタメになる地方政策集とか、議事堂内の図書館ならではの本も多い。読んでみたい本に沢山出会えたから、今年はきちんと読書の秋にしたい。
もこ