楽しみなタレントが加入したマンチェスター・ユナイテッド :: T2W002 :: WSL Watch #013
今回は'T2W = team to watch(注目したいチーム)'の第2弾、マンチェスター・ユナイテッドを。最近の数試合でちょっと気になってるんで。
宮澤ひなたの起用法がちょっと面白い
上に「最近の数試合でちょっと気になってる」って書いたけど、"WSL Watch #003"でも触れた通り、リーグ戦の開幕直後の数試合と並行して行われたUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグ(UWCL)の予選ラウンドの試合を観た感じでは、マンチェスター・ユナイテッドはまだちょっと定まりきってないっていうか、個人的には探り探り感が否めなくて。もちろん、戦力の出入りも大きかったし。
ただ、10月末の代表ウィーク後くらいからちょっと印象が変わってきてて。大きな要因としてはフォーメーションの微調整っていうか、それまでは4-2-3-1が多かったけどその頃から4-3-3になって、宮澤ひなたが右インサイドMFで起用されるようになったと思うんだけど、その頃からすごくバランスが良くなった印象で。個人的には、宮澤ひなたは2列目より前ならわりとどのポジションでもプレイできる攻撃的な選手、どっちかっていうと左寄りでのプレイが得意って印象だったんで、後ろとの関わりが増える4-3-3の右インサイドMFでの起用はちょっと意外だったんだけど、コレがけっこうハマってる感じで。特に低い位置でのビルドアップへの関与がなかなか効果的で、マンチェスター・ユナイテッドのビルドアップは基本的にGKと2人のCBとCMFの4人のユニットをベースして、SBはやや高め、特に右SBはかなり高い位置を取るちょっと左右非対称みたいな配置を取ることが多くて、宮澤ひなたは右インサイドMFだから相手のMFとDFのラインの間に立ったり味方のCMFの横に下りたりって動きがベーシックなタスクなんだけど、右CBと高い位置を取った右SBの間にタイミングよく顔を出してCBからのパスを後ろ向きで受けたCMFのワンタッチを前向きで受けてスムーズにボールを前進させるシーンをちょいちょい作ってて。右SBを高い位置に押し出して右WGをハーフスペースに入れて右インサイドMFが下りてるんで、3人のローテーションってことなんだけど。もちろん、アタッキング・サードまで前進した後はボックス周辺を攻略するための動きを精力的に繰り返しながら自らゴールも狙う宮澤ひなたらしい積極性も発揮してるし。後ろとの関わりが増えた分、タスクは増えてるかもしれないけど、狭いスペースでもボールを受けられる技術だったりボールを持ちすぎずに周りの選手とのコンビネーションを使う上手さだったり瞬間的なスピードだったり、個人の持ち味を活かしながらプレイの幅を広げつつ、それがチーム全体の動きも円滑にしてる感じもあって、端的にすごく面白くなってる印象で。
個人的には、宮澤ひなたはすごく面白い選手だとは思いつつも、少なくともWSLで個のアスリート能力で相手を圧倒できるようなタイプじゃないと思うし、でも、どうしても'ワールドカップの得点王'ってイメージもあるから、前線のアタッカー候補として個の能力でゴリゴリいくことを求められたらちょっと厳しそうかも? ポジションを勝ち取るのにはちょっと時間がかかるかも? とか思ったりもしてたんだけど、すごくいい落としどころというか、かなり面白い役割に、しかも、思ってたより早い時期に収まれた感じがしてる。マンチェスター・シティでCMFを務めてる長谷川唯もそうだし、ウェスト・ハム・ユナイテッドでSBとWBだけじゃなく3バックの右CBとかCMFでも起用されてる清水梨沙もそうだけど、ちょっと意外なポジションで躍動してるのを観るのはいろんな意味でなかなか興味深かったりするし。
得点源のルッソが抜けたシーズン
"WSL Watch #001"でも書いた通り、マンチェスター・ユナイテッドは昨シーズンの2位なんで上位グループに入るチームなんだけど、クラブ史上初のチャレンジだったUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグ(UWCL)本戦出場を逃しちゃってて、しかも、UWCLの予選ラウンドがWSLのシーズン開幕直後だったせいもあったし、イングランド代表FWのアレッシア・ルッソ(Alessia Russo)がアーセナルに、さらにスペイン代表DFのオナ・バトレ(Ona Batlle)もバルセロナに移籍したことの影響ももちろんすごく大きいだろうし、興味深い補強はしたけど、シーズン開幕直後はまだまだ試行錯誤中って印象が強くて。
ちなみに、'興味深い補強'の1人はもちろんマイナビ仙台レディースから加入した日本代表MFの宮澤ひなたなんだけど、その他にも、バルセロナから加入したブラジル代表FWのジェイゼ(Geyse)とかリヨンから加入したフランス代表FWのメルヴィン・マラード(Melvine Malard)なんかは普通に強力で、率直にすごく楽しみなタレントだったりする。
攻守のバランスが取れた保持型のチーム
昨シーズンは過去最高の成績である2位フィニッシュだったんで、当然スタッツ的にもすごくバランスが良くて、得点数はリーグ2位、失点の少なさはリーグ1位、平均ポゼッションとシュート数もリーグ1位、クリーンシートの数もリーグ1位って感じだったんだけど、主な特徴は以下のような感じで基本的なプレイモデルは今シーズンもあまり変わってない印象かな。
基本フォーメーションは、直近の試合ではボール保持時が4-3-3、非保持は4-4-2だったり4-1-4-1だったりする。
GKを含めて後方から丁寧にビルドアップして前進しようとする保持型で、ポジショナル・プレイをベースにしてる。
前線のタレントの質的優位を全面に押し出すような攻撃を志向してて、中盤の選手が保持の質を担保しながら、前線の選手が仕掛けやすい状況をいかに作り出すかがポイント。
アタッキング・サードでの攻撃に関してはそこまで再現性はないっていうか、わりと選手の即興性が尊重されてる印象。
非保持は基本的にハイプレス志向で、もちろん最終ラインの設定はかなり高め。
ビルドアップのキー・プレイヤーはCMFのケイティ・ゼレム(Katie Zelem)。イングランド代表でもバルセロナのキーラ・ウォルシュ(Keira Walsh)不在時にCMFに入る実力者で、CK・FKのキッカーも務める。
昨シーズンはCFWのアレッシア・ルッソが10点取ってたんだけど、WGのリア・ガルトン(Leah Galton)も10点、同じくWGのルシア・ガルシア(Lucía García)も8点取ってて、誰か1人の得点力に頼るチームじゃないんで、リア・ガルトンとルシア・ガルシアに加えて、新加入でCFW起用が多いジェイセ(Geyse)とWGのメルヴィン・マラード、インサイドMFのエラ・トゥーン(Ella Toone)と宮澤ひなたまで含めたアタッカー陣でどこからでも点が取れる攻撃を目指す感じになりそう。
昨シーズンの最少失点と最多クリーンシートの立役者はイングランド代表でもレギュラーGKを務めるメアリー・アープス(Mary Earps)。抜群のシュート・ストップと絶大な存在感が印象的で、控えめに見ても現状では世界屈指のGKの1人って言っていいはず。
基本的には保持も非保持もそこまで極端な特徴がある感じじゃなくて、ベーシックな部分がちゃんと整ってるオーソドックスな保持型って印象だけど、タレントも揃ってるし保持も非保持もアグレッシブだし、強度と速さを併せ持ったWSLの強豪らしいチームって言えるのかな。
名前のイメージとは違って実はかなり新しいチーム
マンチェスター・ユナイテッドっていうと、メンズ・チームのイメージで勝手にすごく伝統があるチームみたいに思っちゃいがちだけど、実は今の体制のチームができたのは2018年だったりして、WSLでは新興チームって位置付けになるらしい。
チャンピオンシップに新規参入した18/19シーズンにいきなり優勝して、WSLに昇格した19/20シーズンから3シーズン連続で4位、22/23シーズンはクラブ史上最高成績の2位フィニッシュを果たしたんで、基本的にここまでは右肩上がりで上位グループに割り込んできたチームって感じなのかな。なので、上でも触れた通り、UWCLは今シーズンが初挑戦だったってことになるんだけど。
大きな注目を集めるマンチェスター・ダービー
UWCLの予選ラウンドもあった開幕直後はちょっと苦労してた感じもあったマンチェスター・ユナイテッドだけど、6節終了時点で3勝3分0敗、まだ負けなしで3位まで順位を上げてきてる。なかなか点が取れてなかったジェイゼにも前節のウェスト・ハム・ユナイテッド戦で待望の初ゴールが生まれたことも含めて、調子はかなり上向きになってきてるって言っていい気がしてる。
で、次節は同じ街のライバルのマンチェスター・シティとのホームでのダービー、しかもオールド・トラフォードでの初のダービーで、すでに40000枚を超える前売りチケットが売れてるんだとか。WSLは代表ウィークでプレミアリーグの試合がないタイミングでメンズ・チームのスタジアムを使ったビッグ・マッチを意図的に組んでる感じがあるんだけど、この試合はまさにそんな感じ。上位チームの直接対決で、もちろんダービーで、マンチェスター・シティは前節のブライトン&ホーヴ・アルビオン戦を落としてたりもするし、もちろん保持型同士の保持対プレッシングの激しい主導権の握り合いになるだろうし、ちょっとチェルシーが逃げつつある今シーズンの今後に大きな影響を及ぼすであろう注目の大一番になることは間違いなさそう。メンズ・チームのSNSアカウントでも告知されてたり監督からメッセージが届いたりもしてたり、プロモーションにも力が入ってる感じだし。
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