タイトル争いを演じたチームの今シーズンを振り返る (WSL 23/24シーズン総括2) :: WSL Watch #075
"WSL Watch 073"に続いてWSLの23/24シーズン総括の第2弾として、主に優勝争いを繰り広げたチームの振り返りを。大枠の流れとしては、アーセナルがまず脱落して、チェルシーとマンチェスター・シティの一騎打ちになったシーズンだったって言っていいと思うけど。
激しい浮き沈みの中で底力を見せたチェルシー
見事に5連覇を達成したチェルシーだけど、決して楽なシーズンじゃなかった、何ならけっこう浮き沈みの振れ幅は大きいシーズンだったんじゃないかな、実は。
4冠を目指したシーズン
大前提として、今シーズンのチェルシーリーグ戦の5連覇に加えて、FAカップの4連覇、コンチ・カップの優勝、さらに悲願のUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグ(UWCL)優勝の4冠を目指してたシーズンだった、言い換えれば、かなり大きな野望を持って臨んだシーズンだったって言っていいはず。もちろん、リーグ優勝とUWCL優勝のどっちがプライオリティだったのかはわかんないけど、国内のカップ戦よりは優先度は高かったと思うんで、結果的に達成できたのはリーグ5連覇だけだったって結果が満足度としてどのくらいだったのか、なかなか難しいところかな、と。もちろん、結果的に5連覇を達成したんだから十分に面目は保ったって言えると思うけど。
シーズン序盤は順調な闘いぶりを披露
改めて振り返ってみると、シーズンの序盤はすごく順調な立ち上がりだったって言っていいんじゃないかな。"WSL Watch :: magazine"では主に代表ウィークのタイミングで'TW = Table Watch'ってカタチで順位をチェックしてきたけど、"WSL Watch #026"でまとめたウィンター・ブレイクまでの10節まではアウェイでアーセナルに負けたのとマンチェスター・シティに引き分けた以外は勝点を取りこぼさずに、しかも、UWCLのグループ・リーグも順調に闘えてたんで。
ヘイズ監督が今シーズン限りでの退任を発表
今シーズンのチェルシーに関する大きなニュースとしてまず挙げなきゃいけないのは、やっぱりエマ・ヘイズ(Emma Carol Hayes OBE)監督がシーズン終了後にチームを離れることが発表されたってこと。シーズンが開幕してまだそれほど経ってない11月に発表されたってタイミングも含めて。"WSL Watch 009"でも書いた通り、現地メディアで'帝国'なんて言われ方すらしてるけど、近年のチェルシーの隆盛の最大の立役者であることは間違いないわけで、名将に優秀の美を飾らせるべく団結力が強まるのか、逆に圧倒的な求心力が失われてレイム・ダック的な状態になるのか、今シーズンのチェルシーにどういう影響を与えたのか、ちょっと評価が難しいところだったんじゃないかな、正直なところ。
カーの負傷とラミレスの獲得
エマ・ヘイズ監督の退任発表がチームに与えた影響がプラスだったのかマイナスだったのかはわかんないけど、ウィンター・ブレイクまでは至って順調にきてたチェルシーに大きな激震が走ったのはウィンター・ブレイク期間のキャンプのタイミング。絶対的なエース・ストライカーのサム・カー(Sam Kerr)がいわゆるACL、前十字靭帯の負傷でシーズン絶望になっちゃったって、さらに若手のミア・フィシェル(Mia Fishel)も近い時期に同じくACLの負傷で離脱して、いきなり窮地? って状況に。それでも、幸か不幸か移籍ウィンドウが開いてる時期だったから、すかさずスペインのレバンテからコロンビア代表FWのマイラ・ラミレス(Mayra Ramírez)をウィメンズ・フットボール史上最高額で獲得したり、ACLの負傷で長期離脱してたカタリナ・マカリオ(Catarina Macario)が復帰したり、キチンと体制が整っちゃうのはさすがチェルシーって感じだったけど。
3月末から4月迎えた苦難の時期
リーグ戦の優勝争いに関して言うと、"WSL Watch #040"でレビューした2月のホームでのマンチェスター・シティとの直接対決を落としちゃったことでちょっと難しくしちゃったっていうか、勝ってればマンチェスター・シティを引き離せてたのにまだマッチ・レースが続く感じにはなっちゃったんだけど、UWCLもグループ・リーグを首位で勝ち抜けたし、国内のカップ戦も勝ち上がってたし、3月末まではほぼほぼ順調だったんじゃないかな。そんなチェルシーに急に暗雲が立ちこめてきたのが3月末で、"WSL Watch #058"でも触れたけど3月31日にコンチ・カップ決勝でアーセナルに延長戦の末に負けちゃって、"WSL Watch #062"でも触れた通り代表ウィークを挟んで4月14日にFAカップの準決勝でマンチェスター・ユナイテッドに負けちゃって、さらに4月末にUWCLの準決勝でバルセロナにも敗退して3つのタイトルの可能性が約1ヶ月の間に消滅、しかも、5月頭の延期分のリヴァプール戦でも負けちゃって、リーグ戦の優勝争いもちょっと難しい状況になっちゃって。この辺りに関しては"WSL Watch #065"でまとめたけど、「このままだとチェルシーの無冠もありえるんじゃね?」って思っちゃうような状況だったんじゃないかな、ぶっちゃけ。
王者の底力を見せつけたラスト3戦
厳しい状況をラスト3試合でひっくり返した流れは"WSL Watch #067"と"WSL Watch #073"でまとめた通りなんだけど、特に圧巻だったのはブリストル・シティ戦とマンチェスター・ユナイテッド戦で見せた強さ、言ってみれば獰猛な強さっていうか、恐怖すら感じさせるような容赦のない強さだったかな。ブリストル・シティ戦はマンチェスター・シティがアーセナルに負けた数時間後に行われた試合で、8-0で圧勝して勝点で並んだだけじゃなく得失点差まで1試合で逆転しちゃったし、マンチェスター・ユナイテッド戦は開始10分くらいで2点リードしてマンチェスター・シティに残されてた微かな希望をあっけなく粉砕しちゃったし。もちろん、その2試合の間にあったトッテナム・ホットスパー戦の1-0での勝利もものすごく貴重で、決勝点を決めた浜野まいかの活躍もかなり大きな意味を持ってたと思うけど。ともあれ、苦難の時期の後に見せたリバウンド・メンタリティは見事だったとしか言えないし、目標が絞られて開き直ったときの王者の底力は凄まじかったって印象になるのかな、やっぱり。
あと、時期はちょっと違うけど個別の試合で印象に残ってるのは3月にあった16節のアーセナルとのロンドン・ダービーだったかな。"WSL Watch #058"の中でもちょっと触れたけど、やっぱり勝負どころでの強さみたいなモノは感じちゃったっていうか。ソックスが話題になった試合でもあるんだけど。
改めて強く印象に残ったのは選手層の厚さと経験値の高さ
シーズン開幕直後に"WSL Watch #001"で「個人的にWSLをちょいちょい観るようになったのは21/22シーズンで、22/23シーズンはそれなり以上の試合数、たぶん全体の半分以上は観るようになったって感じなんで、浅いっちゃあ全然浅いんだけど」って書いた通りなんで、チェルシーの試合をシーズンを通してちゃんと観たのは実は初めてだったんだけど、他のチームと比べながら観てて感じたのはやっぱり圧倒的な選手層の厚さだったかな。「FIFAウィメンズ・ワールドカップの決勝トーナメントに勝ち上がった国の主力選手が普通に交代でベンチから出てきたりするレベル」って書いた通りなんだけど、改めてシーズンを通して観ると、その差の大きさは絶大っていうか、ちょっと抜けてる感じがあった。年齢バランスも絶妙だし。"WSL Watch #045"で取り上げたローレン・ジェイムズ(Lauren James)が13点取ってチーム内得点王になったんだけど、他にもメラニー・ロイポルツ(Melanie Leupolz)と"WSL Watch #048"で取り上げたエリン・カスバート(Erin Cuthbert)のCMFコンビもシーズンを通して抜群だったし、シェーケ・ニュスケン(Sjoeke Nüsken)のユーティリティ性の高さも際立ってたし、リーグ戦全試合出場を果たした左SBのニアム・チャールズ(Niamh Charles)の安定感も光ってたし、グーロ・ライテン(Guro Reiten)とかヨハンナ・リッティン・カネリード(Johanna Rytting Kaneryd)みたいな実力者もいるし、"WSL Watch #072"で取り上げたアギー・ビーヴァー・ジョーンズ(Aggie Beever-Jones)とかイングランド代表GKにも選ばれたハンナ・ハンプトン(Hannah Hampton)みたいな若手もどんどん出てきてるし。もちろん、浜野まいかも含めてだけど。やっぱり、選手層の厚さって意味でもチームとして積み重ねてきた経験値って意味でも、観れば観るほど恐ろしいチームだって印象が強かったかな。
監督交代で新たな時代へ
チェルシーの黄金時代を作ったエマ・ヘイズ監督はもうアメリカ代表監督としての仕事を始めてて、とりあえず、チェルシーは変革期っていうか、新たな時代になることは間違いない。12年で16個のトロフィーを獲得した監督が辞めるんだから、影響が小さいわけがないと思うんで。もちろん、すぐに弱体化するってことじゃないっていうか、普通に強いと思うけど。
ちなみに、次の監督は現リヨン監督のソニア・ボンパストル(Sonia Bompastor)なんて言われてるけど。ただ、リヨンは週末にUWCL決勝があったから正式な発表はまだだけど。
充実した内容だっただけに結果を得たかったマンチェスター・シティ
マンチェスター・シティに関しては、"WSL Watch #008"でも書いた通りWSLを継続的に観るようになったキッカケのチームだから個人的にはそれなりに思い入れもあるし、基本的には魅かれてる理由通りの面白いサッカーを見せてくれたって意味ではすごく満足だったけど、だからこそ、僅差でリーグ優勝に手が届かなかったのはやっぱりものすごく残念だったかな、正直なところ。ただ、他のチームの試合もちゃんと観たことで、マンチェスター・シティの特徴とか魅力を改めて確認できたところがありつつも、同時に足りないモノもちょっと感じたりしたけど。
ジル・ロードとジェス・パークの活躍が光ったシーズン
マンチェスター・シティは昨シーズンにベースはかなり固まってたチームで、基本的には夏にオランダ代表MFのジル・ロード(Jill Roord)を加えただけって印象だったけど、ジル・ロードが右インサイドMFとして開幕からリーグ戦11試合に出場して6ゴール+2アシストって活躍を見せて、即戦力として期待通りのプレイを披露してくれてたかな。ただ、ジル・ロードが年明けにいわゆるACL、前十字靭帯の負傷でシーズン絶望になっちゃってかなり難しいシーズン後半になると思ったけど、その穴をジェス・パーク(Jess Park)が埋めてくれた感じで。"WSL Watch #053"でも書いたけど、ジェス・パークは昨シーズンはローンでエヴァートンでプレイ経験を積んできた22歳の選手で、マンチェスター・シティで本格的に戦力になったのは今シーズンからって言っていいと思うけど、ジル・ロードがいたシーズン前半はWGのバックアップって使われ方が多くて、改めて確認してみたら最終的にはリーグ戦18に出場して4ゴール+5アシストって数字を残したんだけど、実は初スタメンは(ジル・ロードの負傷後の)2月17日の14節のチェルシー戦だったりして。その後、シーズン終了まで欠かせない選手として活動したんで、ざっくり言っちゃうと、昨シーズンのベースに上積みされた部分は、シーズン前半はジル・ロード、シーズン後半はジェス・パークで、その上積み部分は明らかにチームのプレイの内容にも結果にもプラスになったって言っていいんじゃないかな。
キアラ・キーティングが絶対的なGKに
今シーズンのマンチェスター・シティを振り返るときに、忘れちゃいけないのがキアラ・キーティング(Khiara Keating)の活躍。まだ19歳のGKで、昨シーズンまでは2シーズンで6試合しか出てなかったのに今シーズンは全22試合フルタイム出場、チームはリーグ最少失点だし、クリーンシートの数も9回はリーグ最多で史上最年少でゴールデン・グローブも獲得したし、文句のないシーズン、まさに飛躍のシーズンだったな、と。時間があれば'P2W = person to watch(注目したい人)'シリーズで取り上げたいなって思ってたんだけど、身長は167cmだからそこまで高身長ってわけじゃないのにシュート・ストップ能力は抜群で、特に至近距離の反応の速さが光るかな。もちろん、マンチェスター・シティのGKだからビルドアップ能力も求められるけどものすごく上達してて、特にプレスしてくる相手選手の頭を越すボールでSBに通すのがすごく上手。もちろん、マンチェスター・シティみたいなプレイモデルでプレイしてればミスもないわけじゃないし、そこから決定的なピンチを招くシーンも何度かはあったし、何なら11月5日の5節のアウェイでのアーセナル戦での決勝点なんかは痛恨のミスだったって言えると思うけど、実はその試合ではPKを防いでたりもするし、シーズン全体を通して見ればチームに及ぼした収支は圧倒的にプラスが大きくて、まさにブレイクしたシーズンだったって言えるはず。
際立った安定感と足りなかった爆発力
代表ウィークのタイミングで状況を整理した'TW = Table Watch'でも常にトップ3にはいたし、基本的に今シーズンのマンチェスター・シティはシーズンを通じて安定した闘いを見せてた、何なら一番安定して質が高いパフォーマンスを見せてたチームって言っていいと思うけど、それでもリーグ優勝には届かなかったわけで、その要因をあえて挙げるなら、良くも悪くも安定してた、安定しすぎてた、何ていうか、理屈じゃない爆発力みたいなモノが足りなかったのかも? なんて思ったりもする。完全に推論だけど。勝点を取れなかった試合に関してはシーズン総括第1弾の"WSL Watch #073"で触れたから繰り返さないけど、シーズン全体の流れを改めて振り返ってみると、ちょっと厳しかった時期は2回あって、1回目は11月のアーセナル戦とブライトン&ホーヴ・アルビオン戦の連敗、2回目は3月にコンチ・カップとFAカップで敗退しちゃった時期だったんだけど、リーグ戦に限って考えれば11月の連敗だけで、それ以外で2試合連続で勝てなかったことはなかったし、"WSL Watch #015"でもレビューしたけど11月の連敗後のマンチェスター・ダービーでの快勝の後には21節のアーセナル戦で負けるまでリーグ戦14連勝を記録してたりする。ただ、勝点を取れなかった4試合を細かく見てみると、実は試合終了間際に失点をしてるケースが多くて。具体的には、引き分けた2節のチェルシー戦は96分、負けた5節のアーセナル戦は87分、負けた6節のブライトン&ホーヴ・アルビオンは81分、逆転負けした21節のアーセナル戦に至っては89分と92分に失点してるんで。もちろん、試合内容はそれぞれ違ってて、例えば引き分けた2節のチェルシー戦はかなり不可解な判定で退場者を2人出した試合だったんであまり参考にならない感じだし、よく引き分けたって言っていい試合だったと思うけど。6節のブライトン&ホーヴ・アルビオン戦に関しては、保持率が66%:34%、シュート数が35:6(枠内は13:3)ってスタッツからもわかる通り、典型的な「攻めまくってたけどなかなか点が取れずに、時間が進むごとに焦りのせいもあってどんどん前がかりになっちゃって、ひっくり返されてカウンターでワンチャン決められちゃった」ってパターン、まさにマンチェスター・シティみたいなプレイモデルのチームにありがちな負け方で。5節のアーセナル戦の負けは前述したGKのキアラ・キーティングの痛恨のミスが決勝点になっちゃった試合で、"WSL Watch #067"でも触れた21節のアーセナル戦は途中出場のスティナ・ブラクステニウス(Stina Blackstenius)の2ゴールで逆転された試合で。実は、マンチェスター・シティがちょっと有利だったタイミングで状況をまとめた"WSL Watch #058"で、「ちょっと極端な言い方だけど、アーセナルに1度も勝てないようなシーズンは、そもそも優勝する資格がないくらいに考えたほうがいい気がする」なんて書いちゃってて、残念ながらその通りの結果になっちゃったんだけど。ともあれ、勝点が取れなかった試合のタイプはそれぞれ違うんだけど、試合の最終盤でもっとしぶとく闘う強さみたいなモノがちょっと足りなかった感じはあったのかな、と。もちろん、マンチェスター・シティは明確なプレイモデルを持ったチームで、それを突き詰めてきたからこそ今のクオリティを維持できてるわけで、「最後はとにかく守りを固めろ」とか「最後はパワープレイをやれ」的なことが解決策じゃないと思うけど。むしろ、奪えるときに容赦なく追加点を奪う無慈悲な感じとか、交代選手の数と質も含めた戦力の差で殴り勝てる選手層とかな気もするし。現状でも、ケガ人とかがいない状態で試合をすればチェルシーとアーセナルにも劣ってないと思うし、チームとしてのプレイの質では互角に闘えるとは思うけど、やっぱりトータルの選手層ではチェルシーとアーセナルよりはちょっと落ちるし、試合終盤に交代選手でピッチ内のパワーを大幅に上げられないってことと勝点を取れなかった試合の終了間際の失点とは無関係じゃない気がして。ただ、質が高いモノが確実に、それこそ昨シーズン以上に積み上がってることは確かだと思うし、だからこそ、得失点差で優勝を逃すところまではこれたんだろうし、来シーズンの積み上げもやっぱり普通に楽しみなんだけど。
マンチェスター・ダービーでシーズン・ダブルを達成
個別の試合で印象深かったのは、やっぱりシーズン・ダブルを達成したマンチェスター・ダービーってことになるのかな。1回目の対戦に関しては"WSL Watch #015"でマッチ・レビューも書いたし、細かいことはここでは詳しくは振り返らないけど、どっちも3-1で快勝したし、内容的にも充実してたし、オールド・トラフォードでの試合は43,615人、エティハド・スタジアムでの試合は40,086人っていう入場者数を記録したことも含めて、今シーズンのマンチェスター・シティを象徴する試合だったって言えるんじゃないかな、と。
実はなぜか被ゴラッソが多かった?
あと、試合の内容とか結果との因果関係とかはよくわかんないし、わりとどうでもいい小ネタって言えば小ネタなんだけど、今シーズンのマンチェスター・シティに関してぼんやりと感じてたことに、「なんか、シティってやたらゴラッソを決められてない?」ってのがあって。試合を見ててもそう思ってたし、月間表彰のベスト・ゴールのノミネートを見ても多い気がしてたし。もちろん、そもそもゴラッソの定義なんて個人差があって当然だから印象論以外の何モノでもないんだけど。で、気になったから10月〜4月までの月間表彰のベスト・ゴールにノミネートされたシュートを決められた回数をチームごとに調べてみたらマンチェスター・シティはノミネート全53ゴールの内の5ゴールでリヴァプールとレスター・シティと並んで3位で、2位が8ゴールのウェスト・ハム・ユナイテッド、1位が10ゴールのブリストル・シティだった。マンチェスター・シティとリヴァプール以外は順位が下位で、そもそも失点が多いチームだから当然って言えば当然だと思うけど。具体的には、ブリストル・シティは全70失点だから14.2%、ウェスト・ハム・ユナイテッドとレスター・シティはどっちも全45失点だからそれぞれ17.7%と11.1%だけど、マンチェスター・シティは15失点しかしてないから33.3%だった(ちなみに、リヴァプールは全28失点だから17.8%、最少のチェルシーに至っては1ゴールだけで全18失点だから5.5%)りして、やっぱり失点に占めるゴラッソの比率が高いって意味では「シティってやたらゴラッソを決められてる」って印象もそれほど間違いじゃなかったらしい。もちろん、この数字だけで何かの結論を導き出すことは難しいっていうか、単にアンラッキーだっただけかもしれないし、防ぎようがないゴラッソじゃないとなかなか失点しない(くらい守備が良かった)って言えなくもないし、そもそもゴラッソの定義もノミネートの基準も曖昧なんだけど、ぼんやりとした印象とそれほどズレてなかったって意味も含めて、ちょっと興味深い傾向だな...とか思ったり。メンズ・フットボールでは常識になってるゴール期待値(xG)みたいなスタッツを見れれば詳しい傾向がわかったりするんだろうけど、残念ながら今のところWSLのスタッツではゴール期待値までは手に入らないっぽいんで。
長谷川唯とローレン・ヘンプが契約を延長
今シーズンのマンチェスター・シティ関連のニュースを振り返るなら、触れとかなきゃいけないのはやっぱり長谷川唯とローレン・ヘンプ(Lauren Hemp)の契約延長かな。来シーズン以降のチームを考えても、いなくなるとチームそのものの土台が揺らぐっていうか、文字通り欠かせない存在だと思うんで。長谷川唯が契約延長を発表したのはウィンター・ブレイク明けの1月で、新たな契約期間は2027年まで。21/22シーズンに2年契約でウェスト・ハム・ユナイテッドに加入したはずだから、契約を1年残した状態で移籍金を払ってマンチェスター・シティが22/23シーズンに3年契約で獲得して、加入して約1年半のタイミングで新たに2年追加したカタチで、順調にいけば30歳になる26/27シーズンまでプレイすることになるのかな。4-3-3のCMFだからゴールとかアシストに目立った数字が残ってるわけじゃないけど、昨シーズンはリーグ戦20試合出場、今シーズンは全22試合トータル1947分出場してるんで、ほぼほぼフルタイムに近い出場時間って感じ。全部を確認したわけじゃないけど、フルタイム出場したGKのキアラ・キーティングに次ぐ数字、つまりフィールド・プレイヤーでは最長なんじゃないかな。ケガなくいつも出てた印象の選手、例えばローレン・ヘンプでも1750分、アレックス・グリーンウッド(Alex Greenwood)でも1748分なんで。
で、ローレン・ヘンプの契約延長が発表されたのが4月で、契約期間は同じく2027年までなんだけど、実は延長前の契約は今シーズン終了までで、"WSL Watch #046"でもちょっと触れたけどバルセロナが獲得に動く? みたいな噂もあった中での契約延長だったんで、中心選手の流出を阻止できたって意味でもマンチェスター・シティにとってものすごく大きかったはず。今シーズンももちろん大活躍で、リーグ戦21試合出場で11ゴール+8アシストって数字を残してる。あんまり若手って印象はないくらいの存在感なんだけど実はまだ23歳だったりするし、長谷川唯と共に今後もマンチェスター・シティを支える選手であることは間違いないかな。
ローレン・ヘンプの契約延長っていえば、本人がレゴが好きってことをネタにして、映画『レゴ・ムービー』を使ったこんな動画も作られてた。たぶん、ナレーションも本人がやってる。
今後のマンチェスター・シティについてさらに言っちゃうと、アーセナルを退団することになったフィフィアネ・ミデマー(Vivianne Miedema)とかウェスト・ハム・ユナイテッドとの契約が切れるらしい清水梨沙の獲得の噂もあったりするし、"WSL Watch #057"でも触れた通り約10年間プレイしてきた元イングランド代表DFでキャプテンのステフ・ホートン(Steph Houghton MBE)が引退したことも含めて、オフの動向も目が離せない感じだったりするかな。
序盤の躓きが響いたけど存在感は絶大だったアーセナル
アーセナルに関しては、シーズン総括第1弾の"WSL Watch #073"でもちょっと触れた通り、コンチ・カップは優勝したけどシーズン全体の結果としても内容の部分でも決して満足ができるシーズンじゃなかったと思うけど、でも、シーズンを全体を改めて振り返ってみると、やっぱりWSLっていうリーグをいろんな意味でリードしてるチームだなって思わされるシーンは多くて、やっぱりクラブとしての存在感は絶大だったかな。
開幕前から難しいシーズンに
"WSL Watch #073"でも、「リーグ戦開幕前にUWCLの予選ラウンドで負けちゃって、開幕からの2戦でリヴァプールに負けてマンチェスター・ユナイテッドと引き分けて、完全にスタート・ダッシュに失敗したっていうか、躓いちゃったのが痛かった」って書いたけど、そもそも今シーズンのアーセナルにはシーズン序盤が難しくなりえる要素があって。それは、それぞれケガで長期離脱してた絶対的な主力選手の3人、リア・ウィリアムソン(Leah Williamson)とベス・ミード(Beth Mead)とフィフィアネ・ミデマーの復帰が開幕には間に合わないってわかってたってこと。"WSL Watch #025"でケガからの復帰までのプロセスを負ったドキュメンタリーを紹介したベス・ミードとフィフィアネ・ミデマーはそれぞれウィンター・ブレイク前に、リア・ウィリアムソンは年が明けてから復帰はできたけど、やっぱりすぐに本調子になるとは限らないし、なかなか難しかったのかな。選手層自体はすごく厚いから、それでも上手く乗り切れそうな感じもしたんだけど。あとは、リヴァプールとトッテナム・ホットスパーとウェスト・ハム・ユナイテッドに負けててエヴァートンと引き分けたっていう取りこぼしの多さももちろん痛かったし、優勝争いに残るためには勝ちが必要だった16節のアウェイでのチェルシーとのロンドン・ダービーを落としたことも含めて、勝点を取れなかった試合のタイミングもすごく悪かったかな。3人の主力の復帰とか1月の補強とかはあったけど、やっぱりイマイチ上手く波に乗れなかった感じっていうか。
マンチェスター・シティ相手にシーズン・ダブル達成
試合内容って意味では、印象に残ったのはやっぱりマンチェスター・シティ相手のシーズン・ダブルってことになるのかな。奇しくも、どっちの試合も交代出場のスティナ・ブラクステニウスが試合の終盤に決勝点を決めてたりして。相手がマンチェスター・シティだったからなおさら強く感じるのかもしれないんだけど、やっぱり試合終盤に出せるパワーの強さみたいなモノはさすがだったんで。
あとは、シーズン半ばの大一番、ホームでチェルシーに勝ったロンドン・ダービーかな。"WSL Watch #020"でマッチ・レビューを書いたけど、チェルシーが勝ってたら独走しちゃいそうだったところを止めてリーグを面白くしたって意味もあったし、試合内容的にもかなり充実してたし、その時点の入場者数の歴代最多記録を更新する59,042人って数字もインパクトが強かったし。
入場者数では異次元のレベルに
上に「やっぱりWSLっていうリーグをいろんな意味でリードしてるチームだなって思わされるシーンは多くて」って書いたけど、その例としてまず挙げられるのが圧倒的な人気、つまりホーム・ゲームの入場者数がちょっと抜けてるっていうか、文字通り桁違いだったって点がある。リーグ全体の入場者数の話は改めて別の記事で触れようと思ってるけど、今シーズンのアーセナルのホーム・ゲーム11試合の平均入場者数は29,998人、その内の6試合が35,000人越え、4試合が50,000人超え、14節のマンチェスター・ユナイテッド戦では60,160人の史上最多記録まで更新してて。ちなみに、平均で30,000人弱って数字はもちろんリーグ1位で、平均で10,000人を超えたのはマンチェスター・ユナイテッドの10,956人だけなんで、ちょっと驚異的な数字って言っていいはず。
実は残りの5試合は4,000人以下だったりして、その5試合は全部キャパシティが4,500人(座席数は1,700)のメドウ・パークで行われてて、35,000人を超えた6試合は普段はメンズ・チームが使ってるエミレーツ・スタジアムだったって事情があったりするんだけど。こういう数字を見ると、他所者の無責任かつ素朴な意見として「エミレーツもいいけど、メドウ・パークの代わりにキャパシティ30,000〜40,000人くらいの専用スタジアムがあればいいのに」なんて思っちゃったりするけど。もちろん、現地の事情はよくわかんないし、そんなに簡単な話じゃないんだろうけど。ちなみに、アーセナルは24/25シーズンのホーム・ゲームの最低11試合をエミレーツ・スタジアムで行うことを発表してたりする。具体的には、リーグ戦の8試合とUWCLのグループ・ステージの3試合で、UWCLの決勝トーナメントに勝ち進めばその分もエミレーツ・スタジアムでやるらしくて、実質的にエミレーツ・スタジアムがメインのホーム・スタジアムって扱いになるとのこと。「メンズ・チームとのスケジュールのやりくりが大変そう」とか「芝のコンディションとか大丈夫?」とか思っちゃったりもするし、適切なサイズの専用スタジアムってアイデアは将来的な話としては考えるんだろうけど、とりあえず来シーズンって意味では、これはこれですごいチャレンジであり大きな前進だと思うし、やっぱりリーグの中でもちょっと抜けてる存在って感じはするかな。
ステラ・マッカートニーとのコラボによるアウェイ・キット
あと、今シーズンのアーセナルのニュースとして、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)とのコラボレーションによる2ndユニフォームもけっこう話題になったかな。ウィメンズ・チームだけでこういうコラボレーションは初めてだったんだとか。もちろん、デザイン自体も良かったからこそ大きな話題になったんだと思うけど。こういう部分で話題になるのも、やっぱりアーセナルがWSLの中で際立った存在であることの現れなんだと思うし。
オーストラリアで親善試合を開催
もうひとつ、アーセナルはオーストラリアで親善試合をやったってニュースもあったりして。しかも、シーズン最終節があった5月18日から中5日の5月24日にメルボルンでってスケジュールで。対戦相手はクラブ・チームじゃなくAリーグ・オールスターズだったりするんで、真剣勝負度は低いっていうか、文字通り親善試合、基本的には興行でありプロモーションが目的で、最近はメンズ・フットボールでも増えてるけど、新シーズンへの準備の一環としてプレ・シーズンにやるんじゃなくて、チームがオフに入る前にやっちゃうタイプって感じだったんだけど。もちろん、アーセナルはスター選手がたくさんいる人気チームだってことに加えて、ケイトリン・フォード(Caitlin Foord)とステフ・キャトリー(Steph Catley)とカイラ・クーニー・クロス(Kyra Cooney-Cross)っていう3人のオーストラリア代表選手がいるからこそ実現したんだろうし、もちろん3人ともスタメン出場したんだけど、会場のマーヴェル・スタジアムには42,120人のファンが集まったらしくて。FIFAウィメンズ・ワールドカップ開催以降のホームでの代表戦が連続でソールド・アウトしてるらしいオーストラリアでのウィメンズ・フットボールの盛り上がりの影響もあるんだろうけど、やっぱりアーセナルってクラブ自体の人気もすごいな...って改めて思っちゃったかな。あと、例えばアーセナルでもチェルシーでもいいし、日本代表選手が3人いるウェスト・ハム・ユナイテッドでもいいし、UWCLチャンピオンのバルセロナでもいいけど、日本で親善試合をやって40,000人のファンが集まることがイメージできるか? って考えるとなかなか難しいよな...とも思ったり。
実は今月末から代表ウィークで、ヨーロッパではUEFAウィメンズ・ユーロの予選があったり、オリンピックに出場する国は大事なテスト・マッチがあったりするから、こんなスケジュールでわざわざオーストラリアに親善試合のために行くことの賛否は当然あったみたいだけど。そうでなくても、男女問わずクラブと代表の過密日程は、ケガの増加との因果関係も含めてサッカー界の大きな問題になってるし。
フィフィアネ・ミデマーの契約満了の衝撃
決して納得がいくシーズンじゃなかったけど、コンチ・カップは優勝したし、入場者数の部分とかいろいろな面で絶大な存在感を放ったアーセナルだったけど、シーズン終了直前にビックリするようなニュースが。それは、フィフィアネ・ミデマーが今シーズン限りでアーセナルを離れるってこと。しかも、いろんな報道によると、アーセナル側が契約延長のオファーをしなかった、つまり、今の契約が切れるタイミングでフリーになるって状況らしくて。"WSL Watch #071"でも書いた通り、WSLの歴代最多得点記録を持ってるスター選手で、まだ27歳だから、大きなケガから復帰したタイミングだったことも含めて、ものすごく大きな驚きだったっていうか、現地のメディアなんかもショッキングなニュースって感じで報じてて。もちろん、個人的にもすごくビックリしたし。今の段階では詳しい理由はわかってないんだけど、これだけのビッグ・プレイヤーを手離すってことは、アーセナルには何か明確な意図があるんだろうとは思うけど、ともあれ、アーセナルも大きな変革の時期を迎えてるのかも? とかちょっと思ったりもしちゃったかな。
上でもチラッと触れたけど、『スカイ・スポーツ』とかいくつかの報道によるとマンチェスター・シティが獲得に動いてるらしくて、本当に決まればWSLだけじゃなくウィメンズ・フットボールって枠組みで見ても大きなニュースになること間違いなしのビッグ・ディールになりそう。