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最終ラインから左足で試合を組み立てるアレックス・グリーンウッド :: P2W012 :: WSL Watch #055

アーカイブ的な意味合いもあるかも? って思って気まぐれに量産体制に入った'P2W = person to watch(注目したい人)'シリーズの第12弾はマンチェスター・シティのイングランド代表DFのアレックス・グリーンウッド(Alex Greenwood)を。もちろん前から評価が高い選手なんだけど、いろんなチームの試合をたくさん観れば観るほどその評価を上方修正したくなる選手なんで。

キックの精度と戦術眼を併せ持つ貴重な左利きの技巧派CB

プロフィール的な部分は後回しにして、とりあえず、アレックス・グリーンウッドのざっくりとした印象を言うなら、「精度の高い左足のキックと優れた戦術眼で最終ラインから保持をコントロールする技巧派CB」「世界的に見ても実はものすごくレアなレベルの左利きCB」って感じかな。現段階で今シーズンのパス成功数はリーグ1位らしいし。

マンチェスター・シティについて書いた"WSL Watch #008"でも触れた通り、明確なプレイモデルを持つマンチェスター・シティの中で、特にビルドアップと保持の安定の部分で重要な役割を担ってるのが左CBのアレックス・グリーンウッドとCMFの長谷川唯だと思うんだけど、長谷川唯は相手選手にかなり厳しく見張られることが多いこともあって、必然的にアレックス・グリーンウッドが最重要人物になってる。基本的な特徴としては、まず左足のキックが正確で長短のパスの精度が高いっていうのがあるんだけど、同じくらい重要な能力として戦術眼が優れてるって点も見逃せないかな。チームメイトの位置はもちろんだけど、対戦相手のどのポジションの選手がどういう方向からプレスしてきてて、どれくらい引きつけるとどこのスペースが空くかみたいな部分を常に気にしながらプレイできてるっていうか。もちろん、試合展開とか流れを読む力とかも含めてなんだけど。具体的には、左WGに流し込むような鋭いパスはもちろん、インサイドMFとかCFWに挿し込むパスも上手いし、右WGへの対角の長いパスも蹴れて、前が空いてればドライブして相手選手を引きつけることもできて、さらにCKとFKのキッカーも務める万能ぶりっていうか、保持時のプレイに関してCBに求められることは一通りかなり高い水準でこなせるって印象かな。

で、アレックス・グリーンウッドの素晴らしさについて言及するなら、まずは左利きのキックが上手いCBの重要性と希少性について触れる必要があると思ってて。保持型のチームが左利きのCBを獲得したがるようになって、それまで以上に大金を使ってでも獲得するようになったのはメンズ・フットボールの世界でもわりと最近で、例えば、ペップ・グアルディオラ(Pep Guardiola)率いるマンチェスター・シティのメンズ・チームがスペイン代表DFのアイメリク・ラポルテ(Aymeric Laporte)を獲得したのが2018年1月だったんだけど、当時は移籍金が高すぎるって批判もありながらも世間の期待以上の活躍を見せて、結果的に左利きCBの重要性に(それまでもそれなりに注目されてたけど)より大きな注目が集まるようになった感じだったと思うんで、時期的には5〜6年前頃だった気がする。もちろん、保持型のチームにおける左利きの左CBの重要性について詳しく説明したらものすごく長くなるからここではしないけど、マンチェスター・シティがその後に獲得したヨシュコ・グヴァルディオル(Joško Gvardiol)もそうだし、アーセナルのガブリエル・マガリャンイス(Gabriel Magalhães)もマンチェスター・ユナイテッドのリサンドロ・マルティネス(Lisandro Martinez)もトッテナム・ホットスパーのミッキー・ファン・デ・フェン(Micky van de Ven)もアストン・ヴィラのパウ・トーレス(Pau Torres)もそうだし、プレミアリーグ以外でもスペインのレアル・マドリーのダヴィド・アラバ(David Alaba)とかイタリアのインテルのアレッサンドロ・バストーニ(Alessandro Bastoni)もそうだし、最近の注目株だと同じくイタリアのボローニャのリッカルド・カラフィオーリ(Riccardo Calafiori)なんかもそうだと思うけど、近年のメンズ・フットボールの世界ではキックが上手くてビルドアップ能力が高い左利きのCBの需要が増えてて、必然的に市場価値がどんどん上がる傾向があって。もちろん、リヴァプールのフィルジル・ファン・ダイク(Virgil van Dijk)とかチェルシーのチアゴ・シウバ(Thiago Silva)みたいに右利きでも左CBを上手くこなす選手はいるし、左足が上手く使える右利きのCBだっているし、逆に左利きでも上手くなかったらあまり意味がないし、そもそもビルドアップにそこまで強いこだわりを持ってないチームだったら左利きであることよりも優先される能力があったりするんで、どんなチームでも必ず左利きのCBを求めてて獲得のために大金を使ってるってわけじゃないんだけど。ただ、それでも左利きのCBを(何なら総合的な守備能力には多少目をつぶっても)重要視するようなプレイモデルを採用するチームは増えてて、左利きのCBを上手くチームとして活かすことで成果を出してるチームが多いのは近年の傾向だってことは間違いないんじゃないかな。

ようやく、アレックス・グリーンウッドの話に戻るんだけど、"WSL Watch #008"でも触れた通り、マンチェスター・シティのウィメンズ・チームの試合を観て「やってるサッカーがかなりシティじゃん」って思って、それから徐々にWSLを観るようになったんで、マンチェスター・シティの試合を中心に観てた最初の頃は気付いてなかったんだけど、他のチームの試合を観れば観るほど、さらに言えばUEFAウィメンズ・チャンピオンズリーグとかで他国の強豪チームの試合を観たり、FIFAウィメンズ・ワールドカップ(FIFAWWC)でいろんな国の試合を観たりすればするほど、「グリーンウッドみたいなCBって全然いないじゃん」「グリーンウッドみたいな左利きのCBって、特にウィメンズ・フットボールの世界ではものすごくレアなんじゃね?」って思うようになって。それが、「いろんなチームのいろんな試合を観れば観るほどその評価を上方修正したくなる選手」って書いた理由なんだけど。話がちょっと逸れるけど、ウィメンズ・フットボール全体でも、左利きのCBと同じくらい左利きのSBも不足してるように感じるかな。右利きの選手が左SBをやってるチームがけっこう多いんで。メンズ・フットボールも並行して観てる感覚だと。理由まではよくわかんないけど。ともあれ、「ビルドアップにそれなり以上にこだわる保持型のチームの監督だったら、グリーンウッドを欲しがらない監督はいないんじゃね?」って思っちゃうくらいの能力を持った左利きのCBだって言えるはず。

一応、今でもたまにSBもやってるけど、CBでもSBでも基本的には左サイドが主戦場。ただ、スピードとか強さとか、アスリート能力とかフィジカルが突出してるってタイプではないかな。だから、守備者としての部分を見ると、そういう部分でちょっと苦労してる場面はあるかも。もちろん、それを補って余りある貢献を保持の場面で発揮してくれてるんで、収支としては大幅にプラスってことなんだけど。

長野風花が語るアレックス・グリーンウッド

あと、アレックス・グリーンウッドについてちょっと興味深い話として、リヴァプールの長野風花のコメントがあって。エースチャンネルっていうYouTubeのアカウントの動画で、WSLで衝撃を受けた選手として最初にグリーンウッドの名前を挙げてるんだけど、曰く、「守備をしてて常に逆を突くパスをしてくる」「こんな上手いCBいるのかよって思った」「対戦するときすごい嫌だったのを覚えてる」とか言ってて。コメントの内容自体には特に驚きはないけど、実際にピッチで対峙したからこそ感じたんであろう感想はリアリティがすごくあるし、「グリーンウッドってどう?」って質問に対して答えたんじゃなくて誰でもいいのに最初に名前が挙げたって意味でも面白いし、けっこう貴重な証言だな、と。

実はマンチェスター・シティのチームメイトである長谷川唯もFIFAWWC前にFIFAのサイトに載ったインタビューでアレックス・グリーンウッドについて「CBとして本当に上手くて、受けやすいボールをくれますし、もし自分がディフェンスをする立場だったら嫌だと思います」ってコメントしてて、長野風花と同じように「対戦相手にいたら嫌だ」って言ってるのもすごく興味深かったり。

ちなみに、4月の代表ウィーク前の最後のリーグ戦、3月30日の18節はリヴァプール対マンチェスター・シティで。長野風花がケガから戻って4位に浮上したリヴァプールと優勝争いのためには負けられないマンチェスター・シティの対戦だからもちろん注目なんだけど、この長野風花(と長谷川唯)のコメントも頭に入れながら観るとより楽しめるかも? なんて思ったり。今シーズンの1巡目の対戦はマンチェスター・シティが5-1で快勝したんだけど、実はこの試合はウィンター・ブレイク直後の時期で、個人的には「リヴァプールがウィンター・ブレイク中に取り組んでた保持の部分、特に低い位置からのビルドアップに果敢にチャレンジしたんだけど、マンチェスター・シティのハイプレスの餌食になっちゃった」って印象で。もちろん、単なる憶測なんで本当にそうだったのかはわかんないけど、リヴァプールはそれまでよりも保持にこだわってるように見えたし、マンチェスター・シティは保持よりも非保持で主導権を握ってた感じで。今回は違った展開になることを予想してるけど、どっちにしてもすごく楽しみ。

クラブでも代表でもチームを支える貴重な人材

プロフィール的な部分も押さえとくと、アレックス・グリーンウッドはリヴァプール出身のDFでマンチェスター・シティでは背番号5を付けてて、1993年9月生まれなんで30歳ってことになる。マンチェスター・シティでは2020年からプレイしてるんだけど、もともとは地元のエヴァートンで6歳からプレイしてて2010年にトップ・チームに昇格、その後もノッツ・カウンティとかリヴァプールとかチャンピオンシップ時代のマンチェスター・ユナイテッドにも在籍してたことがあって、マンチェスター・シティ加入直前にはフランスのリヨンでもプレイしてた経歴があったりして。メンズ・チームほど殺伐とした関係ではないんだろうけど、それでもリヴァプールの2チームとマンチェスターの2チームに在籍経験があるってスゴイな...ってちょっと思ったり。エヴァートン時代の2012年にFAヤング・プレイヤー・オブ・ジ・イヤー、リーグの年間ベスト11的な意味合いのWSLチーム・オブ・ジ・イヤーを15/16シーズンと21/22シーズンと22/23シーズンの3回受賞してる。

ユース年代からイングランド代表に呼ばれてて、フル代表デビューも2014年に飾ってる。2015年のFIFAWWCにも最年少のメンバーとして選ばれてて、主に左SBとして出場したらしい。2019年のFIFAWWCにも出場してるし、2022年のUEFAウィメンズ・ユーロの優勝と2023年のFIFAWWCの準優勝にも貢献してるし、通算代表キャップは90っていう素晴らしい実績を誇ってる。

とりあえず、マンチェスター・シティでもイングランド代表でも、いなくなると困るレベルの貴重な左利きDFって言って間違いないはず。


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