オリンピック予選も兼ねるUEFAウィメンズ・ネイションズ・リーグ :: WSL Watch #007
代表ウィークにヨーロッパではUEFAウィメンズ・ネイションズ・リーグ(UWNL)が開催されてて、当たり前だけどWSLでプレイしてる選手がヨーロッパ各国の代表チームにたくさん召集されてるからちょっと気になってはいる。でも、日本ではほとんど報道されてないっぽいんで、番外編的な記事としてざっくりとまとめとこうかな、と。実はオリンピック予選も兼ねたりしてるらしいんで。
UEFA主催の代表チームのリーグ戦
UEFAウィメンズ・ネイションズ・リーグ(UWNL)は奇数年の9月から翌年の3月にかけて開催されるUEFA主催の代表チームのリーグ戦で、初めての大会が今年9月の代表ウィークから開催されてる。
UEFAのランキングに基づいて上位から16チームがリーグA、17位以降の16チームがリーグBに、残りのチームがリーグCに分けられてリーグ戦をやるって形式、つまり、シンプルに強豪国がリーグA、中堅国がリーグB、それ以外の国がリーグCに分けられて、それぞれのリーグをグループ分けしてホーム&アウェイで総当たりのグループリーグをやって、順位に応じてリーグAとリーグB、リーグBとリーグCの間に入れ替え戦もあるから、基本的に力が拮抗したチーム同士の対戦が多くなるし、グループ内の上位も下位も緊張感がある試合がたくさんできるようになってる。で、リーグ戦終了後にリーグAの各グループの1位の4チームがトーナメント形式で準決勝と3位決定戦と決勝をやって順位を決めて、同時にリーグ間の入れ替え戦を行う、と。
リーグAとリーグBに関しては、基本的にはサッカーでよくあるような16チームを4グループに分けてホーム&アウェイで総当たりで闘うリーグ戦なんだけど(リーグCは16チームじゃないんでちょっとイレギュラー)、今年行われたFIFAウィメンズ・ワールドカップ(FIFAWWC)でもベスト16にヨーロッパから8ヶ国が進出したことからもわかるように強豪揃いなんで、具体的に強豪国揃いのリーグAを見てみると、今大会だとグループA1にFIFAWWC出場国のオランダとイングランドとベルギー、グループA4に至ってはスペインとスウェーデンとイタリアとスイスだから全チームがFIFAWWC出場国っていうなかなかスゴイことになってて。南北アメリカとかアフリカとかアジアみたいなスタイルが違うチームとの対戦こそないけど、かなりレベルが高いコンペティションだってことは間違いないかな。
蛇足だけど'ネイションズ・リーグ'ってコンペティションはバレーボールにもあるらしく、検索するときは'UEFA'とか'サッカー'とか付けたりしたほうがいいっぽい。
オリンピックへの狭き門を兼ねた大会
さらにUWNLの位置付けをわかりにくくしてるのが、来年開催されるオリンピックのヨーロッパ予選を兼ねてるってこと。オリンピックは参加国が開催国を含めて12ヶ国で、アジアの枠が2つしかないことが日本でも話題になってるけど、FIFAWWCの決勝トーナメントの50%を占めたヨーロッパからも2ヶ国しか出れないっていうなかなか厳しい、もっと言っちゃえば、かなりアンバランスなレギュレーションで、基本的にはUWNLの決勝に進出した2チームが自動的にオリンピックに出場するらしくて。つまり、リーグA以外の国には最初からオリンピック予選に出る権利すら与えられてないってことも含めて、日程の問題なのかオリンピックって大会自体の位置付けの問題なのかはわかんないけど、なかなか乱暴っていうか、ある意味ではメチャメチャ潔い感じになってる。
しかも、次のオリンピックに関してはさらにトリッキーな留意点が2つ、パリ大会特有の点とオリンピックならではの点があったりして。前者は次のオリンピックがパリ大会だからフランスは開催国としての出場が確定してるんで、仮にフランスがUWNLの決勝まで進出した場合は3位の国に出場権がスライドするってこと。通常のオリンピック予選なら開催国はそもそも予選自体に出ないんだけど、あくまでもUWNLって別のコンペティションなんで、フランスももちろん出てるからこういう自体になった、と。ただ、コレはまだ比較的シンプルかな。後者はもっとトリッキーなイギリスの問題。男女問わず基本的にFIFA管轄の試合の場合、イギリスを構成するイングランドとスコットランドとウェールズと北アイルランドはそれぞれ代表チームを編成することになってるからUWNLでももちろんそうなってるんだけど、FIFA管轄じゃないオリンピックの場合はイギリス代表、つまり正式名称でいうところのグレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国(UK = United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)の代表チームで出ることになるのに、予選にはイギリス代表としては出てないっていう不思議な構図になってて。で、その状況にどう折り合いを付けてるかっていうと、イングランド代表の結果がそのままイギリス代表の結果として扱われる、つまり、イングランド代表が勝ち抜ければイギリス代表が出場、リーグAには入ってるのにスコットランド代表とウェールズ代表の結果は関係なくて、スコットランド人とウェールズ人の選手でイギリス代表としてオリンピックに出たかったらイングランド代表に頑張ってもらうしかないし、リーグBの北アイルランド人の選手は本来なら予選にすら出れてないのにイングランド代表が勝ち抜いてくれて代表監督に選ばれればイギリス代表としてオリンピックに出れるっていうなかなか不思議な構図になってたりして。さらに言っちゃうと、イングランド代表とスコットランド代表は同じグループA1に入ってるのも問題じゃね? なんて思っちゃったけど。例えば、イングランドに勝ち抜けさせるために直接対決でスコットランド代表が意図的に大量得点差でイングランド代表に負けて得失点差を稼がせることが可能なわけで。イングランドとスコットランドの歴史的な関係とかも考えれば本当にやるとは思えないけど、やれる可能性がある時点で十分問題じゃね? って。もちろん、スコットランドもリーグBに降格したくないから安易にそういうことはしにくいって考え方もできなくはないけど。ともあれ、イギリス以外の参加国とUEFAを含めた当事者が納得して合意してるんだろうからとやかく言う問題じゃないんだけど、なかなか乱暴だしちょっとわかりにくいな、と。
ちなみに、今大会はタイミング的にオリンピック予選を兼ねてるけど、タイミングによってはUWNLはUEFAウィメンズ・ユーロとかFIFAWWCの予選プロセスの一部にもなるらしい。
*11/2 追記:イングランドの苦戦によって、懸念されてた問題がさっそくロイターに報じられてた。
2023-24大会の現状
代表ウィークごとに2試合ずつ消化するスケジュールで、今回の代表ウィークまででグループリーグの全6試合の4戦まで消化してるんだけど、同じ相手とのホーム&アウェイが連戦になってるグループもあったりする。
さすがにリーグBとリーグCに関しては予備知識がほとんどないから、基本的にはリーグAのことだけを、主にWSLウォッチャー視点でちょっとまとめてみた。
グループA1: イングランド / オランダ / ベルギー / スコットランド
イングランドはもちろんほぼほぼWSLでプレイしてる選手で、WSL以外のリーグでプレーしてるのはバルセロナのキーラ・ウォルシュ(Keira Walsh)とルーシー・ブロンズ(Lucy Bronze)、バイエルン・ミュンヘンのジョージア・スタンウェイ(Georgia Stanway)の3人だけだから、日頃からWSL観てる人ならお馴染みの選手ばかり。
オランダはヨーロッパ主要リーグの強豪チームでプレイしてる選手が集合した感じの代表でチームで、WSLに関してもアーセナルのフィフィアネ・ミデマー(Vivianne Miedema)とフィクトリア・ペロファ(Victoria Pelova)、マンチェスター・シティのジル・ロード(Jill Roord)とカースティン・カスパリジ(Kerstin Yasmijn Casparij)、エヴァートンのカチャ・スナイス(Katja Snoeijs)といった実力者が揃ってる。
ベルギーはWSLでプレイしてる選手はそれほど多くなくて、今回招集されてるのはリヴァプールのヤナ・ダニエルズ(Yana Daniëls)、エヴァートンのジュスティン・ヴァンハフェルマート(Justine Vanhaevermaet)、レスター・シティのジャニス・ケイマン(Janice Cayman)、チェルシーからブライトン&ホーヴ・アルビオンにローンされてるニッキー・エヴラール(Nicky Evrard)くらいかな。
スコットランドはもちろんイギリスなんでWSLでプレイしてる選手は多くて、主なところでも得点ランクでトップに立ってるトッテナム・ホットスパーのマーサ・トーマス(Martha Thomas)をはじめとして、アーセナルのキム・リトル(Kim Little)、チェルシーのエリン・カスバート(Erin Cuthbert)、アストン・ヴィラのリサ・エヴァンス(Lisa Evans)といったWSLを代表する実力者が選ばれてる。
4試合を消化した段階の結果は以下の画像の通りだけど、FIFAWWC準優勝のイングランドが苦戦してて、オランダがベルギーに、イングランドがオランダとベルギーに負けたことでちょっと混戦になってる印象。ベルギーが台風の目になってる感じ。
グループA2: フランス / ポルトガル / オーストリア / ノルウェー
フランスは基本的に自国リーグでプレイしてる選手が多いんだけど、それでもマンチェスター・ユナイテッドに加入したメルヴィン・マラード(Melvine Malard)、ウェスト・ハム・ユナイテッドのヴィヴィアン・アッセイ(Viviane Asseyi)とハワ・シソコ(Hawa Cissoko)、アストン・ヴィラのケンザ・ダリ(Kenza Dali)みたいにかなり強烈な存在感を放ってる選手がWSLでプレイしてる。
オーストリアは全然イメージがなかったけど、改めて確認してみたらアーセナルのマヌエーラ・ツィンスベルガー(Manuela Zinsberger)とラウラ・ヴィーンロイター(Laura Wienroither)、リヴァプールのマリー・テレーズ・ヘビンガー(Marie Therese Höbinger)みたいに普通に馴染みがある選手がけっこういてちょっとビックリ。
ポルトガルは今回選ばれてるメンバーにはWSL所属選手はいないっぽい。
ノルウェーっていえば、すぐに思い浮かぶのはチェルシーのグーロ・レイテン(Guro Reiten)とアーセナルのフリーダ・マーナム(Frida Maanum)。2人ともWSLを代表する選手なんで。他にもトッテナムのセリン・ビゼー・イルドゥソイ(Celin Bizet Ildhusøy)とかブライトン&ホーヴ・アルビオンのマリア・トリスドッティル(Maria Thorisdottir)とか、存在感がある選手が多い。ノルウェーも基本的にはオランダと似ててヨーロッパ主要リーグの強豪チームでプレイしてる選手が集合した感じ。
4試合を消化した段階の結果は以下の画像の通りだけど、オリンピック開催国のフランスが負けなしで順調に勝点を稼いでる。このまま順当にフランスが勝ち抜けてくれると他のグループの首位チームが喜びそう。
グループA3: デンマーク / ドイツ / アイスランド / ウェールズ
デンマークもオランダとかノルウェーと似ててヨーロッパ主要リーグの強豪チームでプレイしてる選手が集合した感じ。エヴァートンにデンマーク代表選手が多くて、ニコリン・ソレンセン(Nicoline Sørensen)、カレン・ホルムガード(Karen Holmgaard)、カトリーヌ・ヴェジェ(Katrine Veje)、リッケ・セベッケ(Rikke Sevecke)といった選手がいる。他にも、アーセナルのキャサリン・モーラー・キュール(Kathrine Møller Kühl)とかウェスト・ハム・ユナイテッドのエマ・スネル(Emma Snerle)なんかもいて、WSL濃度はわりと高め。
ドイツは基本的に自国リーグでプレイしてる選手が多いんだけど、それでも何人かはWSLでプレイしてる選手が代表に選ばれてる。例えば、代表ウィークの直前のブライトン&ホーヴ・アルビオン戦でハットトリックを記録したチェルシーのシェーケ・ニュスケン(Sjoeke Nüsken)なんかはWSLで注目の若手選手になりそうな気がしてる。
アイスランドは今回選ばれてるメンバーにはWSL所属選手はいないっぽい。
ウェールズっていえば、まず思い浮かぶのはチェルシーのソフィー・イングル(Sophie Ingle)とマンチェスター・ユナイテッドのヘイリー・ラッド(Hayley Ladd)のベテラン2人。ウェールズはもちろんイギリスなんで、WSL所属の選手は多め。
デンマークがドイツにも勝って4連勝を飾ってるのがこのグループの最大のトピック。基本的にはデンマークとドイツの一騎打ちになりそう。
グループA4: スペイン / スウェーデン / イタリア /スイス
スペインは基本的に自国リーグでプレイしてる選手が多いんだけどそれでもマンチェスター・ユナイテッドのルシア・ガルシア(Lucía García)、アーセナルのライア・コディナ(Laia Codina)、マンチェスター・シティのライア・アレクサンドリ(Laia Aleixandri)みたいにWSLで十分な存在感を放ってる実力者がけっこういる。
FIFAWWCで日本に勝ったことも記憶に新しいスウェーデンは、オランダとかノルウェーとかデンマークと同じようにヨーロッパ主要リーグの強豪チームでプレイしてる選手が集合した感じ。アーセナルのスティナ・ブラクステニウス(Stina Blackstenius)とアマンダ・イレステット(Amanda Ilestedt)、チェルシーのヨハンナ・リッティン・カネリード(Johanna Rytting Kaneryd)とゼチラ・ムショビッチ(Zećira Mušović)、マンチェスター・シティのフィリパ・アンイエルダール(Filippa Angeldahl)みたいに上位チームの主力としてバリバリ活躍してる選手が多い。書き出すと長くなっちゃうからここでは触れないけど、チーム自体の戦術も含めて、WSLウォッチャーとしてはすごく楽しめるチームかな。
イタリアもドイツとかスペインみたいに自国リーグでプレイしてる選手が多めで、WSLで目立った活躍をしてる選手はあまりいないっぽい。
スイスで真っ先に思い浮かぶのはアストン・ヴィラのアリーシャ・レーマン(Alisha Lehmann)になるのかな。ピッチ外でも話題になることが多い選手なんで。その他にも、アーセナルのリア・ヴェルティ(Lia Wälti)とかトッテナムのルアナ・ビューラー(Luana Bühler)とか、数は多くないけど実力者がいる国って印象かな。
全チームがFIFAWWC出場国っていう厳しいグループだけど、スペインが順調に全勝をキープしてて、さすがFIFAWWCチャンピオンって感じの圧巻の強さを見せてる。スウェーデンもイタリアも面白いチームだけど、スペインとはやっぱり力の差がありそう。
ここまで長々と書いてきたけど、実は現状ではUWNLは日本では観れないっぽくて。少なくともオフィシャルな方法では。すごく残念だけど。ただ、(あまり表立って推奨はできないけど)ちょっと探せばいろいろな動画が見つかったりするし、(意図的になのかどうかは知らないけど)何ならその動画がわりと長期間残ってたりもするんで、まったく観れないってわけでもなかったりするんだけど(とか最後にこっそり書いといたりして)。
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